長寿番組の秘訣① 視聴者の人生に寄り添い続ける【テレビ70年企画】

編集広報部
長寿番組の秘訣① 視聴者の人生に寄り添い続ける【テレビ70年企画】

テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星12社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。

今回は「長寿番組」を特集。地上テレビ127社に行ったアンケートの回答の一部を3回にわたって紹介していきます。なお、回答のあった番組の一覧はこちらからご覧いただけます。

※長寿番組は、2023年中に放送20年以上となる自社制作番組と定義
※レギュラー番組(毎日―月1回)に限定し、長年継続する特番などは除く
※タイトル変更やリニューアルがあっても、制作した社で同一番組と見なすものは含む
※放送時間は、制作した社の現在のもの


"新婚さん"

長寿番組の中には"新婚さん"を冠した番組が2つみられた。ABCテレビ『新婚さんいらっしゃい!』(日、12・55―13・25)は1971年1月から50年以上も放送を継続している。結婚3年以内の夫婦をゲストに招き、2人の馴れ初めなどを聞きだすトークバラエティ。2022年4月には番組MCが交代し、番組開始から司会を続けた桂文枝さんと約25年アシスタントを務めた山瀬まみさんに代わり、藤井隆さんと井上咲楽さんがMCを務めている。「夫婦が主役」という軸は変わらず、より多様な幸せを描く。文枝さんの名物リアクション「イスコケ」は現在も要所で見られる。

毎月200組ほどの応募があり、書類や対面での審査を通過した夫婦が番組に"出場"。これまでに5000組1万人以上が出場している。その中でも特に印象的な夫婦として、三田秀平プロデューサーは、自身が番組を担当していなかった2000年12月出場の中井一夫さん・真世さん夫婦を挙げた。真世さんは肝臓がんを患いながら番組に出演し、放送の19日後に亡くなった。そして、2022年3月、一夫さんが娘の夏穂さんとともに再登場し、当時について感想などを語った。三田氏は「その人の人生そのものに寄り添える番組だと痛感した」と振り返る。

長寿の秘訣は「『結婚』というテーマで時代ごとの愛の形をひたむきに描き続けたこと、出場したいと思ってくれる新婚夫婦の熱意、二人の愛情の深さ」と三田氏。今後については「『一生の思い出になった』といつも笑顔で帰ってもらえているのでうれしく思う。これからも多くの新婚さんに『出たい』と思ってもらえるように取り組んでいきたい」と意気込む。

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<『新婚さんいらっしゃい!』MCの藤井さん㊧、井上さん>

沖縄テレビは『ライオンのハイサイ新婚さん』(日、9・55―10・00)を1991年10月に開始した。親戚や友人など総勢300人以上を招くのが一般的な沖縄の結婚披露宴の模様を届けるとともに、新婚夫婦に馴れ初めや理想の夫婦像をインタビューするミニ番組。当時の営業担当がスポンサー開拓に向け、生活用品メーカーであるライオン社に企画を提案。あらゆる生活の場面でライオンの製品が選ばれるよう、これから新生活を迎える新婚夫婦にフォーカスする番組の制作に至った。番組の終盤、夫婦にライオン社の生活用品詰め合わせセットを贈呈することとし、今も継続している。夫婦からは「番組をきっかけに同じ製品をずっと使っている」という声もあるという。

両親も番組に出たことがある"ハイサイ新婚さん2世"の出演という長寿番組ならではの出来事も。番組を担当する阿佐慶涼子営業局次長兼事業部長は「32年という番組の長さを感じ、感慨深いものがあった」とコメント。また、コロナ禍で披露宴自体が中止・延期となった期間は、「ハイサイ新婚さん その後編」と題し、過去に出演したカップルの近況を取り上げた。さらに2023年5月から「ハイサイ新婚さん百日祝編」をスタート。生後100日を迎えた子どもの記念撮影を通じ、家族の仲睦まじい様子を紹介するなど、新企画にも取り組んでいる。

放送後、出演者からは「知人から久々に連絡がきた」「祖父母がとても喜んでいた」との反響が多く寄せられるという。阿佐慶氏は長寿の要因について「ハッピーな場面をみんなで共有でき、視聴者やスポンサーに喜んでもらえているため」とし、「これからも県民に愛される番組づくりを目指したい」としている。

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<『ライオンのハイサイ新婚さん』>

子ども・若者向け

テレビせとうちは1993年12月に幼児向けアニメ『しましまとらのしまじろう』をスタートした。ベネッセコーポレーションの通信教材「こどもちゃれんじ」に登場するキャラクター「しまじろう」を主人公に、子どもたちの「やってみたい」「大好き」といった気持ちを代弁する番組だ。2012年4月から『しまじろうのわお!』(土、8・30―9・00)として、子どもの興味や知識が広がる"わお!"(驚きや発見)を発信。開始からしばらくはアニメだけだったが、現在では子どもたちの興味が広がる実写のコーナーや歌、ダンスなども取り入れ、番組を進化させている。

テレビせとうちはこれまでを「『友だちと遊ぶ楽しみ』『家族愛』というコンセプトはぶれずに、時代の変化の中で"いま"大切なテーマや切り口を常に考え続けてきた」と振り返る。最近では、多様性の尊重、異文化、生物の生態など、子どもが未来を生きるヒントになる内容を届けている。2013年には「水」を題材にした放送回で国際コンペティション「World Media Festival 2013」の教育部門カテゴリー最高賞であるグランド・アワードなどを受賞。水がすべての生物にとって大切なものだと伝えた回で、同社は「これまで続けてきた番組制作が間違っていなかったと実感した」とコメントした。

番組は子どもだけでなく、親にとっても"わお!"があるテーマを扱っている。親子が一緒にやってみたくなる内容を心がけており、「親子で話をするきっかけになる」「自分も一緒に学べる」といった反響がある。同社は今後について「今見ている子どもたちが将来、大人になって子どもが生まれた時、親子で見てくれる番組にしたい」と期待する。

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<『しまじろうのわお!』>

若者向けの情報番組として1987年4月に始まったのはテレビ熊本の『若っ人ランド』(土、16・30―17・25)。初期は、県内の高校生がクイズやゲームに挑む学校対抗勝ち抜き戦の模様を放送していた。その後、数回のリニューアルを経て現在は年齢にかかわらず"気持ちが若い人"全般を応援する番組として継続している。開始当初は10、20代だった視聴者が、現在50、60代になっていることを考え、若い人にとどまらず、多くの人に見てもらうことを目指す。高津孝幸プロデューサーは長寿の要因について「"わさもん"(熊本弁で新しいもの好き)な県民に、明日の話題にしたくなるような旬な情報を提供してきたこと」と語る。

2020年7月の「熊本豪雨」の際には、メインMCを務める高村公平さんの人吉市の実家が被災したことを受け、人吉市の被災状況を伝えた。また、その後放送した復興応援企画で、A.B.C.-Zの塚田僚一さんがゲスト出演し、それをきっかけに「自分たちも力になりたい」と、2020年10月からA.B.C.-Zがレギュラー出演している。

この数年は時代に合わせ、インフルエンサーを積極的に番組で起用。出演をきっかけに、番組スポンサーは自社CMの動画制作をそのインフルエンサーに依頼するなど、番組を意識してもらえているという。高津氏は今後について「配信を検討し、全国にいる熊本出身の人々にも見てもらう機会を作りたい」とコメントしている。

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<『若っ人ランド』>

名前の読み上げ

趣向は異なるが、名前を読み上げるミニ番組が富山と栃木で毎日放送されている。チューリップテレビは開局した1990年10月から誕生日を祝う『ハッピータイム』(月―金、18・53―19・00/土、17・23―17・30/日、16・54―17・00)を継続している。誕生日を迎える家族や友人の写真とメッセージを視聴者から募集し、アナウンサーが読み上げる。大きな災害や事件が発生した数回を除き、開始から毎日放送している。

当初は夕方ワイド内のコーナー企画として始まり、生放送中にカメラで一人ひとりの写真を映し、メッセージを読み上げていったという。その数年後にミニ番組として放送することになった。チューリップテレビといえば『ハッピータイム』というほど、県内での認知度は高く、土肥康弘編成部長は「"まとめて"ではなく、"一人ずつ"丁寧に紹介する演出が、支持を得ていると思う」と分析。長年続いているため、子どものころに紹介された人が親になり、自身の子どもの誕生日に応募するというサイクルもみられるという。

これまでは郵送受付としていたところを、今年5月から同社アプリ「チュプリ」での受付に変更。より応募しやすくなったことから、すべての応募を紹介しきれない日もあるほど応募数は増えたという。土肥氏は「放送と連動した企画やサービスなども検討しながら、これからも番組を続けていきたい」と意気込む。

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<『ハッピータイム』放送画面のイメージ>

とちぎテレビは訃報をアナウンサーが読み上げる『おくやみ』(月―金、21・45―21・50/土・日、21・15―21・20)を開局した1999年4月からスタートした。開局当時の報道制作局長が「究極のローカル番組」として提案。地元紙・下野新聞社の協力で、翌日朝刊用の訃報情報を夕方に提供してもらっている。視聴率調査では、同社制作番組の中でも上位に入るなど県民の関心も高く、小島宏子編成部長は「高齢者を中心とした世代や、企業の総務担当者などがよく見てくれているようだ」と話す。また、地元出身のお笑いコンビ・U字工事が他局で同番組を紹介したことなどをきっかけにSNSでも話題に。週末の放送を望む声から、2023年4月より土、日曜にも拡大した。

開始当初から変わらないのは「シンプルな作り」。敬意とお悔やみの気持ちを持って粛々と情報を届けている。BGMも当初から同じで、バッハの『平均律クラヴィーア曲集第2巻よりNo.24プレリュード』。通常の速度だと2分ほどで終了するので、放送時間(実質4分)になるよう、報道担当が自らPCで打ち込み制作した。視聴者から曲名の問い合わせも時折あり、中には「親の葬儀で使いたい」との声もあるという。

訃報の数は日によってばらつきがある中、4分に収める必要があるため、読み上げの目安時間の計算式は社内で代々受け継がれている。小島氏は「報道部員、アナウンサー、技術スタッフらが心を込めて制作する"究極のローカル番組"だ。立ち上げた先輩たちの思いや番組づくりの理念も含め、大切にしていきたい」と語る。

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<『おくやみ』>

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