【審査講評】躊躇しがちなテーマを描く緻密な構成と完成度(2024年民放連賞ラジオエンターテインメント番組)

金山 勉
【審査講評】躊躇しがちなテーマを描く緻密な構成と完成度(2024年民放連賞ラジオエンターテインメント番組)

8月23日中央審査【参加/69社=69本】
審査委員長=金山 勉(ノートルダム清心女子大学副学長)
審査員=城戸真亜子(洋画家)、嶋 浩一郎(博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクター)、長島有里枝(写真家)

※下線はグランプリ候補番組


ポストコロナ社会でラジオエンターテインメント番組は本来の姿を取り戻せているか。審査では(1)未来に向けて聴取者を魅了できているか、(2)リスナーが信頼や愛着を感じることができる番組を制作できているかがポイントとなった。審査対象番組は、過去に遡ってその時代を生きた、または生きてきた人や事象を扱うものが半数以上を占めたが、それとは異なるトークバラエティ形式で現代社会では躊躇しがちなテーマを扱い、緻密な構成で完成度高く制作した番組が最優秀の評価を得た。

最優秀=信越放送/こてつのびんびんサタデースペシャル~Dr.北村 性の課外授業~(=写真)
現代のSNS社会で性にまつわる知識・話題が氾濫する中、子どもと保護者に正しく伝えることに成功しており完成度の高さが傑出していた。番組はパーソナリティの長野県住みます芸人コンビ「こてつ」の北村智の父で、産婦人科医でもあるDr.北村をゲストに招いて制作された。番組テーマだけを聴くと危うさも感じさせるが、それとは裏腹に性に対する見方・考え方を聴き手が「正確な情報」として受け止めることができる。Dr.北村の本音の語り口は性へのアプローチを的確に抑えており、いやらしさがなく平和に聴けるほど素晴らしい。

優秀=秋田放送/ABS開局70周年特別番組 花子の、はなみち。
民謡王国秋田を象徴する存在となった民謡歌手の小野花子に焦点をあて、決して平坦ではなかった民謡人生道が「はなみち」として開けていったことを丁寧に描いた。十代から現在の七十代まで、年代を追うにつれて「うまみと貫禄」を増す花子の歌唱力をしっかり感じさせる構成になっている。番組のインタビューでは、花子の圧倒的な「人間力」を感じることができた。挫折を超えて成長しようと葛藤する若い世代の女性にも勇気を与えてくれる。

優秀=エフエム東京/FMフェスティバル2023 サザンオールスターズ45周年!「サザンとわたし」スペシャル
結成45周年記念の節目に「サザンとともに」時代を生き歌の世界を感じ取ってきた幅広いリスナーの声、楽曲の数々、リーダー桑田佳祐氏へのロングインタビューなどで構成された唯一無二の番組。リスナーがどのような気持ちでサザンの楽曲を聴いていたかを知ることで共感が沸き上がり、番組中の楽曲が深く心に響く。特にインタビューで引き出された「桑田ワールド」は、パーソナリティの力量に加えて、制作局との間の信頼関係の賜物であろう。

優秀=福井放送/FBCラジオスペシャル「輝く!ゴールデンエイジふくい~生きる喜び 歌にのせて~」
高齢社会と私たちはどう向き合うべきか。この番組はひとつの答えを示してくれる。60歳以上の男性で構成される合唱団を丁寧に取材し、人と人との出会い、ふれあい、別れなど、その時々の状況を客観的に考えさせてくれる。番組中に繰り返し登場する合唱曲「この街で」は、自分を取り巻く人々との関係性と人生の最終コーナーを回った団員らが合唱に込めるひたむきな思いを凝縮しており、芸術の一形態としても興味深く聴くことができる。

優秀=京都放送/ラジオ屋 諸口あきら 流れ者の唄
1970年代京都発のリクエスト番組を通じて当時の若者たちに影響を与えたラジオパーソナリティー・諸口あきらの音楽性やリスナーとの共感について振り返り、どのような生きざまを当時のリスナーにみせていたかをフィクションとして描いた正統派のドキュメンタリー。当時、中学生だったファンリスナーが保存していた音源を制作局に送り付けたことがきかっけで制作されており、地域ローカルラジオ局とリスナーとの共創感があふれている。

優秀=南海放送/ラジオドラマ「うっちゃり横綱道 前田山英五郎」
伝統と格式を重んじる角界に新風を送り込んだ横綱・前田山英五郎をとりあげてドラマとドキュメンタリー取材を織り交ぜながら制作しており、聴取者を引き込む魅力がある番組。力士と親方をつとめる角界二刀流のパイオニアで、破天荒な相撲道を歩んだ前田山をテンポ感よく描いた。幅広いリスナーが楽しめる完成度の高い番組でハワイから高見山を角界に呼び込むなど、角界グローバル化のパイオニアとしての貢献についても興味深く描いた。

優秀=RKB毎日放送/空想労働シリーズ サラリーマン
昭和のステレオタイプである「猛烈サラリーマン」像のままに昭和が継続した昭和98年の番組設定の妙味が、ストーリー展開、ナレーションのトーン、音楽、登場人物のセリフ、効果音などに込められていて、エンターテインメント性が群を抜いている。多様な価値観が重視される今だからこそ「サラリーマンの悲哀」というテーマに焦点をあてるだけでなく、番組中に現代社会への希望と新しい価値観を持たせる工夫が織り込まれればもっとよくなった。


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