ある日、会社に届いた1通の手紙。「私の父、舟橋一男は生まれてすぐ障がい者になり、話すことも歩くこともままなりません。50年前、そんな父が障がい者の友人と旅行する様子をCBCテレビが番組にしてくれました。障がい者が家族にいることすら隠すような時代。障がい者だけで旅をするという世間的には非常識なこと、それをテレビに取り上げていただいたお陰で、全国の障がい児を持つ家族などから大きな反響があり、日々偏見と闘う父や祖母にとっては、とても勇気づけられたそうです。」
手紙には、当時の反響ぶりを取材した新聞記事のコピーも添えられていた。記事には「大反響」や「激励」といった見出しが躍る。手紙は続く。「当時20歳までの命と言われていた父は、73歳の今、孫もでき幸せに生きております。」 そして......「半世紀前に父が出かけた思い出の旅館に、50年ぶりに親子三代で出かけようと思っています。CBCさん、もう一度取材してくれませんか?」
この手紙がきっかけで制作した『やったぜ!じいちゃん』。タイトルは、50年前の番組タイトルが『やったぜ!かあちゃん』だったことにあやかって。障がいのある息子を世の中に出そうと強く後押しした一男さんの母親、舟橋雪子さんがナレーションも担当したことが、記事には載っていた。
50年前の番組映像は会社の資料室に眠っていた。残念ながら、雪子さんのナレーションが入った音声データは紛失していたが。撮影したのは、私が入社した30数年前には、巨匠と尊敬され恐れられていた雨宮貞夫カメラマン。新米の私では、口を利くことすらできない雲の上の人だった。時代を全く感じさせない巨匠カメラマンの素晴らしい映像に引っ張られる形で、番組制作は始まった。
驚かされたのは、一男さんの前向きで朗らかな姿。74歳になっても、現役で印刷業を営み、ご家族と明るく楽しく暮らしている。お話しは明瞭ではないが、パソコンで自分の思いを理路整然と伝える。そして、もう一つの驚きが奥さまの瑞枝さん。決して明瞭ではない一男さんの喋りを100%理解している。ちなみに、出会ってすぐに一男さんの会話のほとんどを瑞枝さんが理解できたことが二人の結婚の理由だそうだ。数々の幸運と舟橋さん、ご家族の朗らかさに恵まれて、番組『やったぜ!じいちゃん』の制作は進んでいった。
ナレーションを担当したのは俳優の塩見三省さん。一男さんと同い年で、現在、大病からの復活を目指してリハビリ中でもある。そんな塩見さんが「精一杯、そのもう一つ先のギリギリ、スレスレで(ご本人のブログより)」ナレーションに取り組んでくれた。
そういえば50年前の新聞記事には、こうも書いてあった。「CBCでは、番組が好評なので、来年の民放祭出品の計画を立てている。」(編集部注:「民放祭」は「民放連賞」の前身) しかし、昔の記録によれば、残念ながら受賞はしてはいない。だから、今回の最優秀受賞は、舟橋さんとCBCテレビが、「50年がかりで摑んだ」大変ありがたい賞だ。その幸運を舟橋さんご家族、制作スタッフと大いに喜びながら、天国の舟橋雪子かあちゃんと雨宮カメラマンに捧げたいと思っている。
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