民放ローカルテレビ社で昨年末からこの3月にかけて新たなウェブサイトの開設が相次いでいる。既存の局本体サイトとは別に、グルメやお買い物といった地元の旬な話題を定期的に配信するマガジンスタイルのウェブサイトだ。日本酒にジャンルを特化したユニークな試みも目を引く。各社の担当者にその狙いとこれからの展開を聞いた。
テレビ静岡「テレしずWasabee」
「静岡の情報はここを見ればわかる」をキャッチフレーズにテレビ静岡が3月15日に開設したのが「テレしずWasabee」。「静岡県の名産品わさびのようにピリッとスパイスの効いた情報を生活に」「Bee(ハチ)はフジテレビ系列局の8チャンネルと、ミツバチのようにせっせと情報を集めます!」――そんな思いをサイト名に込めた。
「食べる」「知る」「暮らす」「健やか」「ひと」「でかける」「ニュース」「スポーツ」......テレビ局らしい幅広いカテゴリーで、それぞれのトピックスを随時更新。トップページでは同社の社屋から見える富士山のライブ映像を24時間配信している。広い県内の情報を、西部・中部・東部・伊豆の4つのエリアから検索できるのも使い勝手がいい。
ローカルニュースで取り上げたネタは動画とともにすべてアップするほか、人気のグルメ番組『くさデカ』や夕方の情報番組『ただいま!テレビ』のコーナー、長寿番組『テレビ寺子屋』などを記事化。番組連動にも力を入れる。外部のライターや地域のローカルメディアとの連携、社内や関連会社などからもライターを募るなど手厚い体制を敷いている。
オープンから1カ月、静岡市三保に開店したパン屋の紹介記事を掲載したところ、お客さんが殺到。同店ではアルバイト人員を増やしたとのうれしい反響も届いているという。PUT(総個人視聴率)の低下や放送収入の減少と地上波テレビを取り巻く経営環境が厳しい中、新たなサイトを立ち上げることでローカル情報のリーチを広げるとともに、県内各地域の情報を集積するツールを確立し、「いずれは有料記事・有料動画の配信やEC事業など新たな収入に結びつけていければ」と期待する。
テレビ愛知「SAKETOMO」
テレビ愛知が2022年12月に開設した「SAKETOMO」は、ずばり「日本酒をもっと好きになる。楽しむためのウェブメディア」だ。愛知県は数十の酒蔵を抱えるが、コロナ禍で外での飲食機会が減り、酒蔵や飲食店は苦しい思いをしたのではないか......そこで、同社の視聴者層とも親和性の高そうな日本酒に着目。「もっと好きになってもらいたい」「もっと盛り上げたい」と立ち上げた。
「選びたい」「楽しみたい」「知りたい」「ニュース」の4項目と、カテゴリーはシンプルな構成。しかし、「ニュース」ではおすすめの銘柄紹介や酒類の解説、「楽しみたい」はおつまみやおいしい飲み方などを伝授、「知りたい」で県内や近隣の酒蔵開きやイベントの情報を随時更新、「選びたい」は日本酒の歴史や文化、造り方などの豆知識――と幅広い情報が満載だ。
初心者やライト層にも興味をもって読んでもらえるよう、外部のライターの協力も得ながら、わかりやすい記事を心がけているという。日本酒が大好きという同社の長江麻美アナウンサーの連載「日本酒日記」も13回を重ねるなど好評だ。
ジャンル特化型のサイトとはいえ、「テレビ愛知のコンテンツのリーチを広げるための一つのチャンネル」と位置づける。放送や動画配信で集客したユーザーをウェブサイトに誘導したり、逆にウェブで集客したユーザーを放送や配信に誘導する。そんな仕組みをつくりたいという。サイトの開設を機に、地元の酒蔵や酒販店とのつながりも増えるなど手応えも。今後は営業面や放送との連動、ECやイベントなどへと広げていきたいとしている。
山口朝日放送「山口さん」
山口朝日放送で3月30日にスタートした「山口さん」のコンセプトは「知りたい、山口のこと、なんでも!」。県域放送という制約を抱えたローカル局として、県外にも発信できる自前のプラットフォームを――各局の取り組みを調べる中、自社サイトとは別の情報サイトを運営する取り組みも参考にしながら、独自のサイトを構築した。ちなみに、サイト名の「山口さん」は、ある調査で「名字に使われている都道府県名」の1位が「山口」だったことから、その身近さにあやかったという。
カテゴリーは「グルメ」「お出かけ」「お買い物」「特集」の4つ。40代以下をターゲットに、県内向けにはグルメや週末のお出かけを、県外には山口を訪れる際に参考になるような情報発信を心がけている。どの記事にも"映える"高画質の写真が添えられ、目にも楽しい。「読みたくなるような見出しの付け方や写真のきれいさにはこだわっています。そこから逆算したネタ選定を行っています」と担当者。
同時に開設したのが姉妹サイトの「山口さんのお気に入り」。記事で紹介した商品をすぐに買うことができるECサイトで、開店当初は山口市の洋菓子、防府市の薬膳茶、下関市の木工・陶芸が出店。1~2カ月ごとに3つの店舗が入れ替わっていく"一期一会"なオンラインショップを目指し、県内の魅力ある商品の発信と販売をシームレス化することで、地域の事業家などを応援していくという。
社内の運営スタッフのほか、外部のライターも公募中だ。当初は県内の自治体の観光アンバサダー的な人や地域おこし協力隊メンバーなどに声がけするなど、手探りでのスタートだったとか。開設後は社内からも好評で、執筆したいとの声も上がっているという。ゴールデンウイークを前に、山口県の観光スポットをぜひチェックしてみたい。