静岡第一テレビ(Daiichi-TV)は12月7日、開局45周年記念メディアリテラシーシンポジウム「災害情報のウソ・ホント メディア情報を読み解く」を静岡市で開催した。
有事に正しい情報を共有し、災害に強い地域につなげるために何が必要かを考えることがテーマ。民放連の2024年度メディアリテラシー助成対象事業に選ばれており、会場の静岡県地震防災センターには申込のあった一般視聴者など約90人が来場した。
第1部はインターネット空間の情報流通に詳しい山口真一・国際大学グローバルコミュニティセンター准教授が、災害時に偽・誤情報が拡散するシステムなどを解説した。
第2部のパネルディスカッションは山口准教授に加え、静岡県の危機管理監を務めた岩田孝仁・静岡大学防災総合センター特任教授と日本テレビ放送網『news zero』の藤井貴彦キャスターが登壇し、災害時のメディア利用のデータなどを示しながら、災害時の情報流通の課題やメディアの役割などを議論した。司会はDaiichi-TVの徳増ないるアナウンサーが務めた。
はじめに、岩田氏が「災害時には何が正しい情報なのか判断することが難しい」と問題を提起。藤井氏は「10%のフェイク情報があると、残りの90%の正しい情報も疑わしく思われてしまう。メディアはそれを正しいと証明するために苦労する。SNSの負の側面が強まっていると感じる」とニュースを伝える立場から考えを述べた。山口氏は「東日本大震災のときはSNSの情報発信が有効で、命を救った。しかしこれほどフェイク情報が増えて閲覧数稼ぎを目的に使われるようになると、SNSはインフラではなく一企業の収益の場と化してしまった」と現状を分析したうえで「災害時には別の情報伝達の手段を行政が用意する必要があるのではないか。生成AIの作成物を判断する技術が進んでおり、こういったものをマスメディアが活用することも必要だろう」と提案した。
続いて、伝える側の意識を議論した。岩田氏は「災害時には伝える内容や手段だけでなく、誰が伝えるかということも大切。いつもテレビ画面で見ているアナウンサーが避難を呼びかければ人は動く」と、2018年に発生した西日本豪雨における岡山県真備町の事例を基に説明。これを受けて藤井氏は「テレビの情報を信じてくれる人がたくさんいるのだから、発災当初の対応が大事だ。とにかく逃げてくれと言うことが大切で、(結果として情報が間違っていてもいいから)逃げないという判断をしないように呼びかけようと後輩にも話をしていた」と実体験をもとに語った。山口氏は研究者の立場から情報を拡散させたいと思う理由に▶目をひかれた、▶感情を揺さぶられた、▶人に伝えたいと思った――を挙げ、そういうときこそ、踏みとどまって考えてほしいと呼びかけ、さらに「SNSは迅速に、現地にいるであろう人の声を知ることができるので頼りにする人が多いのはわかるが、その情報は玉石混交だ。それを踏まえて、参考として触れる程度にすべき。SNSに接する時間の長短と騙されることとの関連はないとの調査があり、長く接しているから騙されるというものでもない。自分は騙されない、大丈夫、と思っている人が危ない」とSNSの特徴を踏まえて注意を促した。
SNSの活用について、岩田氏は行政で防災業務を担当した経験から「何か起こった時だけでなく、普段からの情報発信の積み重ねが大切だ。災害時にいきなり信じてくれ、というのは無理だろう。また、伝える側が信頼を得るためには、良くない情報も隠さずに伝えることが必要ではないか」と提案した。藤井氏が「SNSに載っている情報は、実はテレビからの情報ということがある。それならば、テレビがもっとSNSを活用しなければいけない。テレビとSNSはライバルではないと考え、手を組んでいかないといけないのではないか」と述べた。山口氏は「人々はマスメディアも見るが、受け手の情報源はひとつではないので、誰が発信しているかが大事になる。マスメディアはSNSをうまく活用するという視点が大事だが、XやInstagramなどそれぞれに適した工夫をしてほしい」と求めた。
最後に山口氏が全体を通して「①正確な情報を迅速に伝えることが必要であり、そのためには平時からの情報発信と地域の人たちとの連携が大切、②より多くの人にマスメディアの正しい情報を伝えるためにSNSを使った発信の工夫が必要、③ネット上の言説の事実確認が必要であり、フェイク情報をチェックして伝えていくことにより、情報環境は良くなっていく」と総括した。
この後、会場の参加者ともSNSの活用などについて意見交換を行った。大学生から「有事の際、停電していたり、持ち運べなかったりするので、テレビを見ることができなくなることが想定される。だから私たちはSNSに頼ってしまうが、その情報には不安がある」との意見があり、パネリストから「自分がどのような状況なのかを認識し、初期対応は自らの判断で行ったうえで情報を収集するようにしてほしい」「SNSはどこの誰か知らない人ではなく、自治体やマスメディアなどの信頼できるアカウントをフォローしておいて、何かの際にはそこだけ見るなどの対応を日頃から考えておくことが必要」などの発言があった。
シンポジウムの模様は後日、放送する予定。また、2025年1月から「公式YouTubeチャンネル Daiichi-TV news」(外部サイトに遷移します)で配信を予定している。