2022年民放連賞審査講評(ラジオ報道番組) 問われる"表現の工夫"と"報じる立ち位置"

藤代 裕之
2022年民放連賞審査講評(ラジオ報道番組) 問われる"表現の工夫"と"報じる立ち位置"

8月18日中央審査【参加/37社=37本】
審査委員長=藤代裕之(ジャーナリスト、法政大学教授)
審査員=錦光山雅子(フリーランスライター)、澤 康臣(ジャーナリスト、専修大学教授)、田中早苗(弁護士)

※下線はグランプリ候補番組


審査員それぞれが推す作品が異なり議論が続いたのは、テーマが多様で、聴きどころがあったからだろう。最終的には、テーマの今日性、語りや音にラジオ的な工夫がされているか、取材が十分に行われているか、を評価した。誰もがソーシャルメディアで発信できる時代に放送局に問われるのは、一層の表現の工夫と報じる立ち位置だ。これからもラジオの可能性を追求した報道番組づくりに取り組んでもらいたい。

最優秀=MBSラジオ/ネットワーク1・17スペシャル~盛土崩壊(=写真) 阪神・淡路大震災をきっかけに続く防災番組は、災害大国の日本において重要な役割がある。大きな被害を出した熱海の盛土崩壊の背景に、高度成長期の乱開発という構造的な問題が横たわることを指摘する。災害の要因は複雑で、テレビなどでは図解が使われることが多い。ラジオは音だけのメディアであり不利と思われたが、専門家の説明を分かりやすく紹介するキャスターの工夫もあり、法規制など複雑な問題を扱いながらも災害への関心が薄い人に興味を持たせる内容となっていた。番組内で行政データを個人でも確認できることを紹介していたが、より行動を促進しアクションにつながる部分を厚くしてほしいという意見があった。

優秀=山形放送/鉄格子に顔押しつけて 21枚に刻み込んだ"抵抗" 戦前に平和を訴えた地元の言語学者に光を当てたヒューマンストーリー。地元の人物を取り上げて発信することは地域メディアの醍醐味といえる。教え子の証言などから当時の社会や思想を理解できるだけでなく、ロシアのウクライナ侵攻という現代的な問題にもつながりがあった。朗読劇と絡めることで人物像のイメージが膨らんだ。ローマ字運動の社会的な位置づけ、文字は格差の要因になるという主人公の問題意識を広げても良かったのではないか。

優秀=ニッポン放送/ニッポン放送報道スペシャル あの日の「誓い」から10年・始まった共生社会への挑戦! 中学校の英語教師である全盲の主人公の強さが印象的だった。同僚の工夫、生徒の協力で乗り越えていく「共生社会」が描かれている。主人公だけでなく、家族、障害者団体などに幅広い取材が行われており、中でも「時間はどう確かめているのか」といった子どもたちの率直な質問が、課題の理解を促進していた。子どもたちとのやり取りは、助ける、助けられるという関係ではなく、ニュートラルな関係を示していたのも高評価であった。惜しむらくはタイトルの分かりづらさである。

優秀=エフエム群馬/エフエム群馬 報道特番 ~多頭飼育崩壊の現状 もう一度考える 命との向き合い方~ 多頭飼育崩壊の現状を当事者たちの声で明らかにする。対策を進める行政や動物愛護NPOのほか、複数の飼い主を取材。丁寧なインタビューにより、なぜ多頭飼育に陥ってしまうのかという経緯を明らかにしている。数が増えすぎて困っているにもかかわらず、飼い主の声がどことなく他人事だという奇妙な状況により、多頭飼育問題の困難さと高齢化や孤立化という社会課題が背景にあることも分かった。これら社会課題に踏み込む次回作を期待したい。

優秀=北日本放送/富山の売薬さんが消える日 「売薬さん」と呼ばれる富山の家庭薬配置業者にフォーカスを当て、くらしの中にある産業の変化を捉えていく。曾祖父の代から150年続くつながりは、医薬品メーカーが商品を減らしたことで危機に陥っている。顧客の要望に対応しようと駆け回る姿に、メーカーの都合が現場に押し付けられている現状が浮かび上がる。メーカーが商品を減らす理由や背景を取材することで、問題がより構造的に伝えられたのではないだろうか。

優秀=南海放送/ドキュメント「加害者家族」 メディアの報道が加害者家族にもたらす問題に正面から向き合った作品。逮捕者の家族の証言だけでなく、社会復帰を支援する人たちの努力から問題を立体的に明らかにする。匿名報道に踏み切った地元新聞社(2008年に休刊)の活動と遺族の訴えを取材したことで、メディアの社会的意義について考えさせられるものとなっていた。メディア自身の課題を扱ったテーマ設定に意欲を感じたが、自らの報道姿勢への踏み込みをもう一歩求めたい。

優秀=ラジオ沖縄/"復帰"を二度経験した奄美人(しまっちゅ) いち早く日本に復帰した奄美、その出身者は沖縄で二度目の復帰を経験したという歴史的経緯に個人史から焦点を当てており、「学びになった」との声が多かった。二度の復帰への対応の混乱、沖縄での奄美に対する根深い差別など、語りづらい地元の歴史に目を向け、テーマとしたことは地域メディアとして高い評価があった。その一方、奄美と沖縄の複雑な関係を知らないと理解が難しい部分があるとの意見もあった。


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