コロナ禍の困難がいまだ続く中、東日本大震災から11年が経った。防潮堤や高台移転、伝承施設の整備といった被災地のハード面での復興が進む一方、政府主催の式典は昨年で最後となり、風化も指摘されている。編集広報部(4月1日付で編集部から改称)は今年も岩手・宮城・福島の民放各局に、3月11日を中心とした震災関連の特番や取り組みに関するアンケートを実施。その結果を紹介する。今回は岩手の事例をまとめた(宮城編、福島編は後日掲載予定)。
3月11日、テレビ岩手は特番「震災11年いま伝えたい」で、沿岸に暮らす人々の生活などにフォーカス。人口の約1割が犠牲となった大槌町で、津波被害を庁舎屋上で生き延びた町職員が思いを語った。13日には、岩手の子どもを元気づけようと2011年にスタートしたローカルヒーロー番組「鉄神ガンライザー」の歩みを振り返る特番を組んだ。ワイド番組「5きげんテレビ」では、矢野智美アナウンサーがデジカメを持って被災地を訪ねる企画を昨年復活させ、直近では陸前高田市の魅力を動画で発信する男性を取り上げた(=写真㊤)。同社は、震災当時の取材経験がない記者が大半となる中で「地元のテレビマンとして、社長以下一人一人が東日本大震災について問題意識や特別な思いを持って取り組まなければならない」としている。
「Jチャンいわてスペシャル 3・11明日への備え」を放送した岩手朝日テレビ。仙台市を拠点に被災地の取材を続けている朝日新聞社の石橋英昭編集委員をゲストに迎え、津波災害からの避難などを考えた。また、三陸鉄道の宮古駅から中継を入れ、同鉄道の社員らがガイドとして震災当時の状況などを伝える「震災学習列車」の取り組みを紹介。当日の夕方ニュースのコーナーでは、新たな移住者を呼び込む陸前高田市の取り組みに焦点をあてた。さらに、13日の「テレメンタリー」で「3・11を忘れない88『どうする、大槌』」を全国放送。多くの職員が津波の犠牲になった大槌町の町役場跡地のあり方をめぐる住民らの議論の行方を追い、その葛藤を描いた。
<岩手朝日テレビ「Jチャンいわてスペシャル 3・11明日への備え」>
人や地域、伝承などをテーマに、震災特番「みんなのラジオ」を12年から毎年放送していたエフエム岩手は、心機一転、防災・減災を主軸とした「未来へつなげるRADIO」をオンエアした。大槌町の伝承事業や県立総合防災センターの出前講座などを紹介したほか、500人を超える県内震災孤児・遺児の現状と、それを支援する基金の活動も取材。ワイド番組「夕刊ラジオ」では、防災関連の活動を推進するNPOなどを3月7日の週に帯で特集した。取材班は、沿岸部の自治体やエリアによって復興の度合いに差ができていると感じており、「未来に希望を届けられる放送に取り組みたい」という。
<エフエム岩手「未来へつなげるRADIO」>
IBC岩手放送は「忘れない3・11 未来につなぐ津波映像のメッセージ」で、震災当日に被災者が必死の思いで撮影した津波映像を放送。教訓が風化しないよう、改めて迅速な避難が大切であることを訴えた。ラジオは、「東日本大震災から11年~語り継ぐ3・11」で追悼式典の中継や、震災の伝承と防災意識向上のための各地の取り組みを紹介。大槌町の高校生による防災紙芝居や震災前の街の様子をスマホで見ることができる陸前高田市の活動などを伝えた。また、震災の記憶を次世代へつなぐためのデジタルプロジェクト「鵜住居(うのすまい)」を岩手日報社と共同で展開。同紙記者のニュース解説をラジオやSNSで多角的に発信する「デジタルニュース・ラボ」の成果をまとめ、学校教材など若年層向けの活用を目的にウェブサイトや3Dマップを自社制作した。
<IBC岩手放送「忘れない3・11 未来につなぐ津波映像のメッセージ」>
岩手めんこいテレビは当日の「mit Live News」のローカルニュース枠を拡大。14日のコーナー企画では、平泉町中尊寺での法要、陸前高田市高田小学校での伝承授業など県内各地の3・11の様子を取り上げた。5月には、「FNSドキュメンタリー大賞」枠で「校長先生が残した高田学~高田小学校の復興教育(仮)」の放送を予定する。櫻克宏・報道局長兼報道部長は「震災を知らない子どもたちが増えてきている中、被災地の住民に寄り添った報道を心掛けているが、伝え続けることの難しさも感じている」と語る。