【メディア時評】2022年冬クールドラマ総括 「他者との関わり方」を強く意識 児童虐待や毒親もモチーフに

成馬 零一
【メディア時評】2022年冬クールドラマ総括 「他者との関わり方」を強く意識 児童虐待や毒親もモチーフに

2022年冬クールは「他者との関わり方」について、あらためて考えさせられるドラマが多かった。

その筆頭は、遊川和彦脚本の「となりのチカラ」(テレビ朝日系)だろう。中越家の父・チカラ(松本潤)は困っている人を見つけると放っておけない性格。マンションの住人たちを心配しては、よその家族の問題に踏み込んでいく。児童虐待、ヤングケアラー、外国人技能実習生といった社会的テーマが盛り込まれた群像劇で、有名人の話を聞いて自叙伝をまとめるゴーストライターを生業としているチカラは、相手の話を「聞く」ことで問題を解決していく。チカラのような力を持つ人が、「他者との関わり方」が問われる今の時代に必要なのではないか。

NHKの「よるドラ」枠で放送された吉田恵里香脚本の「恋せぬふたり」も「他者との関わり方」について考えさせられるドラマだった。他者に恋愛感情も性的欲求も抱かないアロマンティック・アセクシュアルの男女の同居生活を描いた本作は、恋愛とは違う形で人と人が家族を作るにはどうすればいいのかを模索する作品だった。現代的な題材に挑んだ、実に「よるドラ」らしい作品だったと言えるだろう。本作で「よるドラ」は終了したが、攻めた作品を作り続けた意欲的なドラマ枠だった。

「恋せぬふたり」とは違う形で恋愛のあり方を見つめ直そうとしたのが岡田惠和脚本の「ファイトソング」(TBS系)だ。事故で夢を断念した元・空手選手の木皿花枝(清原果耶)が、新曲を書くために恋愛について学びたい一発屋のミュージシャン・芦田春樹(間宮祥太朗)のために、期間限定で恋人として振る舞う姿を描いた本作は、岡田惠和が得意とするメタ恋愛ドラマ。恋人の真似をしてデートをする中で少しずつ2人の心が通じ合っていく展開はラブコメの王道だが、感情に流されて勢いでつきあうのではなく、一つ一つプロセスを積み重ねて、お互いが納得できるまでなかなか相思相愛とならない、理知的な恋愛模様が印象に残った。

一方、「におい」というある種の動物的な欲望を軸に男女の恋愛を描ききったフェティッシュな恋愛ドラマが「あせとせっけん」(毎日放送)である。化粧品&バス用品メーカーに務める八重島麻子(大原優乃)は汗っかきで、体臭にコンプレックスを抱えていた。そんな彼女の同僚で、商品開発部で働く「においフェチ」の名取香太郎(佐藤寛太)と交際することで成長していく。麻子の体臭を"煙"として描いたり、2人のラブシーンを「幻想的な空間での追いかけっこ」で表現するといったユニークな演出が光るドラマで、グラビアアイドルの大原優乃の健康的な瑞々しさが魅力的だった。

対して、「シジュウカラ」(テレビ東京系)は40代女性の性愛と仕事に向き合うシリアスなドラマだった。40歳の主婦で売れない漫画家だった綿貫忍(山口紗弥加)がレディースコミックの不倫純愛モノでブレイクする姿が、22歳の漫画家志望の青年とのラブストーリーとともに描かれる本作。「勝手にふるえてろ」や「私をくいとめて」などの映画で知られる大九明子監督がチーフ演出を担当し、文学的な作品に仕上がった。

読売テレビ制作の「ケイ×ヤク-あぶない相棒」(日本テレビ系)は公安の刑事とヤクザの若頭のバディドラマ。謎に満ちたストーリーとBL(ボーイズラブ)的な男の子同士の楽しい日常描写の組み合わせが絶妙で、ダークな映像と物語が癖になる作品だった。

最後に、今クール一番の話題作となったのが田村由美の漫画を映像化した月9ドラマ「ミステリと言う勿れ」(フジテレビ系)だ。大学生の久能整(菅田将暉)が行く先々でさまざまな事件に遭遇して謎を解いていくドラマだが、タイトルのとおり、中心にあるのは謎解きではなく「僕は常々思うのですが~」と言って語り出す、久能の哲学的なうんちくにある。劇伴の使い方や映像の癖が強かったため、賛否が割れたドラマだったが、それだけ多くの視聴者の関心を集めたという証左である。

また、本作は児童虐待にまつわるエピソードが多かったが、冬クールのドラマ全般でも児童虐待や毒親の問題を扱う作品が多かった。おそらく、虐待など家族の問題と「他者とどう関わっていくか」という問題は地続きなのだろう。人と人のコミュニケーションを描くことがドラマの基本である以上、この問題意識は今後も引き継がれていくのではないかと思う。

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