【2021年民放連賞審査講評(番組部門:テレビドラマ番組)】日常の風景や心の機微を丁寧に

岡室 美奈子
【2021年民放連賞審査講評(番組部門:テレビドラマ番組)】日常の風景や心の機微を丁寧に

8月23日中央審査【参加/18社=18本】
審査委員長=大友啓史(映画監督)
審査員=内田麻理香(東京大学特任講師)、岡室美奈子(早稲田大学演劇博物館館長)、布施英利(美術批評家、解剖学者)

※下線はグランプリ候補番組


今回は、大型予算が投入された非日常的で劇的なドラマと、何気ない日常会話を通じて心の機微を細やかに描くドラマの対比が際立ったように思う。コロナ禍で当たり前だと思っていた日常生活が失われてしまった現在、手に汗握る展開やスカッとする結末も魅力的ではあるものの、テレビという極めて日常的なメディアだからこそ描ける日常の風景や誰もが覚えのある失敗や挫折の丁寧な描写に票が集まった。

最優秀候補をめぐっては活発な議論が交わされた。受賞作『浜の朝日の嘘つきどもと』は、完成度の高い作品であるという評価は一致していたものの、内容的には映画賛歌にも見え、映画版の公開も控えていたことから、テレビドラマである意味を問う声もあった。テレビ番組と映画とネット配信の区別が曖昧になりつつある昨今、「放送」とは何かをあらためて問うことも必要だろう。一方で、優秀の『大豆田とわ子と三人の元夫』や『コントが始まる』など、一週間が待ち遠しいという連ドラの醍醐味を思い出させてくれるような作品もあり、ドラマの未来に希望を感じた。

また、地方局制作の作品が多かったことも心強いが、残念ながら受賞には届かなかった。とはいえ『浜の朝日の嘘つきどもと』のような作品を生み出せるのもまた地方局の強みなので、一層奮起して応募を続けてほしい。

最優秀=福島中央テレビ/浜の朝日の嘘つきどもと 映画監督のタナダユキが監督・脚本を務め、東日本大震災の爪痕が生々しく残る福島県南相馬市に実在する映画館「朝日座」を舞台に、監督した映画が大コケして生きる気力を失った川島健二(竹原ピストル)が、朝日座のアルバイトの自称・茂木莉子(高畑充希)、朝日座支配人の森田保造(柳家喬太郎)ら嘘つきな人々との出会いを通して、映画という「嘘」を撮ることに再び向き合ってゆく。笑いを巧みに織り交ぜながら、嘘を温かく肯定していく、映画愛に満ちた優れたポスト震災ドラマである。

優秀=日本テレビ放送網/コントが始まる 高岩春斗(菅田将暉)、美濃輪潤平(仲野太賀)、朝吹瞬太(神木隆之介)による売れないお笑いトリオ「マクベス」が、解散を決断して実行するまでの物語である。心身ともに疲弊して有名食品メーカーを退職しマクベスに救われた中浜里穂子(有村架純)、その妹のつむぎ(古川琴音)らが加わり、青春の夢と挫折がみずみずしく描かれる。金子茂樹脚本のリアルな台詞を、人気の若手実力派俳優たちが繊細に演じ、完成度の高い普遍的なドラマとなった。

優秀=BSテレビ東京/ナイルパーチの女子会 柚木麻子の直木賞候補作となった小説のドラマ化。総合商社に勤務するエリートの志村栄利子(水川あさみ)は人気のSNS「おひょうのダメ奥さん日記」にはまり、専業主婦のおひょうこと丸尾翔子(山田真歩)と友達になるが、やがてストーカーのようになってブログを乗っ取ってしまう。最終的にはそれぞれの痛みを受け入れた女性同士の不思議な連帯が描かれる。狂気をはらんでいく水川、追い詰められていく山田の演技がリアルなだけに、最後に清々しい気持ちになるドラマである。

優秀=東海テレビ放送/オトナの土ドラ その女、ジルバ 有間しのぶ原作の漫画のドラマ化。デパートの売り場から物流倉庫に左遷され、冴えない日々を送っていたヒロインの笛吹新(池脇千鶴)は、40歳の誕生日に、くじらママ(草笛光子)率いる高齢女性たちがホステスを務めるバー「OLD JACK & ROSE」に出会い、ホステスとなる。初代ママのジルバをめぐるブラジル移民の物語や新の郷里・福島と震災、コロナ禍など深刻な社会問題を盛り込みつつも、生き生きと変化していく新の姿が生きづらさを抱える女性たちへのエールとなった。その変化を演じる池脇の演技が素晴らしい。

優秀=関西テレビ放送/大豆田とわ子と三人の元夫 建設会社社長で離婚歴三回の大豆田とわ子(松たか子)がふとしたきっかけで三人の元夫たち、田中八作(松田龍平)、佐藤鹿太郎(角田晃広)、中村慎森(岡田将生)に連絡をとったことから、彼らの交流が始まる。とわ子の親友のかごめ(市川実日子)の死や、小鳥遊大史(オダギリジョー)からのプロポーズを経て、とわ子は元夫たちとほどよい距離を保ちながら日常生活を続けていく。坂元裕二脚本らしい、雑談のように何気ない会話や細やかなディテール、斬新な演出や伊藤沙莉の独特なナレーションが豊かな世界を構築した。

優秀=テレビ大阪/名建築で昼食を 甲斐みのりの『歩いて、食べる東京のおいしい名建築さんぽ』を原案とするドラマ。広告会社で働く春野藤(池田エライザ)がSNSで建築模型士の植草千明(田口トモロヲ)と出会い、一緒に名建築をめぐりながら各建築物内で昼食をとる。ル・コルビュジェの薫陶を受けた坂倉準三や前川國男のモダニズム建築や庭園美術館のアール・デコを堪能できる点で楽しめるが、これは教養番組なのかドラマなのか、という議論があったことも記しておく。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

最新記事