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動画ビジネスの外様、YouTubeの魅力
2025年10月のMIPCOM2025で最も注目を集めたのはYouTube(以下、YT)の幹部が登壇したセッションだ。会場となったメイン会議場が開始前には2階までびっしりと埋まる盛況ぶり(冒頭写真/筆者撮影)で、これまで動画産業の「外様」とみなされてきたYTが、世界最大級の国際見本市で圧倒的な存在感を示した画期的な瞬間だった。
そこで、MIPCOM2025現地リポートの最終回となる今回はそのYouTubeと、にわかに注目を集めつつある「マイクロドラマ」のトレンドに焦点をあてる。なお、欧州ではすでに2026年2月にMIP LONDON(2025年のリポートは既報)が開催されたこともあり、そこまでの最新情報も若干加えながらまとめた。
「消費者中心の動画消費が動画ビジネスを変える」――そう主張するセッションの司会者エヴァン・シャピロ氏(米ニューヨークの業界アナリスト)は、コンテンツ取引をしないYTが見本市でこれほどの注目を集める背景として、市場の停滞を挙げた。同氏は、SVODからの新規発注が横ばいか減少傾向にあるコンテンツ取引市場を「業界の統合(M&A)が進んだことで取引相手(バイヤー)を減らしており、課題を抱えている」と指摘。「大手メディアの戦略は従来のコンテンツ取引(BtoB)から視聴者に直接コンテンツ消費を促すDtoC(BtoC)に移りつつあり、MIPCOM2025はその転換点となる」と述べた。
この変化は、他のアナリストが分析するトレンドとも呼応する。前回(第2回)で、大手メディア会社が視聴者へのリーチを最大化する「ハイパー流通」に取り組むようになったと報告したが、世界で最も強力なリーチ力を持つYT¹ は視聴者(特に若者層)と直接的な関係を醸成できる場として再認識されている。放送局がYTでマネタイズする事例が生まれており²、YTの視聴データがIPのハイパー流通に役立っていることも見逃せない。同じく第2回でテレビ朝日が『ドラえもん』のフランス語版をYTで大展開し、SVODなどとのライセンス契約につなげた事例に触れたように、YT側も人気IPとのビジネスの開拓を積極的に求めている。
YTの欧州・中東・アフリカ(EMEA)部門のペドロ・ピナ担当副社長も「素晴らしいアイデアとカメラさえあれば、世界中の視聴者が待っていることをYTが証明し、"クリエイターエコノミー"³ の原型を作った」と述べ、この20年でYTがアマチュア動画の共有プラットフォームからビジネスプラットフォームへと成長したことをアピールした。そして、「委託制作で資金を提供し、利益を後で回収するビジネスモデルではない」としながらも、優れたクリエイターと利益を共有するYTのビジネスモデルは「IPを生み出す全ての人と組織に開かれている」「EコマースなどIPのマネタイズに役立つ20以上のノウハウがある」と聴衆に呼びかけた。

<YTとのパートナーシップを呼びかけるペドロ・ピナ氏(スクリーン内)、
壇上中央はBBCスタジオのジャスミン・ドーソン氏、左端が司会のエヴァン・シャピロ氏>
このセッションでピナ氏とともに登壇したのは、英BBCの商業部門の制作会社「BBCスタジオ」のジャスミン・ドーソン デジタル部門上級副社長だ。BBCの自然ドキュメンタリーはYTと長年の付き合いがあり、2009年に立ち上げた「BBC Earth 」⁴ のチャンネル登録数は1,430万人に達している。放送本編に加え、再編集されたテーマ別の動画⁵ を多数有し、人気コンテンツの再生回数は1億回を超える。ドーソン氏によると、10分前後のデジタルファーストの短編作品を制作し、YT上で各種のテスト⁶ を行って動画の価値を手際よく見極めているとのこと。また、ドキュメンタリーだけでなく、同局の人気子ども番組『ブルーイ(Bluey)』や自動車を扱ったバラエティ『トップ・ギア(Top Gear)』でも同じ手法で視聴数を増やしているそうだ。同氏がYTを「戦略・目標・野心を共有するパートナー」と語ったのが印象的で、「YTの仕組みを理解して、次に何ができるかを考えることが重要」と、人気YouTuberのような発言をしていた。
クリエイターを"青田買い"
YTのビジネスモデルと合わせて、世界に数千万以上のフォロワーを持つYouTuberたちの創造力やマネタイズのノウハウにも多くの関心が寄せられている。米エンターテインメント産業を調査する「Luminate」のホイビッチ上級副社長は、YTなどで人気を得たクリエイターやIPのSVODへの進出を成長トレンドの1つに挙げている。

<ミスタービーストの『ビーストゲーム』>
その顕著な成功例はYTで4億6,000万の登録者を持つクリエイター「ミスタービースト」(本名ジミー・ドナルドソン)が制作した賞金サバイバルゲーム『ビーストゲーム(Beast Games)』だ。独占配信したAmazon Prime Videoは、賞金総額500万ドル(約7億8,000万円)という史上最大級⁷ の番組で同プラットフォーム最大の視聴⁸ を稼いだという。ほかにもYTキッズで人気の『Ms.Rachel』(チャンネル登録者数1,890万人の幼児向け教育動画)をNetflixが起用している。コンテンツを売る側からすれば、プロの制作ノウハウを持たないYouTuberが次々と有料プラットフォームに進出しているのは見逃せない動きだ。
その意味で、YTは新たな才能を青田買いする場にもなっており、MIPCOM2025のセッションから大手メディアがタレント開発に力を入れていることがわかった。前出のドーソン氏(BBCスタジオ)は、YouTuberとのコラボを容易にする「クリエイター・イン・レジデンス」(YouTuberとの短期の提携)制度を立ち上げ、相互に学び合える環境を整えたという。フランスの番組制作大手「Banijay」の取り組みも興味深かった。1960年代にヒットしたBanijayのIP(番組)など異なるジャンルの5作品に、YTのクリエイターをマッチング(短期契約)して、新しいテイストを盛り込んだコラボ作品を作る実験プロジェクトだ。開発予算が1作品あたり最大5万ユーロ(約910万円)と、Banijayの本気度がうかがえる。
YouTube活用の鍵はデータ
フランスのメディア調査会社Glanceのヴォルプレ代表によると、英国民(4歳以上)の平均テレビ視聴時間は1日あたり3時間56分で、YT利用者は5時間8分にまで増えている。ただし、YTのヘビーユーザーは視聴時間のほぼ半分がYT視聴とのこと。年齢的には4〜15歳の若年層の利用が多く、上位25%のヘビーユーザーが、YTの消費量の60.5%を占めている。YouTube UKの上位10チャンネルのうち7つが子ども向けコンテンツ(アニメや教育番組)で、「視聴層は極めて特定されている」と語っている。こうした英国の傾向は、筆者が知る限り必ずしもグローバルトレンドとは言えない。
例えば、最もYT利用者が多いインド(約5億人)では、若者(18~24歳)がテレビよりYTの視聴を優先する傾向は欧州と似ており、YTの利用が最も多い年齢層は25~34歳(21.7%)となる。また、インドの18〜44歳のYT利用がショートビデオ(96%)⁹ と、視聴コンテンツでも違いがみられる。こうしたことから、メディア会社がYTでリーチ拡大を目指すのであれば、進出する地域のデータをよく見極めて戦略を立てることが重要となる。会場でよく耳にしたのは「YouTuberは、昼間はクリエイターで夜はデータサイエンティスト」という表現だ。Banijayの幹部が、クリエイターエコノミーで実績を上げるYouTuberのノウハウを「制作のプロが謙虚に学び、成功につなげるまでに時間がかかることを肝に銘じて、粘り強く取り組むことが大切だ」と話していたのは新鮮だった。
MIPCOM2025を振り返りながら、放送局もYTの活用にもっと真剣に取り組む必要があると感じていたところ、2026年1月21日にBBCがYTと戦略的な提携をしたというニュースが飛び込んできた。BBCスタジオが抱えるYTチャンネルの年間視聴回数はすでに150億に達しており、視聴時間も前年比でほぼ倍増している。今回の提携は、BBC本体が自前の配信サービス(iPlayerやBBC Sound)だけでなくYTを活用してキッズコンテンツやニュースなどBBCコンテンツのリーチを高めようとするもので、YTファーストのコンテンツにも投資するとしている。
BBCが結んだ提携のなかで、筆者が最も感心したのは、提携の中身を英政府が2025年に打ち出した「クリエイティブ産業の振興計画」(既報)に連動させた点だ。BBCとYTの人材育成プログラム¹⁰ をベースに、デジタルファーストのコンテンツ制作を目指すクリエイターと従来型のテレビプロデューサーとの連携を推進するという。また、国立映画テレビ学校の主導で、150人のメディア専門家がワークショップやイベントを通じてYTのスキルを磨くとのことだ。授業はオンラインとBBCの拠点で実施される。
こうしたアプローチは、日本でも民放を含めた形で検討していいのではないか。見本市を丁寧に現地視察していた総務省の近藤玲子・官房審議官(情報流通行政局担当)は「コンテンツは資産になる」との実感を見本市で強め、「海外展開できるコンテンツづくりの強化を全力で支援したい」と強調していたことを、この最終回であらためて報告しておきたい。
MIP LONDONからの警鐘
<今年2月のMIP LONDON最終日にシャピロ氏は「変革か死か」というテーマで講演>
ちなみに、冒頭で発言を紹介したシャピロ氏は、2026年2月22~24日に開かれたMIP LONDONで、世代交代の視点からよりはっきりと既存メディアが置かれている状況は危機的だと指摘した。同氏は「世界の人口の7割は今やミレニアル世代より下」とし、英国でYTのリーチがBBCを初めて超え¹¹ 、世代交代が英国民の動画消費スタイルのみならず、ビジネスモデルの変化をも決定的なものにしていると強調した。また、新世代の視聴者主導で動画のビジネス環境がとてつもないスピードで塗り替えられていると指摘する。これまでの動画ビジネスモデルと、YTのクリエイターが極めたマネタイズモデルとの融合が「アフィニティ経済¹² 」を生み出しており、「IPのリーチが幅を効かせる時代は終わりに近づいている」と述べる。これからは、番組(IP)やキャラクター、あるいはコンテンツのクリエイターを視聴者がどこまで支えるかがひとつの物差しとなり、「アフィニティ」が富をつくるようになる。さらに同氏は1月に発表された前述のBBCとYTの取り組みは不十分だと厳しい評価を下してもいる。世代交代がもたらす決定的な変化に適応するには、もっと捨て身で新たなビジネス環境に飛び込まなければならないと呼びかけ、さもなければテレビは滅びると警告した。
とても厳しい指摘だが、もちろん動画産業が滅びるわけではない。そうしたなか、アフィニティ経済の先駆けとも言えるのが以下に述べる「マイクロドラマ」なのではないかと筆者は感じている。
急成長のマイクロドラマにハリウッドスタジオが接近
そこで、ここ1~2年で急成長を遂げている「マイクロドラマ」について最新のトレンドと成功事例を紹介したい。マイクロドラマとは、スマホでの視聴に特化された縦長・短尺(15~60秒程度、最大で180秒/関連既報 )フォーマットのドラマシリーズで、メロドラマや犯罪、復讐ものなど、やみつきになる脚本とインパクトのある絵づくり、続きを期待させる演出(クリフハンガー)で構成されている。途中から課金に切り替わるフリーミアムモデルのサービスが多く、1シリーズ(全80〜100話)の最終視聴料が約80㌦(約12,000円)と割高な設定で、固定客がつけば収益率を上げやすい¹³ 。デジタルメディアやIT会社が起業し、ベンチャーキャピタルが投資家というのも新しい。
グローバル市場調査会社のOmediaは2025年の動画ビジネスのトレンド紹介で、中国で盛り上がりをみせたマイクロドラマの人気が米国にも広まっており、2025年の収益はFAST(無料広告モデルのストリーミング)の2倍に達し、ニッチなコンテンツに熱心なファンが集まっていると指摘していた。
2025年は急成長するマイクロドラマと大手の米ハリウッドスタジオの提携も目立った。欧米市場の大手とされるDramaBoxがDisneyと提携を結んだほか、国際的なデジタルアウォードの「Webby Awards」で25年にベストストリーミングサービスと称えられたプラットフォームのMyDramaがFOXと資本提携を結んでいる。MyDramaの親会社はウクライナのデジタル出版会社「Holywater」(以下、HW)で、3つのプラットフォーム(ドラマデジタル出版、マイクロドラマ、生成AIで制作された双方向性のあるドラマサイト¹⁴ )を運営している。
MIPCOMでは、HWの共同創設者(CEO)が、FOXエンターテインメント・スタジオの社長と登壇し、提携事業についてプレゼンした。HWはMyDramaに数百万の利用者とドラマシリーズ100作を抱えており、FOXとの提携を通じて、米国市場向けにFOX独自のタレントやIPをマイクロドラマに投入して新たに200シリーズを制作する計画¹⁵ だという。HWの株主にもなったFOXは2026年1月にYTで人気があるショートドラマのクリエーターであるダール・マン(Dhar Mann)氏(チャンネル登録数2,670万人)と契約し、HW向けに若者向けのショートドラマ40本を制作発注している。今年中に年間10億㌦の収益規模を目指しているとのことで、FOXや人気YouTuberとの提携が集客につながれば、目標達成も夢ではないだろう。
2月のMIP LONDONでマイクロドラマと縦型ドラマに特化したセッションが初めて設けられたことからも、マイクロドラマが各方面から大きなビジネスチャンスと捉えられていることがうかがわれる。

<日テレ「VIRAL POCKET」のイメージ/プレスリリースから>
そんな折、MIP LONDONの直前に日本テレビ放送網が縦型ドラマに特化した新組織「VIRAL POCKET(バイラルポケット)」を立ち上げたことを海外向けに発表し、欧州の業界誌で取り上げられていた。SNS総再生回数が26億を超えたシリーズ『毎日はにかむ僕たちは。』を有していることは、大きなセールスポイントになる。また、その実績にブランディングとタイアップしたマーケティング支援型のコンテンツが入っていたのもグローバルな時流に沿っている。2020年に設立されたHWは、立ち上げから5年でオリジナルドラマシリーズ100作を制作した実績がある。「VIRAL POCKET」の今後の課題は、作品数をいかに増やしていくかだろう。日本の放送局では初めての組織化だが、マイクロドラマは今後、グローバル需要が高まるコンテンツだけに、ぜひともさまざまな海外パートナーを見つけて育ててほしい。
(【MIPCOM2025リポート】はこれで終わります)
¹ フランスのメディア調査会社Glanceのヴォルプレ代表は「2025年のグローバル勝者はYTとNetflix」と明言し、米・英・ブラジルではYTの視聴シェアがNetflixを大幅に上回ったと指摘。グローバル市場調査会社Omediaの調査責任者マリア・ルア・アグエテ氏も、YTのプラットフォームは世界中のFASTチャンネルを足し合わせた8倍のコンテンツ量を持っていると述べ、今後、MetaやTikTokなどが追い上げても最大手としての地位は揺るがないと予測している。
² 欧米の視聴データからは番組全編をYTで無料配信しても、放送での視聴に悪影響が出ないことがわかっており、むしろテレビ離れした層にリーチできる手段とみなされている。また、英国ではYTで配信する放送局のコンテンツに挿入される動画広告を放送局の営業が販売できる提携を結んでおり、局側の新たな収入源にもなっている。
³ クリエイターが視聴者(ファン)と共に独自のコミュニティをつくり、その絆をベースにグッズ販売やライブ配信など多様な手法でマネタイズするビジネスモデル。シャピロ氏はYTをクリエイターエコノミーの経済圏とみなし、YTはその利益の共有者だと指摘する。
⁴ 『Planet Earth』などBBCの自然ドキュメンタリーを有料チャンネル向けに再編成し『BBC Earth』として世界中で放送・配信しており、YTでは無料で提供されている。
⁵ ナレーションや音楽を入れず、海中の生物を再編集した10時間動画が400万以上のビューを弾き出しているほか、「Live」チャンネルでは再編集された動画がストリーミングされ、自動再生を設定していればFASTチャンネルのように次々にコンテンツが配信される。
⁶ ウェブサイトの広告効果を比較・検証するA/Bテストや地域限定テストなどを行い、YTと新規視聴者層の開拓先などについて毎週緊密な打ち合わせをしているとのこと。
⁷ 破格の賞金額に加え、挑戦者が1,000人とリアリティ番組では最大規模とされる。
⁸ 世界リリース後25日間で5,000万視聴を記録。シーズン2は今年1月に配信された。本編はAmazon MGMスタジオが制作しており、ドナルドソン氏は上級プロデューサーとして参画したほか、挑戦者2,000人を1,000人に絞り込む様子や最初の3話を同氏のYTチャンネルで無料配信している。
⁹ 多くがYTのグローバル人気ランキングで1位の「ミスタービースト」に次いで登録者が多いインドのミュージック・映画チャンネル「T-Series」(3億1,000万人)を利用している。
¹⁰ BBCの「Talent Works」や「BBC Creator Lab」、YTチャンネルの「Launchpad」や「Acceralators」「Masterclass」を通じて英国内で人材育成を行うもの。
¹¹ 2025年第4四半期(10〜12月)の英国視聴率調査機関「BARB」データ。
¹² コンテンツの視聴率やビューでなく、クリエイターやコンテンツが扱うテーマへの深い関与、忠誠心、コミュニティ構築が基盤となる経済圏。シャピロ氏は、ファンとの直接的な「アフィニティ」=深い結びつきがもたらす購買・消費だけでなく、広告主もこれからはアフィニティを伴うブランドづくりや購買動機づけに投資するようになると言う。
¹³ 欧米で人気が高いのはロマンスものを多く抱えるDramaBoxで、「狼男」ものやファンタジーを扱うReelShort、犯罪もの中心のKuku TVなどがある。
¹⁴ Holywaterの基幹事業は6,000万人の利用者を持つデジタル出版サイトMy Passionで、ここで出版されたドラマを原作に、マイクロドラマプラットフォームのMy Dramaでハイエンドな縦型ドラマを配信している。生成AIで制作されたマイクロドラマの出演者と視聴者がアプリ上で対話できるMy Museも独自のIPづくりで重要な役割を持つ。
¹⁵ 作品の平均制作予算は15万㌦(約2,300万円)で、AIを活用してコストを抑え、実写だけでなくコミックやアニメなどの新フォーマットの開拓も行うそうだ。

