2022年民放連賞 ラジオ準グランプリ受賞のことば エフエム東京 『村上RADIO特別版 戦争をやめさせるための音楽』

延江 浩
2022年民放連賞 ラジオ準グランプリ受賞のことば エフエム東京 『村上RADIO特別版 戦争をやめさせるための音楽』

ロシアの無差別攻撃でウクライナの犠牲者が増え続けていた。村上春樹文学の読者は現地にもいる。「戦争について何かやりませんか」と村上さんにメールを送ると、「やろう」とすぐに返信があり、「戦争をやめさせるための音楽」というメモも。『村上RADIO』は毎月最終日曜だが一刻も早くと、フルネットの特別枠、CM抜きでの放送が決まった。

「音楽に戦争をやめさせるだけの力があるのか?」今年3月18日、村上さんはラジオから語りかけた。「残念ながら音楽にはそういう力はないと思います。でも、聴く人に『戦争をやめさせなくちゃならない』という気持ちを起こさせる力はあります」

1曲目はジェイムス・テイラーの『ネヴァー・ダイ・ヤング』。村上さんは「年寄りが勝手に始めた戦争で、若い人たちが命を落としていく。本当に悲しむべきことです」とこの曲をかけた。自ら訳した歌詞のみならず、プロテスト・ソングがリリースされた当時の時代背景や、ライブ盤であれば会場でオーディエンスに発言するアーティストの言葉も紹介していった。

ブルース・スプリングスティーンは、ロサンゼルス・メモリアル・コロシアムでエドウィン・スターの『WAR(黒い戦争)』を歌う際、「俺たちが育った60年代、毎晩のようにテレビで戦争を見て育った。友達も戦争に巻き込まれていった。ここにいる若い人たちみんなにこの歌を聴いてもらいたい。特にティーンエージャーにね」といった。ブルースは村上さんと同世代。彼らの青春時代にはベトナム戦争があった。若者の間で世界同時多発的に反戦運動が起こり、そこでは多くの反戦歌が生まれたのだ。

歌声と歓声、DJ村上のトークがつづれ織りのように展開される。紹介した11曲すべてが平和への祈りとなった。ピーター、ポール&マリーの『悲惨な戦争』の歌詞の朗読する際に、村上さんの声がかすかに震え、その揺らぎに涙を浮かべる女性スタッフもいた。

ラジオは一人ひとりの生活に思いをはせる。その夜、この番組に合わせて一体どれほどの人が平和の歌を口ずさんだことだろう。歌は人々が自ら口ずさむから強くなる。命や愛を大事にする歌を流す。ラジオの役割はそこだ。

「音楽によって静かな怒りを表現し、リスナーの心を揺さぶる」との準グランプリの講評に、村上さんはこう応えている。「選んでいただけたのは誠に光栄ですし、うれしく思いますが、肝心の戦争がちっとも収まらないことには無力感のようなものを感じざるを得ません。無意味で血なまぐさい戦争を続けるより、地球温暖化とか、エネルギー問題とか、飢餓問題とか、パンデミックとか、真剣に解決しなければならないことがいっぱいあるのに。ジョン・レノンさんも言っています。『そう思うのは僕ひとりではない』」

『村上RADIO特別版~戦争をやめさせるための音楽~』は夜11時からの放送になった。一日のニュースを見終わった時間帯である。そこには当然、ウクライナ戦争関連の映像も含まれる。「ヒトラーがドイツで行った行為はすべて合法的だった。それを忘れてはならない」 村上さんはキング牧師の言葉を引用しながら番組を締め、番組が終わると午前0時の時報が鳴った。

オンエア後、全編の英訳を番組サイトに掲載して世界へ発信すると、AP通信は"Murakami plays antiwar songs on radio to protest Ukraine war"と打電した。

授賞式の控え室で「村上さんの読者は世界にいるとおっしゃっていましたが」と声をかけられた。TBSテレビ報道局外信部長の秌場聖治(あきば・きよはる)さんだった。5月にウクライナ軍が奪還したハルキウ近郊に行ってきたという。

遠くで砲撃音が聞こえる中、彼は村のそこかしこに打ち捨てられた双方の兵士の亡骸を見た。それぞれに待っている家族がいたのだろうと思いながら学校に足を踏み入れると、コーディネーターが「ハルキムラカミの本があるぞ」とがれきの一角を指さしたそうだ。それはロシア語に翻訳された、村上さんの『東京奇譚集』だった。

表紙の隅が擦れ、丹念に読み込まれたらしいペーパーバックの写真。「本の持ち主はどちら側の兵士なのか、もしくは学校の生徒あるいは教師なのか......」。秌場さんが見せてくれた画面に息をのんだ。現在、安全を求めてウクライナ国境を超えた人は1,500万人を超えている。この戦争ははるか遠くの出来事ではない。今起こっている事実なのだ。

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