【2021年民放連賞 ラジオグランプリ受賞のことば】ラジオが持つ機能の「本質的恐さ」 制作者としてリアルに伝えたい

関根 英生
【2021年民放連賞 ラジオグランプリ受賞のことば】ラジオが持つ機能の「本質的恐さ」 制作者としてリアルに伝えたい

民間放送70周年という節目の民放大会で「軍属ラジオ」が最高賞であるところのグランプリを頂戴できたことはこの上ない喜びです。審査に当たっていただきました審査員の皆様にあらためて感謝を申しあげます。

また、来年2月までに全国の民放ラジオで放送していただけるとのこと、これは制作者としては最高の喜びであり、一人でも多くの人に聴いていただきたいという気持ちでいっぱいです。

「戦後75年スペシャル・封印された真実~軍属ラジオ」の制作動機について少々スペースをいただこうと思います。番組でも取り上げましたが、現在文化放送のAM放送の送信所~川口送信所(埼玉県川口市)は戦前、日本放送協会(現在のNHK)のラジオ送信所でした。文化放送は1952年の開局に当たり、NHKから土地および設備の売却を受け、以来およそ70年にわたり、彼の地からラジオ放送を行っています。そして、この場所に終戦間際、「地下スタジオ」が建設され、何らかの軍用放送が行われていたらしい――ということは2001年にNHKと合同の発掘調査もあり、社内でも少なからず話題にはなっていました。

しかしながら、作った目的とか経緯などについて少なくとも自分自身は全く無知でした。今回あらためて戦後75年スペシャルを制作するにあたり、この「何らかの軍用放送」とはアメリカが日本に向けて放送していたプロパガンダ放送を国民に聴かせないため、妨害電波を発信して対抗する防遏放送の実行=「ジャミング」だったということが初期の取材で判明しました。

正直に言いますと、最初は「ジャミング」とはどういう妨害放送で、どんな雑音を発信していたのだろう? といった好奇心、そして、そもそもラジオ放送って、事実をできるかぎりスピーディに、かつ正確に、多くの聴取者に届けることがメディアとしての使命だろ? 「ジャミング」って全く逆の行為になるよね? といった単純な問題意識が番組制作に取り組むキッカケであり、こともあろうにその拠点基地の一つが現在の文化放送送信所だったということが、私とアーサー・ビナード氏の背中をバシッと押しました。

ところが、取材を進めていくうちに「ジャミング」の面白さというか、あるいはそんな事に真剣に取り組む国家権力の馬鹿馬鹿しさ、そして「ジャミング」の対戦相手であるアメリカの「プロパガンダ放送」の実効力の恐ろしさといったテーマにぐんぐん引き寄せられていきました。番組の中に「姿なき武器」というコトバが数回出てきます。ビナード氏は番組の冒頭でラジオについてこんな事を言っています。"(ラジオは)毎日毎日、毎秒毎秒、相手の脳ミソと心に直撃する言葉の爆弾を飛ばせるんだ"と。実際、ナチス宣伝担当大臣のゲッベルスは『19世紀は新聞の時代だったが、20世紀はラジオの時代だ』と言い、ナチスのプロパガンダにラジオを積極的に活用しました。

次第に、われわれが生業として取り組んでいるラジオ放送は用途によっては「姿なき武器」になりえるということをラジオにかかわる者として、その「恐ろしさ」に思いを寄せなくていいのか? ということも考え始めました。

一方、そのような高邁な気持ちが前面に出すぎてしまうと、きっと小難しい説教臭い報道スペシャルになってしまうのだろうなぁという思いもあり、「60分間楽しんで聴いてもらえるようなエンタテインメント性も必要だ」という自問自答を繰り返しながらの番組制作となりました。解説より実音、実音がなければ再現、音楽も可能なかぎり忠実に再現、演出上の「遊び」も重要、といった方向性を実行しました。

そのうえで"ラジオが持つ機能の「本質的恐さ」をリアルに伝えたい"という制作者としてのメッセージは何とか表現できたのではないかなと、思っています。


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