民放連研究所は「ラジオの特性・広告効果に関する研究」の報告会を2023年8月2日に開催し(会員社対象、ウェビナー)、翌3日に報告書を民放連公開サイトで公表した。同研究は民放連研究所が22年度から取り組んでいた研究テーマであり、23年3月に日本全国を対象とする調査を実施。報告ではその調査結果とそこから得られた知見、示唆を取りまとめている。
この研究の主旨と目的は、
① ラジオメディアの持つメディア特性を、他のメディアとの比較をしながら明らかにする。
② ラジオメディアのリスナー特性を、"好きなラジオ番組"への評価から明らかにする。
③ "好きなラジオ番組"に対する熱量(心理的な番組関与度の強さなど)と、ラジオメディアの情報や広告の影響力の関係性を明らかにする。
の3点に集約される。以下、本稿では調査結果の概要と得られたいくつかの特徴的な知見をご紹介する。
ラジオリスナーを"ヘビー"、"ミドル"、"ライト"で割付
最初に、本研究で実施した調査の概要を示す。
・調査対象者:全国の男女15~69歳
・調査方法:インターネット調査
・調査期間:2023年3月3日(金)~2023年3月7日(火)
・サンプル数:スクリーニング調査 30,169ss 本調査 7,200ss
・本調査の割付
・調査実施:株式会社 ビデオリサーチ
まず、約3万サンプルを対象としたスクリーニング調査から、ラジオリスナー(週1回5分以上の聴取を「ラジオ聴取」と定義)5,400人とノンリスナー1,800人を、上記のように10歳刻みで同数抽出した。さらにラジオリスナーについては、1週間で7時間以上聴取する「ヘビー層(H)」、1週間で2時間以上~7時間未満聴取する「ミドル層(M)」、1週間で2時間未満聴取する「ライト層(L)」に3等分して割り付けている。
そのため必然的に、全体の調査サンプルの構成は性年齢構成だけでなく、リスナー/ノンリスナー、リスナー内のヘビー/ミドル/ライトの構成で現実の構成とはかなり異なっている。そこで集計に当たっては、全体におけるそれぞれの構成比を勘案したウェイトバック集計を行った(実数についてはそのまま提示)。
ラジオ放送は移動中、radikoは自宅でのくつろぎの時間が主な利用シーン
図表1は、ラジオリスナーとノンリスナーを合わせた7,200人の本調査回答者に対して(図表3まで同)、ラジオだけでなくいくつものメディアについて、その利用シーンを聞いた設問の結果である(それぞれのメディアの行為者のみの集計)。ラジオ放送(ラジオ受信機、カーラジオでの受信)はカーラジオなどでの移動中の利用が主だが、radiko(デバイスを問わず)は、自宅内で一人でくつろいでいる時間の利用が多く、同じラジオ聴取でも両者の利用シーンはかなり異なることがわかる。
<図表1. ラジオメディアの利用シーン>
radikoはオンデマンド性とエリアフリーが高い評価
図表2は、ラジオ(ラジオ放送+radiko)とradiko別にそれぞれに期待する機能や情報・コンテンツを聞いた設問の結果(複数回答)。ラジオ全体では、上位に災害時の情報提供、避難の呼びかけ、お天気・交通情報、身の回りの情報などが並んでいる。一方、radikoについての項目では、タイムフリーによる「自分の好きなタイミングで好きな番組を聴ける」とエリアフリーによる「自分の居住地以外の情報」が多く選ばれている。当然と言えば当然だが、radikoにしかない機能は高く評価されていると言える。
<図表2. ラジオ(全般)とradikoに対する期待>
ラジオは放送、radikoともに広告にストレスを感じにくいメディア
図表3は、広告効果との関係で、ラジオの大きな特徴(優位点)を示す、とも言える調査結果のひとつである。各種の広告メディア別に、広告・宣伝に関するさまざまなイメージ、評価を聞いた設問で、「ストレスに感じる広告・宣伝」(がある)の回答率。ラジオ放送、radikoともにネット系の音声媒体よりも回答率が低いことがわかる。ちなみに調査対象全メディアの平均14.7よりも明らかに低い。ラジオは広告が嫌がられにくいメディアと言える。
<図表3. 「ストレスに感じる広告・宣伝」について>
「ストレスに感じる広告・宣伝」(がある)回答率
radiko中心のリスナーは好きなラジオ番組があり、聴取頻度も高い
ここからは、ラジオリスナー(5,400サンプル)だけに対する調査結果を紹介する。調査対象者にラジオ番組を聴く時間全体を100%として、ラジオ放送やradikoの割合を質問。放送の方がradikoよりも大きい人を"ラジオ放送中心"、放送とradikoが同じくらいの人を"同等"、radikoの方が放送よりも大きい人を"radiko中心"とラジオ聴取のスタイルを3つに定義した。なお、その他の方法(その他のアプリや動画サイトなど)のみを用いるラジオ番組聴取者は除外している。
<図表4. ラジオ聴取のスタイルと好きな番組の有無、好きな番組の聴取頻度>
図表4は好きなラジオ番組(ジャンルは問わず)の有無とその聴取頻度についての設問を"ラジオ放送中心"の人と"radiko中心"の人別にクロス集計した結果である。radiko中心の人の方が好きな番組があるとの回答が明らかに高く、その聴取頻度も高いことがわかる。同じラジオでも違いが出るのは、radikoにはオンデマンド型のタイムフリーがあるため、好きな番組だけを、好きな時間に容易に聴取できることが寄与していると推測される。
好きな番組への心理的な関与の3因子を抽出
次に、好きな番組があると回答した人全員に対して、図表5の表側のような15の項目について、「とてもあてはまる」「ややあてはまる」「どちらともいえない」「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」の5段階で回答してもらった。それにスコアを与えて因子分析を実施した結果が図表5の数値(因子負荷量)である。それに関わっている項目の内容から、「親近感・信頼感」「生活必須・ファン意識」「コミュニティ意識」と名付けることができそうな3つの因子を抽出した。
<図表5. 好きな番組への心理的な関与に関する因子分析結果>
radiko中心リスナーは"好きな番組への熱量"がより高い傾向
次に、この3つの因子に関わる3つの項目グループ(色分けしたグループ)別に、回答者ごとに「とてもあてはまる」と「ややあてはまる」を選んだ項目の数をカウントし、回答者をスコアが高・中・低の3グループに分けてみた。これは、心理的な番組関与度の強さを表すと考えられる指標だが、ここではこのグループ別回答スコアを、ひとまとめに"好きな番組への熱量"と呼んでみることにする
<図表6. ラジオ聴取のスタイルと好きな番組への熱量の関係>
図表6は先に見たラジオ聴取のスタイルと熱量の関係を示している(表中のスコアは"高"グループのもの)。どの熱量についても、ラジオ放送中心に聴取する人よりもradiko中心の人の方が高いことがわかる。ただ、"好きな番組への熱量"であるため、比較的幅広い番組を聴取する傾向があるラジオ放送中心のリスナーよりも、好きな番組だけを聴取する傾向が強いradikoリスナーの方が、熱量のスコアが高くなっているものと推測される。
熱量が高いリスナーには広告が効きやすい?
次に、広告効果との関係。「(好きな番組について)番組で流れる広告について商品やサービスを買ったり、利用したりすることがよくある」との項目の回答について紹介する。この項目は、タイム広告など番組で流れる広告の影響力(≒広告効果)を示していると考えていいだろう。
この項目の回答率について、各種のクロス集計を行ったが、"好きな番組への熱量"との間に明確な関係性が見られた(図表7)。
「親近感・信頼感」「生活必須・ファン意識」「コミュニティ意識」のどれについても、それぞれのスコア(熱量)が低→中→高と上がるほど、この項目の回答率(グラフ上の数字)が明らかに上昇している。番組への熱量が高いリスナーほど、その番組で流れる広告の影響力が高いことを示すデータだと考えられる。ちなみにこの傾向は、リスナーの年齢層による差異がみられないのだが、年齢が若いほど全体的に解答率の水準がやや高くなる特徴はある。
<図表7.好きな番組への熱量と広告の商品やサービスの購買の関係>
ラジオのメディア特性、リスナー特性、熱量の効果性
以上紹介した調査結果に加え、スペースの関係で紹介できなかった調査結果も含めて、この報告では結論として以下のような総括を行っている。
① 「ラジオ放送」「radiko」のメディア特性
・ラジオ放送は「通勤通学・移動中」の利用に特徴。特にカーラジオが多い。radikoは、自宅内でのくつろぎの時間などにも利用され、全体的に広くさまざまな生活シーンで利用される傾向。
・ラジオは「時間を有効に使える」メディアで、radikoのオンデマンド性へは評価と期待がされている。リスナーは、ラジオには生活密着情報(災害時含む)と独自性を期待。
・広告・宣伝は他のメディアと比較して低ストレスで、商品名/企業名が印象に残るという特徴も。購買のアッパーファネル(認知・興味関心)に影響力を持つ。
② 「ラジオ放送」「radiko」のリスナー特性
・"ラジオ放送中心"のリスナーは幅広く聴き、番組を好きになる傾向。"radiko中心"のリスナーは好きな番組を熱心に聴く傾向。
・好きなラジオ番組への「熱量」は、radikoのリスナーがより高くなる傾向であり、番組への心理的な関与度がより高いことがうかがわれる。
③ ラジオ番組への"熱量"の効果性
・ラジオ番組の情報や、ラジオ広告のリスナーへの影響力は、番組への熱量の高いリスナーほど、より高まる。
・番組への熱量の効果性には段階が見られ、効果性は「親近感・信頼感」→「生活必須・ファン意識」→「コミュニティ意識」と強まっていく。
さいごに
随分以前から、「ラジオはリスナーとのコミュニティ形成機能が高い」「ラジオリスナーの特徴は番組とのエンゲージメントの強さ」という、リスナーとラジオ局ないしは番組との心理的な関与度の強さがラジオの特徴であり、広告媒体としての強味だと言われてきた。今回の研究では、"好きなラジオ番組がある"リスナーに注目して、ラジオ番組への心理的関与度の強さ("熱量")と広告の影響度の関係を、ある程度、可視化することに成功したと考えている。
ただ、まだ一回限りの、それも特定の番組に関するものではなく一般論としての調査結果である。この分析の枠組みを利用して、具体的な番組の"熱量"を図る試みは、少なくとも試してみる価値はありそうに思える。