2021年秋(10~12月)クールのドラマは、社会的なテーマをミステリーなど独自の切り口で描こうとする硬派な作品が多かった。
日曜劇場(TBS系日曜21時枠)の「日本沈没―希望のひと」(以下「日本沈没」)はその筆頭だ。本作は日本列島沈没を前にした混乱と選択を描いた壮大な物語。過去に何度もリメイクされた作品だが、今回は気候変動の問題を軸にコロナ禍の現状が強く反映された物語となっていた。環境省の若手官僚・天海啓示(小栗旬)の視点で描かれ、政財界の大物が互いの意見をぶつけ合う政治劇の側面が強く、日曜劇場が得意とする企業ドラマの持ち味が活かされた「日本沈没」となっていた。何より印象的だったのは、日本人の移民先の国を抽選で決めるくだり。コロナ禍のワクチン接種をめぐる混乱が投影されていたように感じた。
一方、より直接的な描写でコロナ禍を描いていたのが「和田家の男たち」(テレビ朝日系)だ。本作は元新聞記者の祖父、テレビ局報道マンの父、ネットニュース記者の息子の三世代の物語。コロナの影響で会社をクビになった息子の優(相葉雅紀)が、デリバリーサービスの配達員を経てネットニュース記者になるという流れがとても現代的だった。コロナ禍の描写も徹底しており、外出時には基本的にはマスク着用で、海外からの帰国者が自主隔離を行う場面もあった。コロナ禍の現実を具体的に描いた意欲作だったと言えるだろう。
新設された月10(フジテレビ系月曜22時枠)の第一作となった「アバランチ」(関西テレビ制作)は、謎のアウトロー集団「アバランチ」がネット動画で政治家の悪事を暴いていく物語。チーフ監督は映画「新聞記者」で大きく注目された藤井道人。内閣官房副長官の陰謀に立ち向かう政治的な物語となっており、映画調の社会派アクションドラマに仕上がっていた。
何より盛り上がったのが、政治の闇と絡んだ謎が謎を呼ぶミステリー展開に対する"考察"だ。「あなたの番です」(日本テレビ系)の成功以降、事件や謎を視聴者が推理する"考察ブーム"がテレビドラマを席巻しており、いかに考察を誘うかが人気の秘訣の一つとなっている。
金曜ドラマ(TBS系金曜22時枠)で放送された「最愛」は、そんな考察ブームの中で、最も盛り上がったドラマだった。刑事の宮崎大輝(松下洸平)が大学時代に好意を寄せていた女性・梨央(吉高由里子)が殺人事件の重要参考人として目の前に現れるところから始まる本作は、事件の謎と恋愛ドラマをリンクさせることで視聴者を惹きつけた。タイトルの意味が回収される最終話の展開が実に見事で、考察とラブストーリーの快楽が融合した見事なドラマだった。一方、「あなたの番です」の秋元康が企画した「真犯人フラグ」(日本テレビ系、放送中)は、家族の失踪事件の被害者となった相良凌介(西島秀俊)が事件の真相を追うミステリードラマだ。謎に満ちた事件と同時に、凌介を犯人と疑うマスコミや動画配信者による二次被害が描かれるのが本作の独自性で、考察ブームの根底にある「誰もが発信できる時代の暗黒面」を強く打ち出したメタ考察ドラマだと言えるだろう。
NHKでは、年末に三夜連続で放送された「岸辺露伴は動かない」が印象に残った。荒木飛呂彦の人気漫画「ジョジョの奇妙な冒険」のスピンオフ漫画をドラマ化した本作は、人間を本に変えることで相手の記憶を読んだり、文字を書き込むことで行動を支配することができる超能力「ヘブンズ・ドアー」を持った漫画家・岸辺露伴(高橋一生)がさまざまな怪事件に遭遇する一話完結のドラマ。荒木漫画の独自の世界観を「トリック」(テレビ朝日系)などのミステリードラマの枠組みを活かすことで、ドラマならではのアプローチに落とし込むことに成功。20年の年末に放送された1~3話が好評だったことを受けての続編だったが、年末の定番ドラマとして定着してほしい。
最後に、最も衝撃を受けたのがWOWOWで放送された「前科者―新米保護司・阿川佳代」だ。本作は保護司の阿川佳代(有村架純)と仮釈放中の前科者との交流を描いたヒューマンドラマ。「犯罪者の更生」という難しいテーマに真正面から向き合った作品で、有村を筆頭とする役者陣の熱演も素晴らしかった。