【審査講評】広告戦略に優れた作品を高く評価(2024年民放連賞CM部門)

松野 みどり
【審査講評】広告戦略に優れた作品を高く評価(2024年民放連賞CM部門)

7月30日中央審査[参加/ラジオ第1種23社=46本、第2種21社=36本、テレビ12社=18本]
審査委員長=入山章栄(早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジネススクール教授)
審査員=佐藤舞葉 (コピーライター/CMプランナー)、田中淳一(クリエイティブディレクター)、松野みどり(サイバーエージェント 次世代生活研究所 上席研究員)、八塩圭子(東洋学園大学教授・フリーアナウンサー)。


民放連賞CM部門は、その応募対象の特性から、公共キャンペーンの応募作品が他の広告賞に比べ多数寄せられます。中には、広告というよりもドキュメンタリー番組のような作品も見受けられます。
広告効果、倫理性、独創性などの観点から審査員で議論をしますが、今回特に議題となったのは「伝わるCM」かどうかの観点。視聴者・リスナーが見たくなる・聞きたくなる構成か、放送の時期や枠はターゲットを狙えているか、媒体特性を活かせているかなど、作品としての素晴らしさだけでなく広告戦略に優れた作品が高く評価されました。

ラジオCM第1種
(20秒以内)

CM第1種.png

最優秀=朝日放送ラジオ/中央軒/企業CM/「あますことなく」 篇 
ちゃんぽんと皿うどんで悩む、というあるあるネタを、ラジオCMだからこそできる手法に見事に落とし込んだ点が評価された。左右のスピーカーから同時に別々の音声が流れるが、初聴でも聞き分けることができ、プロの技を感じる。複雑な構成の中で、「中央から中央軒」とシンプルにまとめたオチも秀逸で、最優秀に選出された。

優秀=文化放送/トンボ鉛筆/受験生応援/書きなれた文字 篇 
人生で最も多く書く文字は確かに自分の名前だろう。それを緊張する受験で丁寧に書く、というあの感覚をリアルに思い出させる描写だった。受験を応援する広告は世に多くあるが、単なる応援メッセージだけではなく、緊張をほぐすための提案をしている点が新鮮で、受験生の印象に残るのではないか。

優秀=エフエム愛知/自社媒体PRスポット/「かけ声A」 篇
20秒の短いCMの中で、段積みのような構成が成立している。「やすいよやすいよ」というバナナの叩き売りのような声、「のこったのこった」という相撲の掛け声のような声のリズム感が良い。それほど凝った内容ではないが、ラジオCMとしての完成度が高く、評価につながった。

優秀=朝日放送ラジオ/カクヤス/企業CM/「1本」 篇 
別々のものを掛け合わせる表現はどちらかに無理が生じることが多いが、この作品は野球・カクヤスの双方できちんと成立する会話に仕上がっていて、面白い。

優秀=山口放送/竜崎温泉ちどり/企業CM/背負うものがデカすぎる 篇 
思わず笑ってしまう作品。少しずるい気もするが、著名人と同姓同名の人の苦労というあるあるを取り上げ、最後はきちんと温泉に着地させている。音声のみのラジオCMならではの発想も評価につながった。

優秀=エフエム熊本/オオスキ現場市場/企業CM /工具あるある 
シンプルだがよく練られた構成。「バールのようなもの」という聞き馴染みのある表現を使い、現場市場の豊富な商品数の訴求につなげているのが面白い。

優秀=エフエム熊本/車検のコバック/企業CM/結婚記念日 
2年に1回という車検の特性を上手くネタにし、宣伝につなげている。また、妻役のナレーションにリアリティがあり、短い秒数でも夫婦の関係性を想像できた。

ラジオCM第2種
(21秒以上)

CM第2種.png

最優秀=ニッポン放送/公共キャンペーン・スポット/ラジオ・チャリティ・ミュージックソン 白杖体験 篇 
リスナーに目を閉じるように促し、当事者がどのように生活しているかを疑似体験させるという、ラジオならではのCM。ステレオ音声を上手く活用し、白杖の音が一つ一つ違うことなどを巧みに表現することで、想像力を掻き立てる。最後の「音のチカラで、誰もが安心して過ごせるために」というメッセージも説得力があり、心に響いた。

優秀=文化放送/サッポロビール/サッポロ生ビール 黒ラベル/ほしをえがこう 篇 
星の描き方の違いを、線を引く音で伝える表現が新鮮。さまざまな描き方が紹介される中で、自分であればどう描くかをつい想像してしまう。星の描き方を通じて多様性を伝えるとともに、サッポロビールの星型のブランドシンボルや「丸くなるな、星になれ」のブランドメッセージを印象付けており、CMとしての完成度の高さを感じた。

優秀=エフエム東京/群馬県/子宮頸がん予防ラップ/ねえねえ知ってた?
ターゲットを明確に狙った戦略が評価につながった。若年層の視聴者が多いラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!」の枠で放送し、かつ、若年層の半数以上が利用しているTikTokとのメディアミックスで広告を展開。ラップも耳に残りやすく、HPV(ヒトパピローマウイルス)という言葉を若年女性に知ってもらうには格好の手法ではないか。

優秀=エフエム東京/聖教新聞社/企業CM/ニカラグア手話
「ニカラグア手話」が生まれた経緯は純粋に興味深く、聞き入ってしまう。あまり知られていない真実を伝えることで、聖教新聞のキャッチコピーへの説得力が増す構成になっている。

優秀=静岡エフエム放送/自社媒体PRスポット/先輩へ
ラジオというパーソナルなメディア特性を活かした作品。ラジオを使って先輩に対してサプライズをすること自体が粋で、新鮮。視聴者も、CMだと捉えずに聞き入って、ほっこりとするだろう。

優秀=朝日放送ラジオ/中央軒/企業CM/「私たちは考えました」 篇 
言われてみればよく耳にするフレーズ「私たちは考えました」を巧みに使った構成が秀逸。CM制作についての自問自答が繰り返されることで、視聴者もこのCMで本当に伝えたいことが何なのか、気になってくる。結果的に、シンプルな訴求が印象に残る。

優秀=朝日放送ラジオ/カクヤス/企業CM/「ファミリーストーリー」 篇 
親子の距離感が、90秒とは思えないほどに作り込まれた展開で描かれていて、惹き込まれてしまう。2段階のオチが効果的で、カクヤスの存在価値をしっかり伝えることができている。

テレビCM

最優秀=毎日放送/ダイエー/企業CM/「ずっと一緒」 編 (冒頭写真)
たった30秒の動画に様々な背景やエピソードが詰まったCM。本作は、能登半島地震の発生により、急遽追加制作された。ダイエーが阪神・淡路大震災の際に被災者のライフラインとして奮闘した事実や、創業者の発案で生まれ、今も1枚だけ現存するポスターのメッセージを通じて、助け合いの尊さや社会的使命を伝えている。関西出身者としては、忘れられない当事者意識と共に、当時のダイエーの姿に安心感が湧いてくる。また、阪神タイガースの38年ぶりの日本一に合わせた特別番組の連動CMでもある。かつて阪神と日本一を競った福岡ダイエーホークスの親会社の企業姿勢を、このタイミングで紹介する気概が素晴らしい。

優秀=テレビ東京/自社媒体PRスポット/開局60周年 テレ東CM
現在テレビ局が置かれている立場や、視聴者との距離感を上手く表現した点が評価につながった。豪華な俳優陣、テレビ東京社員の士気が高まるような内容も、テレビ東京開局60周年にふさわしい。

優秀=東海テレビ放送/公共キャンペーン・スポット/#ハタチ #学生 #いま
戦争経験者や被災者の話を聞く大学生の表情が変わっていく様子から、リアルな心情の変化が感じ取れた。番組にすればいい内容とも思えるが、シンプルながら響く言葉でエピソード毎に締める構成によって、CMとして成立している。特に「受け止める覚悟が、ふたりにはなかった」「彼女は、用意していた質問ができなくなった」は、いい言葉だと感じた。

優秀=読売テレビ放送/公共キャンペーン・スポット/「ま、いっか」で寛容に
インターネット上などで、正論vs正論のぶつかり合いが多々見られる今の社会において、「寛容」というテーマを取り上げたのが良い。よく見るテーマでもあるが、適切な取材対象者を見つけて、丁寧に取材して作りあげている点が新しかったと思う。あらためて大切なことだと考えさせられた。

優秀=山口朝日放送/公共キャンペーン・スポット/yab SDGsキャンペーン「むかしばなしから学ぶSDGs」
プロから見ると単純で、ありきたりに感じられるという意見もあったが、一般の視聴者にとって昔話や童話はいつの時代もなじみがあり、面白さを共有できる。また、子供役の女の子とお母さんの絶妙な表情の対比にも思わず笑ってしまった。


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