Z世代の中高校生たちとテレビの向き合い方の可能性について考える「子どもとメディア⑪」

加藤 理
Z世代の中高校生たちとテレビの向き合い方の可能性について考える「子どもとメディア⑪」

若者のテレビ離れが言われて久しい。だが、周知のように、青少年たちの間で映像離れが進んでいるわけではない。テレビや新聞などのマスメディアから離れる傾向は顕著に見られるものの、YouTube、InstagramTikTokなどさまざまな映像に囲まれて成長している、1990年代後半から2010年代初頭に生まれたいわゆるZ世代の若者たちは、どん欲に映像を求めている。筆者が勤務する大学でも、TikTokの話題で盛り上がる学生たちの姿をしばしば目にする。

世界人口構成比で約32%(2022年の統計)を占めるとされているZ世代は、約15兆円もの購買力を持っていると言われている。それだけに、この世代にいかにアプローチしていくかは、企業の戦略上重要な位置を占めている。それは、企業をスポンサーにして番組を制作する民放にとっても同様であることは言うまでもない。

民放各社は、コア視聴率(13~49歳とする場合が多いとされる)を強く意識していることが指摘されている。多様なジェンダーや価値観、国籍、そして幅広い年代ごとに異なる行動様式と、視聴者のライフスタイルの全てを視野に入れて、多様な視聴者に向けて番組を発信する困難さは想像に難くない。

マスメディアであるテレビは、大勢の多様な視聴者に対して、同じ情報を発信する力と特性を持つが、同時にそれは、多様な受け手ごとに情報を発信したり、多様な視聴者の個別のニーズに応じて情報発信したりする小回り力に欠けるマスメディアの弱点をも表している。

タイムパフォーマンス重視

Z世代の中高校生たちに共通する価値観を示す言葉に、「タムパ」がある。費やす時間に対して、どれほどの満足感が得られるかを指す言葉、タイムパフォーマンスの略語である(※「タイパ」とも)。短時間で強い満足感を得られる「タムパが高い」消費行動を中高校生たちは求めている。自分たちが欲しい情報だけを選択して取得しようとするZ世代の中高校生たちにとって、自分たちが得たい情報にたどりつくまでに多くの時間を浪費してしまうテレビは、タムパが悪いメディアということになる。

今年のフジテレビ『FNS27時間テレビ』は「日本一たのしい学園祭!」と銘打って放映された(7月21~22日)。「FNS日本縦断!青春スゴ技リレー」「超!学校かくれんぼ」などさまざまなコーナーで、多数の小中高校生たちが登場した番組を筆者も楽しく視聴した。TBSテレビ『ニンゲン観察バラエティ モニタリング』の学校に潜入するコーナーも、多くの高校生たちのリアクションで楽しませてくれる。中高校生たちを登場させるコーナーを番組内で複数企画することは、中高校生の視聴者の存在と、タムパを制作者側が強く意識してのことであろう。

中高生が登場してさまざまなリアクションを見せてくれるこうした番組やコーナーは、大掛かりなTikTokを見ているようで視聴していて楽しい。だが、テレビというメディアは、TikTokやYouTubeなどでは見ることができない、彼らの心に深く届いていく番組を作る力を持っているのではないか。そうした番組を作っていくことは、テレビから離れていこうとしているZ世代の中高校生たちを、再びテレビというメディアに引き戻すことにもなるのではないだろうか。

学校教育によって培われた価値観・行動様式とは

教育の面から、Z世代の中高校生たちが持つポテンシャルと彼らの特性について考えたい。この世代を特徴づけるさまざまな面は、学校教育によって培われた面が強いと考えられるからである。

教師主導の受動的な学びから能動的な学びへの転換が、この世代の教育を特色づけている。その象徴は、2000年から段階的に始められた「総合的な学習の時間」である。自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育てることがこの学びのねらいである。学び方やものの考え方を身につけ、問題の解決や探究活動に主体的、創造的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにするこの時間では、仲間と協同的に学ぶことも重視されている。

こうした教育の中で成長してきたZ世代は、自らの主体的な意志で行動を選び取ることを大事にし、その価値観と行動様式はメディアの受容の仕方にも反映されている。

マスメディアから発信される情報は、受動的に受容せざるを得ないが、Z世代は、マスメディアが流す情報を受動的に受容することに満足せずに、情報を自ら探求して選び取っていく行動をごく自然に行っている。そうした行動特性に適したメディアとして中高校生たちに適合しているのが、TikTokやYouTubeなのである。

情報の受容以外でも、自分の好みと価値観の中で自ら選択するということが、Z世代の行動パターンとなっている。そのよい例が、知名度の高いブランド商品よりも、自分の好みと価値観に合う商品を選ぶ傾向が強いことである。各大学の学生気質にもよろうが、筆者が所属している大学や、非常勤で講義をしている大学の学生たちの中に、いわゆるブランド品のバッグなどを見かける機会はさほど多くない。

高い社会的関心もZ世代の特長の一つである。この世代と接して話をする中で、ジェンダー問題、食品ロス、差別、地球環境の問題などへの高い関心に、いつも驚かされる。急激に価値観を変化させていく社会の中で成長していることもあろうが、やはり学校教育の中でこうした問題に触れてきた影響は大きい。

今のテレビ番組は、中高校生を意識したコーナーを制作する際に、彼らZ世代の社会問題への高い関心について、見誤ったり、軽視したりしてはいないだろうか。中高校生に安易に迎合しようとする番組作りになってはいないだろうか。

考えたいZ世代へのアプローチ

Z世代が持つポテンシャルと行動様式をテレビが積極的に取り込んでいくことは、TikTokやYouTubeにないテレビの持つ可能性と力を広げてくことになるのではないだろうか。

筆者は、ローカル局にその可能性を強く感じてきた。一昨年まで筆者が審査に関わっていた日本民間放送連盟賞の特別表彰部門「青少年向け番組」には、毎年すぐれた番組が多数エントリーされてきた。テレビ山梨の『ウッティ発! 一枚の写真 左手一本のシュート』(2011年)、北海道テレビ放送の『ありがとう いのち~みんな きみが大事~』(2013年)、山口放送の『熱血テレビスペシャル みすゞの心を探して』(2020年)など、受賞した作品の数々はいまだに心によみがえってくる。その多くはローカル局による制作だった。

ローカル局が制作した番組には、地域の問題や人に寄り添い、長期間丁寧に取材して作り上げた番組が多い。その中で、地域の青少年を取り上げ、彼らの生きざま、成長、挑戦、苦難、挫折、成功などを描くことは、見ている青少年に大きな勇気や感動などを与えてくれる。

山口放送の『高校生が挑んだ初めてのテレビ番組作り 半年間の記録』(2013年)は、高校生たちが、山口放送に特設した部室を活動拠点に、番組の企画から、リサーチ、取材交渉、取材・撮影、編集、広報など番組制作のあらゆる過程を経験し、さまざまな苦労や喜びを分かち合いながら成長していく姿を丹念に捉えていた作品だった。

筆者は審査に関わっていないが、2023年の長野朝日放送『はじけろ!青春 特別編 高校放送部と一緒に番組作っちゃいましたスペシャル』も、山口放送の作品と同じように、高校生たちが番組を作る企画を追いかけたもののようだ。講評には、「部活や学校生活に全力を注ぐ仲間の姿を高校放送部が取材し、2分半の動画作品にまとめ、レギュラー放送している『はじけろ!青春』の特別編」で、「企画から出演・制作技術まで高校生と放送局が一緒に取り組んでいる」と紹介されている(審査講評はこちら)。

中高校生が自ら発信するこうした企画や番組作りは、主体的に学びに関わり、自らの関心に基づいて調査したことをまとめてプレゼンテーションする経験を学校で積んでいるZ世代の可能性を積極的に番組に取り込んだものとして注目したい。そして、こうした企画に参加する中高校生が増えることで、彼らがテレビを自分たちのメディアとして見直す契機になっていくことにも注目したい。

青少年のポテンシャルと可能性を活かした番組を

マスメディアとしてのテレビが、教育の中で身についたZ世代の行動様式と価値観に対応できなくなり、テレビ離れを嘆いているのが昨今の風潮であろう。だがその中で、Z世代の行動様式と親和性の高いTikTokやYouTubeにすり寄ったような番組を作ることだけが、テレビがZ世代に対して取るべき行動ではないだろう。自分たちが主体的に関わり、選び取ることができるメディアとして、Z世代の青少年に注目されるように、テレビ番組が変わっていくことが必要ではないだろうか。

そのためにも、テレビはZ世代の青少年のポテンシャルと可能性にもっと注目し、積極的に番組作りに活用してみることが求められているのではないだろうか。

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