オーストラリア議会は11月29日、16歳未満のソーシャルメディア(SNS)利用を禁止する法案を可決した。SNSの過度の使用が心身の健康に与える影響から子どもを保護することが目的で、保護者の同意があっても利用は認められない。国家レベルでSNSの利用に規制をかける初めての事例であり、大手IT企業を対象とした最も厳しい規制の1つとなる。対象となるのは、X、Facebook、Instagram、TikTok、Snapchat、Redditなどのソーシャルメディアプラットフォームだが、YouTube、WhatsApp、Google Classroomなどのメッセージングアプリやオンラインゲーム、健康・教育サービスに当たるものは除外されるとみられる。一部報道によると、政府は、未就学児から12歳未満の子どもを対象としたYouTube Kidsのような、低リスクで子どもの発達段階に見合ったサービスの開発を奨励する意向だという。
2025年1月から試験運用を開始、さまざまな調整を実施したうえで、1年後に禁止措置が発効する予定だ。IT企業は、今後、16歳未満の利用を防ぐため合理的措置を講じていることを示す必要があり、対応を怠ったプラットフォームには、最大で約5,000万オーストラリアドル(約49億円)の罰金が科せられる。また、政府は今後、禁止対象となる16歳未満のアカウントを無効化する日を設定する。親や子どもが禁止措置を破ってSNSを利用しても罰則はない。
ただ、年齢確認の方法など、同法には不確定な部分が残されている。生体認証やIDなどの身分証明は、確実に機能するとは限らない。また、プライバシー保護も必要だ。VPN(仮想プライベートネットワーク)を経由することで、制限を回避することも考えられる。Metaなどはアプリ側が一括して年齢確認をすべきと反発している。いずれにしても、技術的に完璧な禁止は困難だ。
こうした懸念に対し、アンソニー・アルバニージー首相は、「未成年の飲酒禁止と同様、完璧でなくとも規制を設けることが大事」と法案提出時にコメントしている。野党自由党のマリア・コバチッチ議員も「IT企業は、あまりにも長期にわたり、利益を優先して社会的責任を回避してきた」として、同法の正当性を強調している。
YouGovが11月に実施した調査によると、オーストラリア国民の77%が同法を支持しており、8月調査の61%から上昇している。特に、自傷行為をした子どもの保護者らが同法を強く支持しており、News Corp.も「Let Them Be Kids(子どもは子どもらしく)」キャンペーンを展開し、国内メディアはこれに同調する形で後押ししていた。
反対派からは、「規制を受けなかったオンラインゲームプラットフォームやメッセージングアプリでも、犯罪やいじめに巻き込まれる可能性がある」「4chanなどのウェブベースのプラットフォームが規制対象から外れている」「LGBTQIAや移民の10代の若者など、弱い立場にある子どもが、支援ネットワークから締め出される可能性がある」などの批判が相次いでいる。オーストラリア人権委員会は、「社会参加によって磨かれる若者の能力の向上を妨げ、人権侵害に当たる可能性がある」と批判している。
また、プライバシー擁護の立場からも、この法律により、個人情報の収集が強化され、デジタルIDによる国民監視への道が開かれるとの危惧も示されていた。この点については法案を修正し、プラットフォームが利用者の年齢確認のため、パスポートなどの公的証明書を使用することを禁止した。ユーザーの年齢確認後は、速やかに個人情報を破棄しなければ、罰金を科される可能性もある。
ユニセフ(国連児童基金)は、同法について、「子どもたちを規制が届かないオンラインの闇に追いやることになる」「禁止ではなく、年齢に適した安全なサポート体制が整ったオンライン環境を提供する義務をIT企業に負わせるべき」と警告している。
同法は、主要同盟国である米国との関係を悪化させるのではないかと懸念する声もある。ドナルド・トランプ次期大統領と親密な関係で、政権に強い影響力を持ち、Xのオーナーでもあるイーロン・マスク氏は、「合法性に重大な懸念がある」と強く反発している。また、FacebookやInstagramを運営するMetaも、「年齢相応の体験を保証するために業界が実施していることや、若者の意見を考慮せずに、拙速に法案を成立させた」と提出から1週間ほどで可決・成立させたそのプロセスを批判している。同法が効果を上げれば、広告主が将来の顧客として早い段階から囲い込みたい世代のユーザーを失うことになり、IT企業のビジネスモデルに打撃を与える可能性もある。
コンテンツ使用料をIT企業から徴収する法律を世界で最初に成立させたのは、ほかならぬオーストラリアだ。検閲につながりかねないとして廃案に追い込まれたものの、9月にはIT企業に自社プラットフォーム上の偽情報対策を強制する法案を提出していた。オーストラリア政府はさらに、IT大手がニュースメディアとの契約を拒否した場合、税金を課す方針を新たに発表した。年間収益2億5,000万ドル超のソーシャルメディアプラットフォームには共有するニュースの対価として課税し、自発的にメディアと商業契約を結んだ場合は免除されるという内容だ。
SNS禁止法は2025年5月までに行われる次期総選挙対策とも揶揄されているが、この流れが世界に波及する可能性は否定できない。