専修大学ジャーナリズム学科・現代ジャーナリズム研究機構は7月30日、自由人権協会(JCLU)と共催で「戦争報道の価値と難しさ~ウクライナ取材・報道を通じて考える」と題したシンポジウムを開いた。パネリストとして、須賀川拓氏(TBSテレビ中東支局長)、綿井健陽氏(ジャーナリスト)、山田健太氏(同大教授)が登壇。山田氏の進行で、須賀川氏と綿井氏が自身の経験をもとに現地取材への考えや思いを語った。
はじめに、これまでにさまざまな紛争地を取材し、特にアフガニスタンの報道では「2021年度ボーン・上田記念国際記者賞」に選ばれた須賀川氏が現地取材の事前準備の大切さや危険度を説明した。併せて、TBSテレビが行ったウクライナでの取材の方法や経過を紹介。2つのクルーが交代制とし、「同じクルーで同じ場所を繰り返し取材することで深いものになる」とメリットを語った。
さらに、実際に撮った映像を用い、現場だからこそ見える戦争の悲惨さを聴講者に伝えた。また、公開されている情報から分析し判断するOSINT(オープンソースインテリジェンス)を報道にも活用することで、どこからでも同じ情報にアクセスできると説明。一方で、「OSINTの手法をまねたフェイクニュースが発信されている。事実と嘘を混ぜることで、正しい情報に疑念を抱かせる性質がある」と危険性を語った。
<TBSテレビ・須賀川拓氏>
次に、フリージャーナリストの綿井氏が過去に自身が撮影した映像や資料をもとに、ロシアのウクライナ侵攻とこれまでの戦争との違いを解説。「アフガニスタンやイラク戦争の時はフリージャーナリストが多かったが、ウクライナでは大手メディアの記者も現地に入っている」と語った。また、現場に入るまで取材した成果を発表する媒体が決まっていないことや、金銭面の苦労を自身の経験から伝えた。「今の時代、他国からも映像が入手できるが、日本人が日本語で伝えることは大切。さまざまな日本のメディアが現地に入ることで、きめ細かな取材が可能になる」と考えを述べた。
<ジャーナリスト・綿井健陽氏>
その後、3氏によるディスカッションが行われた。山田氏からの「ウクライナ報道において、他国ではそれぞれの政府方針に沿った内容がみられる」との意見に対し、須賀川氏は「私は敵・味方と言わないよう、そして断定的に伝えないよう意識している。できるだけ生の情報で、偏っていないものを発信することに価値がある。インターネットのアルゴリズムにより、自分が共感できる記事しか目に入らないようになってきているので、メディアは中立なものを流すべき」と述べた。
最後に、「現地取材にはリスクがあるが、それでも続けたい。また、大手メディアやフリーに限らず、ジャーナリストには現地に入ってほしい」(綿井氏)、「戦争報道の目的は視聴者に実情を知ってもらうことが大前提だが、何より紛争地への支援につながり、少しでも難民を減らせるといいと考えている」(須賀川氏)と締めた。
当日は学生をはじめ、多くの聴講者が集まった。主催者によると、「現地の映像を見て、普段見ているニュースは氷山の一角に過ぎず、何も知らなかったと気づいた」「テレビでは流れないが、遺体が記録された映像を見たか見ていないかで、ウクライナ侵攻の捉え方が変わるのではないか」などの感想があったという。