テレビの視聴方法が配信へとシフトするなか、米国ではドラマやシットコム、人気セレブによる昼のトークショーなど従来からのテレビ番組のジャンルは姿を消しつつある。そんななか、依然として多くの視聴者数を上げているジャンルが「ゲームショー」だ。その多くはテレビ草創期から数十年続く長寿番組。ニューヨーク・タイムズ紙が6月29日付で、その現状を分析している。
NBCの『Jeopardy!』(1964年〜)、ABCの『Wheel of Fortune』(75年〜)は、いずれもスポーツ中継を除くと最も視聴者数を稼ぐテレビ番組で、その平均は900万人を数える。パネルやルーレットを駆使しながら、回答者が賞金をかけてクイズに答えていくというもの。こうしたゲームショーはいずれもシンジケーション(米国固有の、ネットワーク以外のテレビ番組流通システム)によるもの。『Jeopardy!』と『Wheel of Fortune』の制作スタジオはソニー・ピクチャーズだ。そのソニーが6月末、後者の新ホストに人気タレントのライアン・シークレストを抜擢し、2030年代初頭までの契約を交わしたことが話題になっている。これだけの大物タレントと長期契約を交わせること自体、ゲームショーの未来が明るいことを物語っていると同紙は報じている。
実際、ゲームショーは司会者がその人気を牽引する側面も大きい。「ゲームショーの主役は出演者である」という本質を理解し、絶妙なタイミングとやりとりで出演者のベストを引き出すホストの存在は貴重だ。最たる例が『Jeopardy!』の司会を37年間務めたアレックス・トレベック。19年にがん宣告を受けたことを番組内で発表し、21年に80歳で亡くなる直前まで司会を務めた。トレベックゆえの『Jeopardy!』。視聴者の定着度は凄まじく、実際、後継者選びでひと悶着あったほどだ。
タイムズ紙によると、ゲームショーはテレビ局にとって二つの大きな利点がある。一つは、1回分を短期間で制作できるためコストがかからないこと。台本もあってないようなものなので、WGA(全米脚本家組合)のストライキといった業界内の問題の影響も受けない。
二つ目は、ゲームショーには全米最大の年齢層で、"元祖テレビ世代"である60歳以上の視聴者が定着していることだ。『Wheel of Fortune』視聴者の平均的な年齢は、ニールセンが測定する最高年齢層「65歳以上」の枠内。広告主が最も重視する50歳以下の層でも、『Wheel of Fortune』と『Jeopardy!』は人気が高い。50歳以下だけでいずれも平均100万人以上の視聴者数を獲得している。
タイムズ紙の記事に対して読者から多くの意見が寄せられ、そのなかに「配信時代にあって、テレビのゲームショーが廃れないのは、家族で一緒に楽しめるからだと思う。特に今、政治が二極化する時代に、政治色がないゲームショーは安心して見ることができる」という投稿があった。ニューヨーク州北部にあるゲームショー博物館「Strong National Museum of Play」の歴史家で、今回の同紙の記事でブレーンとなったアダム・ネデフ氏は「アメリカの家庭にとって、ゲームショーは日曜日のアメフト中継と並ぶ貴重な文化財産だ」と評している。
《ニューヨーク・タイムズの当該記事》
https://www.nytimes.com/2023/06/29/business/media/tv-game-shows-thrive.html