配信とリニアの境界さらに希薄に 2029年に配信加入者数20億の予測も

編集広報部
配信とリニアの境界さらに希薄に 2029年に配信加入者数20億の予測も

テレビの世界で配信とリニアのパワーバランスが転換期を迎えている。リニアは配信への進出に躍起で、逆に配信サービスはテレビ領域への進出に意欲を示しているからだ。2025年からは両者の境界線がますます希薄になるとみられている。

▶世界の有料配信契約数、2029年には20億超に
エンタメ業界のデータ分析会社アンペア・アナリシス(Ampere Analysis)が2024年12月に発表した業界予測によると、有料配信サービスの加入総数が29年までに全世界で20億件を超えるという(冒頭画像)。米国の配信サービス各社のグローバル市場への事業拡大が進み、パスワード共有対策の徹底にも後押しされてのもの。広告なしのSVODと広告入りのAVODを合わせた売上高は年間1,900億㌦ (約30兆円)に達し、リニアに代わって配信が世界のテレビ経済を担うと予測している。24年12月現在の有料配信サービス加入総数は18億件。今後5年で2億件増える予測だが、最も増えるのはアジア太平洋地域。すでに飽和状態にある米国市場を抜くのも時間の問題だとアンペア・アナリシスは指摘する。

▶配信の守備範囲も拡大の一途
配信サービスの守備範囲も拡大の一途だ。黎明期のオンデマンドサービスのみから、ライブテレビサービス(vMVPD)への参入に始まり、近年はオリンピックなどスポーツイベントのライブ配信まで拡がり、それまでリニアテレビの独壇場だった領域を侵食しつつある。エンターテインメントの分野でも年に一度のお祭りだったアワード番組が地上波局でのライブ中継だけでなく、その局の傘下・系列の配信サービスでライブ配信される時代になった。25年1月5日のゴールデングローブ賞授賞式¹ はCBSに加えてパラマウント+でライブ配信され、同3月のアカデミー賞授賞式もABCでのライブ中継に加えHuluでライブ配信(その後オンデマンド)されると発表された。どちらの賞も配信でライブ中継されるのは初めてだ。

▶YouTubeのテレビ視聴も急伸
もともとはスマホなどでのモバイル視聴が中心だったYouTubeが近年、リビングルームのテレビ画面を通じた視聴を急激に伸ばしていることも注目されている。テレビ画面でYouTubeのスポーツコンテンツを視聴する時間が前年比30%増と同社から発表された。4Kでアップロードされた動画も35%増え、ポッドキャストの視聴も増加の一途という。YouTubeは今後、テレビ画面視聴を一層推し進め、さらなる成長を目指すとの方針を打ち立てている。

▶放送局も配信へのシフトを着々と
地上波やケーブル放送局も独自の配信サービスを立ち上げ、経営の主軸をリニアから配信に移しつつある。

コムキャストは傘下であるNBCUのケーブルチャンネル群を分離・独立させて新しい上場企業を立ち上げると発表している(既報)。NBCUが今後、配信サービスのピーコックに注力できるようにするためだ。この発表の直後、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)も組織再編すると発表した。従来のテレビ事業部門を制作スタジオと配信事業から引き離す方針を打ち出したのだ。WBDは今後、「異なる2部門の親会社として機能する」としているが、将来はテレビ事業を分離する可能性を含んでいる。

こうした流れのなか、25年にNBCUから分離されるケーブルチャンネルCNBCは、その後の準備として同年第1四半期に単独の配信サービス「CNBC+」を開始する。また、スカイダンスによるパラマウント・グローバルの吸収合併が進むなか、傘下のCBSも戦々恐々。合併後に向けた準備の一環として、25年1月から夜の配信ニュース番組『CBS Evening News Plus』(30分)を始めると発表している。

▶スポーツと報道がリニアの命綱に
ただし、リニアを通じたスポーツ、ニュース、イベントのライブ中継にこだわる視聴者も多い。ニールセンの各種データが示すように、MLBのワールドシリーズやNBAのファイナル、NFL、オリンピック中継はリニアが安定して高い視聴者数を弾き出している。この分野では地上波とケーブルがまだまだ配信を圧倒していると米メディアは指摘する。事件や世界情勢の速報、選挙の開票報道などのライブ中継もまたしかり。現段階でリニアテレビの命綱であるこの領域にも配信サービスがジリジリと迫ってきている。トランプ新政権がメディアに与える影響も含め、テレビ業界がこれからどのように変わっていくのか――。これまで以上に注目される2025年の幕開けといえよう。


¹ 米ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)が映画とテレビの優れた作品を選ぶ第82回ゴールデングローブ賞は1月5日にビバリーヒルズのホテルで発表と授賞式が行われた。真田広之さんがプロデュース・主演した『SHOGUN 将軍』(FXプロダクション)がテレビドラマ部門の作品賞、主演男優賞(真田さん)、主演女優賞(アンナ・サワイさん)、助演男優賞(浅野忠信さん)が受賞した。

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