第60回民放技術報告会 特別企画で「バーチャルプロダクション」の可能性を考える

編集広報部
第60回民放技術報告会 特別企画で「バーチャルプロダクション」の可能性を考える

民放連技術委員会(羽牟正一委員長)は11月15―17日、Inter BEE 2023にあわせて「第60回民放技術報告会」を千葉・幕張メッセで開催した。民放各社による制作技術や送出、配信などの研究、開発実績の報告が行われた。16日には特別企画「テレビにおける『バーチャルプロダクション』の進化と未来~最新CG技術はテレビに何をもたらすか~」を実施。在京テレビキー局5社とNHKのパネリストが登壇し、バーチャルプロダクション(以下、VP)の活用事例を紹介するとともに今後の展望を議論した。

はじめに、コーディネータを務めたテレビ朝日の島田了一氏から、これまでのテレビの取り組みや技術の進化について報告があった。同企画内ではVPを「"バーチャル空間"を活用して"リアルタイム映像制作"を行う新たなプロダクションワークフローの総称」と定義し、近年LEDウォールにリアルタイムで映し出した3DCGを背景に演者を撮影する制作手法が用いられていることを説明。その利点として▷撮影中にカメラを通して合成映像を確認できる▷撮影後の編集作業の負担を減らせる▷照明効果や背景映像の映り込みをリアルに表現できる――ことなどを挙げた。

続いて、パネリストから各局のVP活用事例を報告した。TBSアクトの青木貴則氏とNHKの井藤良幸氏はドラマ制作におけるVPの取り組みを紹介。「インカメラVFX」と「スクリーンプロセス」の2つの手法について、前者はカメラの動きに合わせてLEDウォールに映し出される背景が動くため、自由にアングルを選べる。後者では背景をカメラの動きに連動させないためカメラは固定となるが、コスト軽減や映像のクオリティ向上というメリットがあると説明した。青木氏はドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』を、井藤氏は大河ドラマ『どうする家康』を例にVPのノウハウや課題を説明。両者ともVPを用いた撮影の成功の秘訣として「現場の全員の協力」を挙げていた。

テレビ東京ホールディングスの近藤剛史氏は、クオリティの高いコンテンツを効率的に作るべく、VPを活用していると説明。LEDウォールとグリーンバックの"いいとこ取り"をして、映像の高度化と制作効率化の両立を目指しており、「テレ東」らしい活用を模索しているという。フジテレビの真崎晋哉氏は制作技術の観点から自社の取り組みを紹介。東京オリンピックの際に同社の球体展望室にLEDベースのXRの特設ステージを作り、リアルセットと組み合わせた事例を紹介。特別な世界観を表現できたとする一方、外光と照明のバランスづくりなどに苦労したと説明した。

同企画ではバーチャル空間そのものをコンテンツとして活用した事例も取り上げた。日本テレビの篠田貴之氏は、複数のカメラで撮影した映像を3Dデータに変換する「ボリュメトリックビデオ技術」を用いた野球中継の事例を紹介。通常のカメラでは撮影できない自由視点映像を生成することが可能で、中継だけでなく、試合後の二次展開も期待できるという。テレビ朝日の横井勝氏は、XRとメタバースの融合を目指した取り組みとして、音楽番組『MUSIC STATION』や世界水泳福岡2023の事例を紹介。さらに、リアルとメタバースを生放送で完全連動する統合システムの構築などについて説明した。

ディスカッションでは、LEDを用いたVPのマルチカメラ対応の技術的課題やテレビ局におけるメタバース活用のメリットなどを議論。「リアルタイムCGの進化によって今後何が起こるか」とのテーマでは、「技術や美術、制作などスタッフ全員でモノを作るという基本の形に立ち返る機会になるのでは」(真崎氏)、「テレビはこれまで2Dの画面を通じて視聴者にコンテンツを発信していたが、3Dで届ける時代がくると思う」(横井氏)、「オンエア用に作ったものがさまざまな場面で活用できる」(青木氏)などの意見があった。最後に島田氏が「VPの可能性や課題を浮き彫りにすることができた。テレビのコンテンツはまだまだ面白くなる」と締めくくり、特別企画を終えた。

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