2023年民放連賞最優秀受賞のことば(テレビドラマ番組) 関西テレビ放送 エルピス-希望、あるいは災い-

佐野 亜裕美
2023年民放連賞最優秀受賞のことば(テレビドラマ番組) 関西テレビ放送 エルピス-希望、あるいは災い-

このたびは素晴らしい賞をいただきありがとうございます。

放送終了から半年以上がたちましたが、「エルピス」のことを思い出す時にいつも最初に頭に浮かぶ光景があります。
今から6年以上前、2017年の春。皆が帰った後の薄暗い小さな会議室で、当時は「平成パンドラ」という仮タイトルが付いていたこのドラマの第3話の初稿を読み、こっそりと泣いた日のことです。主人公たちが自らの考える「正しいこと」に向かって突き進み始める回の台本でした。「正しいことがしたいな」と主人公の一人がつぶやきます。そうだ、自分は「正しいこと」がしたかったんだ。閉塞感や鬱屈、怒りでいっぱいだった当時、自分の中に一筋の小さな、でも強い光が刺した瞬間でした。

そこから6年、台本の中で主人公である浅川恵那や岸本拓朗、そして彼らが追いかけた事件そのものがたどった道をまるでなぞるかのように、歓迎されぬ場所でひっそりと生まれたこの「エルピス」というドラマはさまざまな紆余曲折をたどりました。あまりにもいろいろなことがあったので、ドラマとして放送されたこと自体信じられないような気持ちがいまだに続いていますが、小さな会議室で一人きりだったあの日がまるで幻のように、長澤まさみさん、大根仁監督をはじめとする素晴らしいキャスト、スタッフの皆さんが参加してくださり、コロナ禍が続く暑い夏をみんなで戦い、走り抜きました。本当にたくさんの方々のご尽力をいただき、一生かけても伝えられないほど感謝の気持ちで今もいっぱいです。

「正しいこと」などないかもしれない。それでも少しでも、私たちが生きる世界をより良くしたいという夢を見て、たくさんの仲間たちと一緒に奔走できた熱く幸福な夏でした。

「冤罪」は国家による犯罪です。
私たちが生きるこの社会に、こんなにも恐ろしい犯罪があること。いつでも自分がその被害者になり得ること、そしてその犯罪に加担し得ること。これをエンターテインメントの形で社会に少しでも伝えることができたなら、という気持ちでスタートしたドラマでしたが、主人公たちと一緒に悩みながらドラマを作っていくうちに、冤罪に限らず法曹界の抱える問題に触れることになったり、報道機関、政治の世界を描くことになったりしました。これは連続ドラマというものの醍醐味だと思いますし、作品世界を大きく広げてくれました。

一度は闇に葬られかけたこの企画を共に作り、支えてくれたたくさんの仲間たち、そして深く愛してくださり、このドラマをここまで連れてきてくださった視聴者の皆さんに、あらためて深く感謝申しあげます。本当にありがとうございました。いつかこのドラマで描かれたことが笑い話になる社会になることを願いながら、素晴らしい賞をいただいたことを励みに、これからも精進いたします。


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