【最優秀受賞のことば】九州朝日放送 MANDAN (2025年民放連賞ラジオ生ワイド番組)

米嵜 竜司
【最優秀受賞のことば】九州朝日放送 MANDAN (2025年民放連賞ラジオ生ワイド番組)

この番組『MANDAN』(2024年12月6日放送)は、パーソナリティのきょんちゃんのオープニングトークに触発されたプロデューサーが、生放送中に近所の家電量販店で10万円の炊飯器を購入し、お米を炊いて試食するまでを放送した4時間番組です。客観的にみると、「生放送中に何かを購入し、エンディングまでにそれを使った企画を展開する」という手法は、特に目新しいものではありません。今回評価していただいたのは、おそらく、きょんちゃんとお相手であるハニーの人間力、そしてラジオパーソナリティとしての実力だと考えています。10万円の炊飯器はあくまでもきっかけで、二人の人柄や関係性、番組やリスナーに対する姿勢が、番組全体を「なんだか面白いもの」に仕上げてくれています。通常、パーソナリティの人となりを知ってもらうにはレギュラー番組を長期間聴いてもらう必要がありますが、たった一度で二人の魅力が伝わったということがとてもうれしいです。

放送当時、リスナーからは神回ならぬ「コメ回」と名付けてもらいました。もちろん、面白くなるという予感があったからこそ炊飯器を買いに行ったのですが、ここまで皆さんに面白いと言っていただける放送になるとは思っていませんでした。さまざまな不確定要素がたまたまうまくいって、たまたま予想を上回る面白さになったという感じです。実は、今年のラジオ生ワイド番組にこの"「たまたま」の産物"である神回を応募するのは少しズルいのかな? と思っていました。しかし、先日の九州・沖縄地区の審査で、審査員の方に「神回は偶然ではなく、そこまでの蓄積によって生まれるもの」「神回の全てがうまく転がっていく陰には、それまでの日常がある」という言葉をかけていただき、モヤモヤしていた気持ちが一気に晴れたのをおぼえています。

「たまたま」と言えばという話で、私は『MANDAN』のプロデューサーと、その直前に放送している『ハッピーアワー』という番組のディレクターを担当しています。普段は、『ハッピーアワー』放送終了後に反省会があり、『MANDAN』のオープニングは聴いていないことが多いのですが、今回の放送当日は、「たまたま」反省会が早く終わり、「たまたま」オープニングを聴いていました。そして、「たまたま」自分が30年モノの炊飯器を使っていたので躊躇なく買い替えを決断することができ、さらに言えば、きょんちゃんとハニーのコンビはもともと組む予定ではなく、諸事情があって「たまたま」10月から組むことになり、さらにさらに言えば20年前、きょんちゃんが九州朝日放送(KBCラジオ)に出演するきっかけになった番組オーディションで、当時ADだった私を含めスタッフ全員が口をそろえて「あの人はないよね」と言っていたのに、「たまたま」メインパーソナリティのお眼鏡にかかって、それから20年。こんなことになるとは想像していませんでした。

ラジオの生放送も、いろいろな「たまたま」が重なり合ってできています。たまたま番組を聴いていたリスナーがメッセージを送り、その日たまたま担当していたディレクターがそのメッセージを採用し、それを紹介するパーソナリティがたまたま同じような経験をしていてトークが弾み、それをたまたま聴いていた別のリスナーが......うんぬんかんぬん。私は、こういうちょっとした「たまたま」が好きで、それが多ければ多いほど心が躍る生放送になると思っています。抽象的な表現になってしまい恐縮ですが、その「たまたま」をうまく整えて、何が面白いのかをリスナーの皆さんにしっかり伝えることができた時の達成感と充実感は、制作者冥利に尽きます。これからどんな「たまたま」があるのかを楽しみにしながら、「たまたま」を大事にしっかりと毎日の生放送に臨みたいと思っています。


・全部門の「審査講評」および「最優秀受賞のことば」はこちらから。
・審査結果はこちらから。

最新記事