2022年民放連賞審査講評(放送と公共性)プロセスとしての「公共性」

水島 久光
2022年民放連賞審査講評(放送と公共性)プロセスとしての「公共性」

8月26日中央審査【参加/16社=16件】
審査委員長=水島久光(東海大教授)
審査員=石澤靖治(学習院女子大教授・元学長)、音 好宏(上智大教授)、草野満代(フリーアナウンサー)、田家秀樹(音楽評論家、ノンフィクション作家)


3年ぶりの「対面」での審査会は、白熱した議論となった。16事績とエントリー数が増えただけでなく、どれも熱のこもった素晴らしいプレゼンテーションで、心が揺さぶられた。

個別の講評に入る前に、今回は最優秀賞をあえて「積極的な意味で」選ばない決断をしたことを申しあげねばならない。5人の審査員が異なる事績を推したという事実もあり、全体の票も割れた。だがそれは、いずれもがデリケートな内容を有していた結果である。むしろその議論こそを共有すべきとして、最終合意を得るに至った。

放送を通じて、公共的価値に寄与しようとする活動は、根づくまでに時間がかかり、かつ地道な関係構築の努力が不可欠だ。だからこそ、その過程にはさまざまなリスクが潜み、単純な善意や正義感だけで模倣することはできない。そのことをきちんと示すべく、今回は上位5事績に、均等に優秀賞をさしあげることになった。

優秀=札幌テレビ放送/カムイと共に ~アイヌを未来につなぐ~ アイヌ新法やウポポイのオープン、在京民放テレビ社の番組での不適切発言など近年の出来事を踏まえ、長年にわたる映像記録や取り組みを整える、時宜を得た事績だった。特に埋もれた伝統や過去の出来事に光を当てるだけでなく、今日に生きる人々による「身近な異文化」との共生を訴えた意味は大きい。

優秀=福島中央テレビ/ブンケン歩いてゴミ拾いの旅 「直球一本勝負」の魅力あふれる事績だった。小さな企画が短期間で大きな輪に広がった奇跡。パーソナリティとチームの結束を原動力に、子どもたちが巻き込まれていく。このポジティブなメッセージを今後いかに公共的ムーブメントに昇華させていくのか。大事に育てたいプロジェクトであった。

優秀=長野朝日放送/abn信州がんプロジェクト 地域医療関係者とのネットワークが、不断の情報提供を通じ築きあげられてきた点が評価された。「がん」をめぐる環境変化への柔軟な対応は、担当者の真摯に学び続ける姿勢に表れており、それが強い相互信頼に結実した。派手さはないが、その活動の継続が導いた成果に敬意を表したい。

優秀=CBCテレビ/定期配信型ドキュメンタリー「ピエロと呼ばれた息子」と地上波放送との連携による報道活動 チャレンジ精神が強いインパクトを与えた。難病家族のプライバシーにどこまでメディアは踏み込めるのか。ドキュメントの価値と、ネットの言説空間のリスクの間で発信し続ける覚悟は高く評価できる一方、その負荷をいかに支えるかが、問題として突き付けられた。

優秀=南海放送/"ハイク"はみんなのもの~俳人・夏井いつきと歩いた25年~ いまスポットライトを浴びている著名人を地元メディアが発掘し育て、世代や地域を越えて「思い」を伝える現代的な文化として、俳句を広げてきた実績が評価された。ラジオならではの丹念な番組づくりがリスナーを育て、日常を生きる公共空間に発展している姿に感銘を覚えた。

優秀賞の選から漏れた事績にも、数多くの記憶に残る真摯な取り組みがあった。子育てや教育と地域の関係、組織が抱える無意識の人権問題、災害の風化への抗(あらが)い......現代社会が抱える課題がまさに反映された格好だ。それに対し放送局の責任と「力」でどこまで何ができるのか。試行錯誤の悩ましさと、少しずつでも歩みを進めたいという熱意が感じられた。

「放送と公共性」というテーマを議論するには、「完成された作品」を評価するのとは異なるまなざしを一つひとつの事績に向ける必要がある。長く続けてきた取り組みは節目となるタイミングに、新たな取り組みはそのコンセプトの訴える強さに目が行きがちだが、いずれもが不断の努力と状況変化への対応の積み重ねの途上にあることに違いはない。

「公共性とは、社会を潤す水やりに似ている」という言葉を聞いたことがある。 365日、24時間、常に番組を送出し続ける放送というメディアだからこそ、その目標に近づける側面があるのではないか。今回エントリーされた各局には、ぜひその取り組みを今後も大事にしていただきたい。そしてともに力をあわせ、われわれの社会を少しずつでも変えていきたい。そう願うばかりである。


各部門の審査結果はこちらから。

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