英Ofcomが放送局にYouTubeとの連携強化を提言 「公共サービス放送の危機」からの脱却求める

編集広報部
英Ofcomが放送局にYouTubeとの連携強化を提言 「公共サービス放送の危機」からの脱却求める

英国の放送・通信事業を規制監督するOfcom(放送通信庁)は7月21日、報告書「伝送の重要性 公共サービスメディアの今後」(Transmission Critical The future of Public Service Media)を公表し、「公共サービス放送(PSB)のコンテンツが配信プラットフォーム上で目立ち、見つけやすくなるようにYouTubeと早急に連携すべき」と一歩踏み込んだ提言を行った。さらに、厳しい経営環境のなかで放送局が生き残るために、PSBをはじめプラットフォーム事業者や政府などの業界関係者に対して6つの行動指針(アクションプラン)を示した。

英国ではBBCだけでなく民放大手(ITV、STV、Channel 4、Channel 5、S4C)を「公共サービス放送」(PSB=Public Service Broadcaster)と呼び、PSBが実施する配信事業も含めた広くオンラインで社会に必要な情報を発信しているサービスを「公共サービスメディア」(PSM=Public Service Media)と位置づけ、両者の維持と強化を図ろうとしている。

報告書はまず放送局(PSB)に「多様な視聴者層に向けたコンテンツを制作・流通させるための新たな手段を絶えず試行錯誤し、進化させることで、視聴者の好みに適応し続ける必要がある」と勧告。そのうえで、「YouTubeと早急に協力し、各局のコンテンツがプラットフォーム上で目立つように、見つけやすくする」ことを優先課題に挙げた¹ 。

また、コンテンツの提供は「公正な取引条件で行うべき」とし、両者が歩み寄ることも提言している。さらに、高額の制作費が必須となるハイエンドコンテンツの制作においてはPSBがグローバルな配信大手と連携することを提言。「戦略的・技術的パートナーシップをより意欲的に追求すべき」との考えを示した。

これらは、視聴者数や広告収入の減少に苦しむPSBに対して自己改革を求めた提言だ。英政府は2024年に制定した新メディア法でPSBへの支援策を盛り込んでいた(既報)が、Ofcomは報告書でPSBに対して「これまでにない危機に瀕している」と警告。2024年の動画視聴データによると、家庭内でのリニア放送チャンネルの視聴シェアは、総視聴の半数を下回った(16~24歳で48%)。PSBは配信サービスも行っているが、その視聴シェアは9%に過ぎず、Netflixなどの定額ストリーミング・サービス(15%)やYouTubeに代表される動画共有プラットフォーム(19%)の視聴を大きく下回っていたという。また、Ofcomが7月30日に発表した調査「Media Nations 2025」の結果でも、2024年はYouTubeがBBCに次いで2番目によく視聴されているメディアサービスであることが明らかになっている(既報)。

そこで、これまでより踏み込み、あえてYouTubeへの連携を促したのは、普及が進まないオンデマンドサービス(BVoD)だけでは、放送業界が今後、より窮地に追い込まれるとOfcomが考えたものと思われる。

この状況を改善するためには、PSBとプラットフォームだけでなく、政府、Ofcomが総力を結集して取り組む必要があることから、今回の勧告はすべての業界関係者に向けて出された。政府には、新メディア法で名文化された配信プラットフォームがPSBのBVoDサービスやコンテンツを目立つように扱う義務をYouTubeにも適用させるような法的整備が必要とされたほか、ニュース、ローカルニュース、子ども向けコンテンツなど社会的価値は高いものの商業的に成立しにくい分野に優先的に資金提供をする支援策の検討が勧告された。

興味深いのは、地上デジタルテレビ放送(DTT)の将来の提供方針(配信への移行)を2026年初頭にに明確にするよう提言したことだ。関連して、「リニア放送」を基礎に作られてきた現行のメディア規制を将来のテレビサービスの青写真を想定しながら見直す作業(ヒアリング等)をはじめることも提言し、BBC² との特許状更新の再交渉も、将来を見据えて進めていくとした。

英政府はこれに先立つ6月23日、「現代産業戦略 2025」(The UK's Modern Industrial Strategy 2025)を発表し、低迷する同国の産業の建て直し策を10年計画という形で示した。7月のOfcomの勧告もこの方針に沿った内容となっている。政府は、放送ビジネスを過去20年で150%の成長を遂げた重要な産業と評価。他の動画ビジネス、音楽やゲームなどとともに成長ポテンシャルが最も高いセクター(クリエイティブ産業)として、成長を促進する戦略をまとめている³ 。

テレビ市場については「変革期を迎え統合が進んでいる。視聴者の視聴方法も変化しており、さまざまな形態の映像や音声の消費が融合しつつある」との認識を示し、クリエイティブ産業のエコシステムを支えるPSBのデジタル化を促進することを目標の1つに挙げた。とくに「クリエイティブ産業」の成長促進のために、向こう10年の投資額を1.8倍に増やす⁴ 計画が示されており、この計画が実行されれば、Ofcomの勧告にあるPSBへの資金援助も確実性が高まる。


¹ 特にYouTubeでの視聴が増えている子ども(4~17歳のテレビ視聴の43%)に向けたPSMのコンテンツやニュースの積極的な提供を提言している。ニュース強化に関連しては、誤情報などを見極めるためのメディアリテラシーの向上も提言された。

² BBCはPSMの将来を支えるうえで中心的な役割を果たす存在と政府もOfcomも捉えている。

³  戦略計画が目標に掲げるのは、2035年までに英国が創造性とイノベーションへの投資において世界一の投資先となり、グローバルな創造大国としての地位の確立だ。既存の「クリエイティブ」なコンテンツ(動画、音楽、ゲームなど)に加え、人工知能(AI)や拡張現実(XR)などの新技術が生む、新しいクリエイティブ体験を一括りにして、分野を横断する形での変革と成長を促すとしている。

⁴  クリエイティブ産業による事業投資額を2035年までに170億㍀(約3,383億円)から 310 億㍀(6,160億円)に増やす(関連記事)。

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