2022年民放連賞審査講評(テレビ教養番組) 「誰も取り残さない社会」をまなざす真摯な作品群

遠藤 薫
2022年民放連賞審査講評(テレビ教養番組) 「誰も取り残さない社会」をまなざす真摯な作品群

8月19日中央審査【参加/114社=114本】
審査委員長=遠藤 薫(学習院大教授)
審査員=金川雄策(Yahoo! Japanクリエイターズプログラム チーフ・プロデューサー)、榊原美紀(弁護士)、竹内 薫(サイエンス作家)

※下線はグランプリ候補番組


今回、最優秀候補としてノミネートされた作品はいずれも、弱い立場の人たちに寄り添い、支えることを主題とするものだった。どの作品も丹念な取材としっかりした構成による鋭い問題提起が心を打つ素晴らしい作品で、審査では順位付けに非常に苦慮した。

最優秀=山形放送/三つめの庄内~余計者たちの夢の国~(=写真) タイトルが秀逸である。戦前、農家では後継ぎ以外の子どもたちは「余計者」だった。彼らを養う力が農村になかったからだ。戦争によって満州国が建国されると、庄内の「余計者」たちは開拓団としてその地に夢を託した。しかし、敗戦とともに彼らは再び居場所を失い、家族や仲間たちの死を背負って帰国する。戦後の食糧難に対処するための「緊急開拓政策」が、彼らを新たな「三つめの庄内」へと向かわせる。そこに待っていた過酷な現実、酪農への転換などを経つつも、開拓コミュニティの結束は固く、ようやく「夢の国」に到達したかに見える。しかし、新たな開発計画やTPPなど、将来には不安もある。翻弄される時代を生き抜くコミュニティの悲しみと強さは、ウクライナの悲劇とも重なる。

優秀=BS-TBS/没後40年特別企画 向田邦子に"恋"して 『向田邦子に"恋"して』というタイトルが示すように、向田邦子の「推し」作品である。彼女の魅力、かっこよさを太田光と黒柳徹子という異色の二人によるロングトークと、多彩な向田ファンの語りを交えつつ、解き明かしている。4章仕立ての構成もスマートである。上質のエンターテインメントである。

優秀=山梨放送/やまなしSDGsプロジェクト特別番組「善意の休診日~毒舌院長の奮闘記~」 患者に対して毒舌を振るう歯科医の斉木薫氏は、休診日を障害のある人たちの診療に当てている。斉木医師の体当たりの治療と、自身が高齢化していくなかでの今後の不安を描き出す。一般にあまり知られていない障害者の歯科医療に光をあて、斉木医師を称揚するとともに、個人の善意に頼る現状に警鐘を鳴らしている。気づかれにくい問題を取りあげた制作スタッフに感謝する。

優秀=北日本放送/NNNドキュメント' 22 雨やどり 生きていれば誰でも時には「社会と上手くやれない」と感じることがある。そんな人々が社会に完全に背を向けてしまわぬよう、「雨やどり」の場は重要である。この作品は、社会とのつながりを失いそうになっている人々に、彼らを責めたりすることなく、黙って雨やどりの場所を提供し続ける個人の記録である。彼の姿は、私たちに他者への信頼と私たち自身の責任とを問いかけている。心に響く感動作である。

優秀=毎日放送/映像21"存在しない"人たち~無戸籍で生きるということ~ さまざまな事情から、戸籍を持たないまま育ってしまった人たちは想像以上に多い。彼ら自身の責任ではないにもかかわらず、彼らは「存在しない」ものとして扱われ、救済の門戸は固く閉ざされている。私人の立場から彼らに手をさしのべる女性の奮闘と、無戸籍者一人ひとりの人生を描く。制度の隙間によって社会からこぼれ落ちた人々の生きることの尊厳を丹念に描き、重要な問題を提起する作品となっている。

優秀=テレビ新広島/被爆地にたつ孤児収容所 ~2千人の父、上栗頼登~ 陸軍士官の上栗頼登(かみくりよりと)は、原爆投下によって無残に破壊された広島の地で、何の助けもないまま苦しみながら亡くなった人々に対する悲しみの念から、私費を投じて頼るものすらなく焦土に取り残された孤児たちを預かる広島新生学園を建設する。学園での孤児たちの生活、上栗らの苦闘を、台湾から引き揚げてきた孤児の白石春夫の記憶、吉永小百合の朗読による戦災孤児の作文、学園の記録などから立体的に再現する。被爆三世のプロデューサーが、決して感情に溺れることなく、戦争のむごさと人間への信頼を浮き彫りにする。心に突き刺さる秀作である。

優秀=熊本県民テレビ/現場発 大きくなった赤ちゃん~ゆりかご15年~ 15年前、熊本市の慈恵病院が「赤ちゃんポスト」を創設したとき、さまざまな賛否の声が渦巻いた。赤ちゃんの将来を憂う声、母親と赤ちゃんのセーフティネットとして歓迎する声......この作品は、そうした意見に対する15年越しの回答だといえる。養親のもとで愛されすくすくと育った少年は、さまざまな悩みや葛藤もあっただろうが、実母のことも含めて自分の人生をしっかりと受け止めている。それは私たちにとって胸の安らぐ報告である。しかし、子どもたちをめぐる問題はそれだけでは終わらない。同病院は昨年12月に初めて「内密出産」を実施した。事情を抱えた母子を社会が優しさをもって受け容れることの重要性、法制度も含め、多面的構成で訴える。多くの人に見てほしい労作である。


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