この春から新しく放送業界に入られた皆さん、ご入社おめでとうございます。"アドバイス"というようなたいしたことを言える立場にはありませんが、私の経験を少しだけお伝えできればと思います。
私は幼い頃から日常の中にラジオがある生活を送っていました。番組で音楽ランキングをチェックしてCDを借りたり、買ったり、番組にメッセージを送ったり、公開放送を見に出かけたり――。特にラジオに熱中したのは中学・高校生の頃。毎晩勉強しながら、学生向け番組を聴く生活を送るようになりました(「ながら」と言いつつ"勉強":"ラジオを聴く"の比率は、たぶん2:8ぐらいだったと思いますが......)。
この頃から、「この声の人はどんな表情で話しているんだろう」「いったい何人の人がスタジオにいるんだろう」「どんな風に番組の準備をするんだろう」――と見えないからこそ広がるラジオの向こう側への疑問や興味がどんどん大きくなり、「いつの日かラジオの向こう側で働く人になりたい」と思うようになりました。
日記がきっかけに
時は流れ、就活生に。当時は就職難の状況で、私は就職先を決めなくてはと必死で、ラジオとは関係のない業界のマーケティング職につきました。数年勤めたある日、高校の頃に書いた日記を読み返す機会がありました。ある日のページに「私はいつか絶対にラジオ局で働く。大学卒業してすぐじゃなくてもOK。25歳ぐらいまでには!」と書いてありました。当時、仕事には満足していたのですが、「そうだ、私はこんなことを考えていたんだ」とその頃の気持ちを一気に思い出し、時々「ラジオ 中途採用」と検索するようになりました。そしてある日、経験不問のラジオ局の中途採用の募集を見つけ、25歳の頃に転職してFM802で働いています。
ラジオ局に入って最初の仕事は広報でした。番組やイベントをより多くの人に知ってもらう、局をプロモーションする担当です。もともとラジオが好きで、学生の頃から誰にも頼まれてないのに身の回りの人にラジオの話ばかりしていた私にとっては、好きなことがそのまま仕事になったような気持ちでした。
ceroのボーカル高城晶平さんがFM802で1年間DJを担当されることになったとき、広報資料に掲載する意気込みコメントをいただいたことがあります。「高校生の時に出会う音楽は人生のサウンドトラックになる」と話してくれたのがとても印象的でした。確かに、通学で聴いた音楽、受験勉強中にラジオから聴いた音楽が今も大切で、いつ聴き返してもその時の空気、感情、においすべてを一気に思い出させてくれる、時々開けて振り返りたい、タイムカプセルみたいな存在です。
あの頃求めていたものを
その高城さんのコメントから改めて、あの日の日記を思い出し、「学生の頃の私に届けるつもりで仕事しよう」と思うようになりました。当時の私だったらどんな番組が欲しかったか、どんなイベントに行ってみたかったか、その頃どんな音楽に出会っていたかったか――と振り返るようになりました。
そして、自分が中学・高校生の頃「ラジオ聴いているのってなんかカッコイイ」という優越感があったな、今の学生にもそう思ってほしいな、と思うようになりました。そしてかなり安直ですが、「かっこいいと思われるために、ファッション誌に載せてもらおう!」と思い立ち、いろいろな出版社に飛び込みで、番組やイベントの掲載のお願いをして回るようになりました。
その中の一つの出版社から「私たちの雑誌がちょうど周年を迎えるので、一緒にイベントをやりませんか?」と願ってもない素敵なお返事をいただきました。出版社とラジオ局では仕事の進め方など異なる点がたくさんありましたが、本当にイベントを実施することになりました。今までに関わったことのなかった人たちと一緒にイベントを作るのはとても刺激的で大きな経験になりました。また、きっと学生の頃の私も行きたかったイベントだと納得できました。
このイベントはその後も何年か続けて実施したのですが、リスナーにハンドメイドのお店を出店してもらう企画を実施したことがありました(=冒頭写真)。「ラジオを聴きながら作ったアクセサリーです」「イラストをずっと描いてきて、誰にも見せたことがなかったけれど、ラジオでこのイベントを知って勇気を出して出店する」など、それぞれにエピソードを持ってやって来てくれました。普段見えないリスナーが生活にラジオを置いてくれていること、ラジオの向こう側で作品づくりをしていることなどを知る機会になり、とても感慨深いイベントでした。
コロナ禍などもあり、ここ数年はこのイベントを開催できていませんが、つい最近このイベントを振り返る出来事がありました。「大学でメディアについて学んでいるので、ラジオについて質問させてほしい」と会社の問い合わせフォームに連絡があり、訪ねてきた大学生とお話しした時のことです。「実は私はあのイベントの際に出店していたアクセサリー作家の妹です。当時中学生でしたが、イベントの店番を手伝って、あまりにも楽しかったので、ラジオに興味をもって大学でメディアの勉強をしています」と話してくれました。
イベントはもう5年ほど前のことになりますが、私にとって彼女の話を聞けたのは、「学生の頃の私(みたいな人)に届けたい」と思って取り組んだことが報われたのかもしれない、と答え合わせができたかのように感じる出来事でした。
こうして仕事を始めるまで、そして始めてからの出来事を振り返ってみて、私はこれからもあの頃の自分に(そして今どこかにいるであろうあの頃の自分みたいな人)に、届く番組やイベントを心がけていきたいなともう一度思い、新たな春を迎えることができました。
ご入社おめでとうございます。どこかでお会いできる機会や、仕事をご一緒できる機会があったらうれしいです。
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