ラジオはマルチメディア企業に 米国ラジオ業界動向2022

渡邉 卓哉
ラジオはマルチメディア企業に 米国ラジオ業界動向2022

※本レポートは、民放連ラジオ委員会(委員長:上口宏・文化放送会長)の依頼で、民放連会員のラジオ社向けにまとめた報告書「米国ラジオ業界動向2022」の一部を再編集したものです。

1.米国におけるラジオ・デジタルオーディオ広告

媒体社の業界団体IAB(Interactive Advertising Bureau)とコンサルティング会社PWCが毎年発表する「Internet Advertising Revenue Report」によれば、2021年のラジオ広告費は20年比で12.8%増となり、コロナ禍の影響で二桁減となった20年から復活を遂げた。

インターネット広告費は引き続き好調で、20年比で35.4%増となり、驚異的な強さを見せた(図1)。インターネット広告費は10年以上も右肩上がりでの成長が続いており、米国のラジオ局が成長の機会を求め、積極的にデジタル事業を取り込んでいる背景はこの点にあるとも言える。
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 <図1 媒体別広告費成長率>

図2は、20年から21年にかけてのインターネット広告費の中で、広告フォーマット別の成長率をインデックス化したもの。インターネット広告費全体の成長率に比べ、デジタルオーディオの成長率が高くなっており、フォーマット別でもデジタルビデオを抜いてトップに立っている。ポッドキャスト聴取も含めて、デジタルオーディオの聴取自体が順調に拡大していることとマネタイズの手段が整ってきたことが追い風となっている。
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<図2 フォーマット別成長率比較>

調査会社のeMarketerは、ラジオ、デジタルオーディオ広告費およびその予測について、ラジオ広告費(ローカル、ナショナル、衛星ラジオを含む、イベントとデジタルは含まない)は、21年は前年比8.2%増の108.3億ドル(1兆4,079億円、1ドル130円換算、以下同)となり、22年、23年はほぼ横ばいが続くと見ている(図3)。

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<図3 ラジオ広告費推移・予測>

デジタルオーディオ広告(ラジオ局のデジタルおよびSpotifyやPandoraなどのストリーミングサービス、ポッドキャストを含む)は、21年は前年比19.6%増の56.9億ドル(6,828億円)となり、22年、23年も10%前後の成長が続く見込みだ(図4)。

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<図4 デジタルオーディオ広告費推移・予測>

デジタルオーディオの中で存在感を増すポッドキャストだが、広告費も順調に増加している。IABの「US Podcast Advertising Revenue Study」によれば、2021年のポッドキャスト広告費は14.5億ドル(1,885億円)となり、2020年の8.4億ドル(1,092億円)から72%増と一気に10億ドル(1,300億円)の大台を大きく超える結果となった(図5)。また、22年の予測は21億ドル(2,730億円)となっており、20億ドル(2,600億円)超えを達成する見込み。24年には40億ドル(5,200億円)を超える市場に倍化するとしており、今後もポッドキャスト広告は順調に増える見込みだ。

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<図5 ポッドキャスト広告の推移(IAB)>

2.米国におけるオーディオ聴取傾向

2021年、13歳以上のアメリカ人の1日あたりのオーディオ聴取時間の割合は、AM/FMラジオがオーディオ聴取全体の38%。その他のオーディオプラットフォームは、ポッドキャスト、Spotify(スポティファイ)、YouTube Music(ミュージックビデオなど)などで62%を占めている。14年以降の変遷を見ると、4年はAM/FMラジオの聴取時間は全体の半分以上の53%だったが、それ以降、少しずつ減少を続け、16年にはAM/FMラジオとその他オーディオとの割合が半々となり、17年に逆転。さらにその差が拡大している(図6)。

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<図6 1日あたりのオーディオ聴取時間割合の推移>

聴取デバイスに関してはスマートフォンの普及が大きく関係するが、図7は、2014年から2021年までの、AM/FMラジオを含めた全てのオーディオ聴取において、従来のAM/FM受信機とスマートフォンの使用率の比較と推移を示している。

2014年にAM/FM受信機を使用していた人は全体の49%で、スマートフォンが18%。2014年以降、AM/FM受信機使用は減少傾向にあり、スマートフォンは増加傾向にある。2021年にはAM/FM受信機が33%、スマートフォンが32%と、ほぼ同じ比率となっている。スマートフォンがAM/FM受信機を追い越すのは時間の問題だろう。

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<図7 聴取デバイスの比較と推移>

図8は、2021年における年齢層別での使用するデバイスをグラフにしたものである。一番上の棒グラフが全年齢層で、以下13〜34歳、35〜54歳、55歳以上という年齢層。デバイスは、赤=AM/FM受信機、紺=スマートフォン、黄=コンピューター、茶=シリウスXM受信機、薄青=スマートスピーカー、橙=(従来の)テレビ、濃青=CTV(コネクテッドTV)、灰=その他となっている。

AM/FM受信機(赤)とスマートフォン(紺)を比較すると、全体ではほぼ互角。年齢が高いほどAM/FM受信機(赤)が圧倒的に多く、若くなるほどスマートフォン(紺)が圧倒的に多くなる。中間の年齢層である35〜54歳は、全体と似た比率となっている。

スマートスピーカー(薄青)を使う人の割合が、ほぼ全ての年齢層で同じで、4-5%程度となっている。

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<図8 年齢層別使用デバイス>

ここで注目したいのは、CTV(濃青)がオーディオ聴取デバイスになってきているという点だ。全体では5%で、最も比率が高いのが13〜34歳の7%。35〜54歳でも5%、55歳以上で2%となっている。これを従来のテレビ(橙)と足すと、全体では実に9%が、毎日テレビ経由でオーディオを聴いていることになる。特に若い世代では友達と一緒にSpotifyをテレビで聴くという行動も見られ、テレビは音楽番組を「視聴」するためだけのものではなく、オーディオコンテンツを「聴取」するデバイスにもなってきていると言える。

ラジオのマスメディアとしての力はまだまだ健在で、減速は緩やかだ。毎日AM/FMラジオを聴く人の人口比率は、2014年が74%、18年まで70%台をキープ。21年には63%まで下がっているが、メディア業界全体が大きく変わりつつあることを考えれば、ラジオ聴取はそれほど大きな変化を見せていない(図9)。「配信とデバイスの普及で、オーディオ源は急速に多様化しているが、ラジオの底力は侮れない」と調査会社のEdison Researchは指摘している。

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<図9 ラジオのリーチ推移
(Radio's strong daily reach is not declining at a fast pace, Edison Research) >

車内でのオーディオ聴取は、AM/FMラジオの独壇場と言える。AM/FMラジオは、2020年には81%の人が「車の中で聴いた」と答えており、22年は減ってはいるものの、引き続き75%を維持している(図10)。

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<図10 車内でのオーディオ源比較>

AM/FMラジオは、引き続きローカル広告主が消費者に最もリーチできる場所である。ラジオは、その他のストリーミングオーディオにはない消費者へのリーチを持っており、強みとなっている。

図11は、13歳以上のアメリカ人における広告入りのローカルオーディオの聴取時間のシェアを示したもので、AM/FMラジオが圧倒的な74%シェアとなっている。ストリーミングオーディオは15%にすぎず、内訳はPandora(無料プラン)が6%、Spotify(無料プラン)が5%、その他4%、ポッドキャストが11%となっている。

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<図11 広告入りローカルオーディオ>

コロナ禍で影響は受けたとは言え、米国のラジオ業界は回復傾向にあると言える。一方で一時的なコロナ禍の影響だけではなく、聴取者の聴取方法の変化は確実に起きており、配信やスマートフォンでの視聴が存在感を増していることも確かだ。ラジオ局はそうした変化をチャンスと捉え、ビジネスの多様化を図る必要があると、RAB(Radio Advertising Bureau)のトップを務めるErica Farber氏は指摘する。

「ラジオはもはやラジオ単体のビジネスではなく、オーディオ、ビデオ、ソーシャルを巻き込んだマルチメディア企業に進化している。われわれは統合マーケティング会社(Integrated Marketing Company)だ」――同氏の言葉は、現在のラジオ局が目指すビジネスモデルを体現した言葉ではなかったか。

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