【審査講評】新たなドラマの萌芽、感じさせる (2024年民放連賞テレビドラマ番組)

桧山 珠美
【審査講評】新たなドラマの萌芽、感じさせる (2024年民放連賞テレビドラマ番組)

8月20日中央審査【参加/19社=19本】
審査委員長=大友啓史(映画監督)
審査員=岡室美奈子(早稲田大学文学学術院教授)、桧山珠美(フリーライター)、ブルボンヌ(エッセイスト、女装パフォーマー)

                           ※下線はグランプリ候補番組


昨年の『エルピス-希望、あるいは災い-』のように他を圧倒するような作品はなく、審査員の票も分かれることになった。それだけに議論は白熱し、それぞれのドラマの評価のみならず、昨今のテレビドラマの潮流や視聴者が求めるテレビドラマとは何か? などをめぐって話が広がり、有意義な審査会となった。
関西テレビ放送の『春になったら』には審査員全員の票が入った。温もりのある笑って泣けるホームドラマが高く評価され、まごうことなく最優秀作品となった。
価値観の変化、多様性の波に翻弄され、ドラマの制作者たちもまた迷いの時期にあるのだろう。が、それは決してマイナスではない。荒唐無稽な冒険活劇から、人情ドラマ、ドキュメンタリーとの融合など、チャレンジングな作品の数々が新しいドラマの萌芽を感じさせたからだ。
特筆すべきは、地元の魅力を伝えようと奮闘するローカル局の存在だ。その情熱と地道な努力が結実する日はけっして遠くないように思える。

最優秀=関西テレビ放送/春になったら(=写真)
「3カ月後に結婚する娘」と「3カ月後にこの世を去る父」をワンクール=3カ月で見せる連続ドラマならではの構成に、福田靖のユーモアあふれる脚本と松本佳奈の丁寧な演出。さらには、木梨憲武と奈緒の父娘と、ふたりを囲む濱田岳、筒井真理子、小林聡美らのナチュラルな演技が素晴らしい調和を生み出し、単なるお涙頂戴ではない作品となった。奈緒が演じる娘が助産師ということから、生と死のコントラストが明確に伝わり、生きることの意味、悲しみやおかしみ、死について思いを巡らせると同時に、優しさをまとった笑って泣けるホームドラマとして成功している。

優秀=TBSテレビ/VIVANT
主役級の俳優を揃え、壮大なスケールと迫力ある映像、そして、先の読めない展開で視聴者の心を鷲づかみにし、普段テレビドラマを観ない人たちをも巻き込んで、SNSの盛り上がりも含めて最強のエンタメを提供した。一方で、テロを肯定するとも受け取れる姿勢はファミリードラマとしては一考の余地があるのでは? という意見も。とはいえ、配信ドラマばかりが話題をさらうなかで、日本のテレビドラマの底力を見せ、その可能性を大きく押し広げた2023年を代表する話題作として外せない作品であることには違いない。

優秀=日本テレビ放送網/最高の教師 1年後、私は生徒にされた
定番の学園モノだが、ありがちな熱血青春系ではなく現代社会の闇にも目を向けたダーク系。松岡茉優演じる教師が卒業式の日に何者かに突き落とされ、死んだはずが1年前にタイムリープしていた――。自分を突き落とした生徒は誰なのか真相を突き止めるために、人生をやり直し、生徒と本気で向き合うことを決意。自分の命を守るため、躊躇なく生徒たちの暗部に踏み込んでいくという設定が斬新で秀逸だった。なかでも、いじめの被害者から覚醒してゆく生徒役・芦田愛菜の、いじめられた側の今まで我慢していた想いを吐露する渾身の演技に魅せられた。現在の萎縮しがちな教育現場に一石を投じるドラマだ。

優秀=WOWOW/連続ドラマW 湊かなえ「落日」
オーソドックスで堅実な演出で、淡々と的確に物語を紡いでいく。15年前の殺人事件の真相を映画監督と脚本家のコンビが解き明かしていく設定が面白い。緊迫感を漂わせつつどこかノスタルジックな内田英治監督の映像も見応えがあった。複雑な人間関係や過去の記憶など伏線が巧妙に張り巡らされ、次の展開への興味に繋いでいく巧みな構成で、サスペンスドラマとしての完成度が高い。

優秀=東海テレビ放送/おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!
多様性の時代とはいえまだまだ古い価値観や偏見を持った人は多い。主人公はそんな"THE昭和脳"のおっさんで、原田泰造が巧く演じている。引きこもりの息子のゲイの友人と友達になることで、いろいろと間違えながらも少しずつ価値観をアップデートしていき、その気づきのひとつひとつが丁寧に描かれ、そんな彼にわが身を重ねる視聴者もいるだろう。多様な価値観を認め合おうという時代を反映した、メッセージにあふれたドラマだ。

優秀=琉球放送/琉球歴史ドラマ「阿麻和利 THE LAST HERO」
琉球放送が続けている「琉球歴史ドラマ」の第三弾。自分たちのルーツともいえる琉球の歴史を、後世に伝えていこうという強い思いが伝わる。琉球王国に反旗を翻したとされる阿麻和利を主人公に、彼の信念と歴史の裏面を描くことに成功した。阿麻和利を演じた佐久本宝を筆頭に沖縄出身の俳優を起用し、より地元色の強い作品となった。人物のワンショットが多く、画角の狭さ、映像の動きの乏しさなど気になるところはあるものの、限られた予算のなかで、作りたいものを作ろうという挑戦を強く評価したい。


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・審査結果はこちらから。 


 

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