リスナーの「つながり感」が番組エンゲージメント向上のポイント~民放連研究所「ラジオ番組エンゲージメントと広告効果に関する研究」調査結果から

井川 智宏
リスナーの「つながり感」が番組エンゲージメント向上のポイント~民放連研究所「ラジオ番組エンゲージメントと広告効果に関する研究」調査結果から

民放連研究所では、ビデオリサーチの協力を得て実施した「ラジオ番組エンゲージメントと広告効果に関する研究」の調査結果を取りまとめ、日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会、および民放連のそれぞれの会員社を対象としたオンライン報告会を2025724日に開催してその内容を報告するとともに、翌25日に民放連ウェブサイトで公表した。本稿ではその概要と得られた知見を紹介したい。

民放連研究所は、テレビおよびラジオの広告効果を可能な限り客観的に分析する研究に継続的に取り組んでいる。テレビに関しては、これまで3回にわたって調査を実施しており、いずれの調査結果も民放連ウェブサイトで公表しているので、ご関心のある方は当該ページをご覧いただきたい。他方、ラジオに関しては、2023年に「ラジオの特性・広告効果に関する研究」を実施しており、今回が第2弾となる。

今回の研究は、前述の2023年研究が前提となるので、簡単に振り返りたい。詳細は民放online上の別稿で紹介されているとおりだが、▶ラジオメディアの主な利用シーンとして、ラジオ放送は移動中、radikoはくつろぎの時間に多く利用されている、▶ラジオ放送は災害時の情報や生活に身近な情報が期待されており、radikoはオンデマンド性が高く評価されている、▶ラジオ放送もradikoも、広告へのストレスの低さが大きな特徴となっている、▶リスナーの番組に対する「熱量」の高さが広告の影響力をより高める――などのラジオの特性や広告効果に関する知見が得られている。特に広告効果にフォーカスすると、以下のような示唆が得られている。

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<図表1.番組エンゲージメントの段階性>

今回の調査では、この2023年研究の結果と得られた知見を受けて、個別番組単位での効果性の検証を目指した。そのため、関東地域で放送されている31のラジオ番組を選んで、その番組を聴取しているリスナーに対して調査を行い、番組へのエンゲージメントと広告効果の関係を検証・分析した。

調査の概要

まず、今回の調査の概要を示す。

■調査対象者:関東1都6県の男女1569歳で、3カ月以内に調査対象のラジオ番組を聴取したことがある番組リスナー
■調査対象番組:関東1都6県の民放ラジオ局の31番組

なお、下記の情報をもとに、分析可能な出現数を確保できると見込まれる番組を、特定の放送局の番組に過度に偏らないように番組数を配分して選定している。調査対象番組は非公表である。

・ビデオリサーチ社ラジオ聴取率調査(個人全体、若年層)
radiko radiko2024年ランキング
・事前のトライアル調査における、番組ごとの3カ月以内リスナー出現率

■調査方法:インターネット調査
■調査期間:2025228202531
■サンプル数:10,043(1番組当たりサンプル数322327を回収)
■割付

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※番組ごとに、スクリーニング調査の性別・年齢(15-49歳/50-69歳)の構成比に合わせてウェイトバック集計している

■調査機関:ビデオリサーチ

「エンゲージメント」とは?

エンゲージメントとは「約束」や「契約」などを意味する英語に由来し、使用されるシーンによって意味合いは微妙に異なるが、ビジネスシーンでは、深いつながりや信頼関係を指すことが一般的である。

本研究では、ラジオ番組に対する"熱量"や"愛着する気持ち"を包含する概念として、前述の2023年研究のとおり、番組エンゲージメントは「親近感・信頼感」→「生活必須・ファン意識」→「コミュニティ意識」と段階的に強まるとの知見を得ており、今回の研究でもその考え方を踏襲している。

リスナーの番組エンゲージメントの高さは、
番組情報や広告の影響力をより高める

図表2は、番組内で流れる広告について、「商品やサービスを買ったり、利用したことがある」と回答した人の割合を、左から、リスナーの聴取時間別、聴取頻度別、「親近感・信頼感」の高低、「生活必須・ファン意識」の高低、「コミュニティ意識」の高低で分類して並べたものである。

図表2.エクセル版_番組内で流れる広告への影響.jpg

<図表2.番組内で流れる広告への影響>

まず、聴取時間別で見ると、ライトリスナーよりもミドルリスナー、ミドルリスナーよりもヘビーリスナーの方が回答割合は高い傾向にあるものの、その高まり方は相対的に緩やかであると言える。

次に、聴取頻度別で見ると、聴取頻度が少ないリスナーよりも頻度の多いリスナーの方が回答割合が高い。2023年研究においても、特定の番組ではなく一般論として好きなラジオ番組の聴取頻度が高いほど「広告」の影響力が高まることが確認されているが、今回の調査では、具体的な31番組のリスナーで同様の結果が得られている。

番組エンゲージメントの指標としている「親近感・信頼感」の高低、「生活必須・ファン意識」の高低、「コミュニティ意識」の高低で分類してみると、低いリスナーから高いリスナーへ回答割合が大きく跳ね上がるのが確認できる。

ここから、ラジオ番組の情報や、ラジオ広告の持つリスナーへの影響力は、番組エンゲージメントの高いリスナーにおいてさらに高まる傾向があることがわかる。これは、2023年研究においても、一般論として確認された知見であるが、今回の調査では、具体的な31番組のリスナーでも同様の結果が得られたことになる。

番組エンゲージメントを高める影響要因は何か?

ここまでで、広告効果をより高めるために番組エンゲージメントを把握し、それを高めることが重要であることがわかった。では、どのようにすれば番組エンゲージメントを高めることができるだろうか。

本研究では、そのヒントを探るため、影響を与えている可能性がある要因として、▶番組の聴取率、▶番組の放送分数、▶番組の聴取頻度、▶リスナーの年齢層、▶リスナーの番組イメージ・評価――の各項目と、番組エンゲージメントを構成する「親近感・信頼感」「生活必須・ファン意識」「コミュニティ意識」の関係を分析した。

まず、図表3が、番組の聴取率と番組エンゲージメントの各要素との関係をグラフ化したものである。ご覧のとおり明確な相関関係は見られない。

ただ、今回の調査対象とした番組には、対象に選んだ段階で"聴取率が高いという偏り"があるために相関が見られないが、放送されているすべての番組を対象にすれば相関が見られる可能性はある点には留意が必要だ。

図表3.番組の聴取率と番組エンゲージメントの関係.jpg

<図表3.番組の聴取率と番組エンゲージメントの関係>

次に、図表4が、番組の放送分数と番組エンゲージメントとの関係をグラフ化したものである。こちらについても、ご覧のとおり明確な相関関係は見られない。

図表4.番組の放送分数と番組エンゲージメントの関係.jpg

<図表4.番組の放送分数と番組エンゲージメントの関係>

続いて、図表5で、番組リスナーの年齢層、および番組聴取頻度と、番組エンゲージメントの関係を示した。

リスナーの年齢層と番組エンゲージメントの関係を見ると、総じて若年層の方が高くなる傾向が見られる。また、番組聴取頻度と番組エンゲージメントの関係では、多くの番組で連動が確認できる。

図表5.年齢層・番組聴取頻度と番組エンゲージメントの関係.jpg

<図表5.年齢層・番組聴取頻度と番組エンゲージメントの関係>

では、リスナーが持っている「番組イメージ・評価」と番組エンゲージメントの関係はどうなっているのだろうか。

ここでは「番組イメージ・評価」を、解釈のしやすさや、番組施策への参考へのしやすさも考慮し、「情報充実性」「エンタメ性」「スタイリッシュ性」「心の充足感」「つながり感」「気楽さ」の6つのカテゴリーに分類して分析した。

図表6.番組イメージ・評価の分析指標.jpg

<図表6.番組イメージ・評価の分析指標>

そして、 今回対象とした31番組ごとに番組イメージ・評価と番組エンゲージメントの高さを集計。番組単位のデータをもとにして、「情報充実性」「エンタメ性」「スタイリッシュ性」「心の充足感」「つながり感」「気楽さ」の各スコアの合算値を説明変数に、番組エンゲージメントを構成する「親近感・信頼感」「生活必須・ファン意識」「コミュニティ意識」の各指標の「高」出現率を目的変数にして重回帰分析を実施し、番組エンゲージメントへの影響力を分析した。

図表7.番組イメージ・評価と番組エンゲージメントの関係性.jpg

図表7.番組イメージ・評価と番組エンゲージメントの関係性>

図表7に番組イメージ・評価の各指標と番組エンゲージメントの各指標との関係性をマトリクスで示した。それぞれの数値は、重回帰分析を行い、各説明変数の標準偏回帰係数を示したものである。この数値は、-1.0から1.0の間で数値の絶対値が高いほどその影響が強いと解釈できる。なお、ブルーの網掛けになっている数値は有意水準10%、薄オレンジの網掛けは有意水準5%、濃オレンジ網掛けかつ太字は有意水準1%でそれぞれ統計的に有意であることを示している。

これを見ると、番組エンゲージメントに対する番組イメージ・評価の各指標の影響力は必ずしも一律ではなく、グラデーションがあることがわかる。

まず、「親近感・信頼感」に対しては、「情報充実性」「エンタメ性」「心の充足感」「つながり感」が統計的に有意なプラスの効果を有する。「情報充実性」と「エンタメ性」といった番組の内容への評価が「親近感・信頼感」の醸成に寄与していると言える。また、「心の充足感」「つながり感」といった番組を聴取して得られる心理的効果も「親近感・信頼感」醸成に寄与している。

次に、「生活必須・ファン意識」に対しては、「情報充実性」「エンタメ性」「つながり感」が統計的に有意なプラスの効果を有する。数値の大きさを見ると、特に「エンタメ性」「つながり感」の効果が高い。他方、「気楽さ」については、統計的に有意にマイナスの効果となっており、番組が気楽に聴けるという評価は、「生活必須・ファン意識」の高まりには寄与しないという結果になった。

続いて、「コミュニティ意識」を見てみよう。有意水準1%で「つながり感」が統計的に有意なプラスの効果を有し、また、有意水準10%であれば「心の充足感」も統計的に有意であることから、番組を聴取したリスナーが得る心理的効果が「コミュニティ意識」の醸成に寄与していると言える。他方、ここでも「気楽さ」は統計的に有意にマイナスの効果となっており、気楽に聴けるという評価は、「コミュニティ意識」の高まりには寄与しないという結果になった。

「番組イメージ・評価」と番組エンゲージメントの関係を総括すると、「情報充実性」や「エンタメ性」といった番組の内容に加えて、リスナーの「つながり感」を意識した施策が番組エンゲージメントを高めるためのポイントであることが浮き彫りとなったと言える。

さいごに

さいごに、本研究で得られた知見を以下のとおり整理しよう。

今回の調査結果では、▶ラジオ番組の情報や、ラジオ広告の持つリスナーへの影響力は、番組エンゲージメントの高いリスナーほど、より高まる、▶番組エンゲージメントの効果性には段階が見られ、その効果性は「親近感・信頼感」→「生活必須・ファン意識」→「コミュニティ意識」と強まっていく――といった2023年研究で得られた知見について、具体的な31の番組のリスナーに対しての調査においても同様の結果が得られた。

また、広告効果をより高めるために、番組エンゲージメントを把握することが有用であることがあらためて示唆された。分析の結果、「番組エンゲージメント」は「聴取率」「放送分数」とは連動していない一方、若年層ほど、番組聴取頻度が高いほど、高まる傾向にあり、「番組イメージ・評価」の軸では、「情報充実性」や「エンタメ性」といった番組の内容に加え、「つながり感」を意識した施策が番組エンゲージメントを高めるためのポイントと考えられる。

なお、今回の調査で対象とした番組は非公表としているが、民放連ウェブサイトに公表している報告書では、分析結果をより把握しやすくするため、以下の図表8のように31番組をカテゴリー分けしたうえ、カテゴリーごとの平均値も集計している。ご関心のある方はご参照いただきたい。

図表8.調査対象番組カテゴリー.jpg

分析カテゴリー.jpg

<図表8.調査対象番組カテゴリー>

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