8月21日中央審査【参加/62社=62件】
審査委員長=嶋 浩一郎(博報堂執行役員・エグゼクティブクリエイティブディレクター)
審査員=大谷奈緒子(東洋大学社会学部教授)、長島有里枝(写真家)、やきそばかおる(コラムニスト)
※下線はグランプリ候補番組
音だけでリスナーの想像力をどこまで羽ばたかせることができるのか? ラジオという音声メディアの可能性に挑戦した番組が多く、その手法の多様さを感じることができた審査だった。エンターテインメントというこのカテゴリーこそ、音で人の心をどれだけ揺さぶることができるかが試されていると思うのだが、今年は音というものの可能性を感じる受賞作がそろったのではないか。
最優秀=東海ラジオ放送/音を拾って~僕らの演奏海~(=写真)
海洋ゴミから楽器を作りライブ活動を続けている「ゴミンゾク」。彼らの活動と演奏を紹介する番組。事前に説明資料を読んだとき、ゴミから作られる楽器の演奏が1時間のラジオ番組に耐えられるのかと思ったが、杞憂であった。種明かしをされないで演奏を聴いたとしても、それは本格的で魅力的なものだった。いったいどんな楽器がこの音を奏でているのだろうと想像力がかき立てられた。環境問題に対する問題提起だけにとどまらず、音楽エンターテインメント番組としてしっかり成り立っていた。企画を立てたスタッフの構成力を評価したい。ゴミンゾクのリーダーの大表史明さんによる彼らの活動や楽器の作り方の説明もユーモアがあり好感が持てた。「音を拾う」というタイトルも素敵だ。
優秀=エフエム北海道/JR貨物 presents Sound of Train 特別編
北海道を走る貨物列車の走行音だけで構成された実験的な番組だが、その世界に惹き込まれた。深いエンゲージメントをもたらす番組である。車輪がレールに軋(きし)む音を聴いて、タマネギを積載して峠を越える貨物列車の姿が目に浮かんだ。鉄道ファンや北海道に縁があるリスナーであればなおさらであろう。連結器の音や、機関士の声から北海道の産業を支える貨物のドラマが想像できた。こういう挑戦をぜひ続けてほしい。
優秀=文化放送/象のRadio〜キャンティの時代
多くの文化人が常連だったことで知られる六本木のイタリアレストラン「キャンティ」。経営者の川添象郎のハチャメチャな人生が、彼が手掛けた音楽とともに本人によって語られる。ユーミンの『あの日にかえりたい』をヒットさせるためにドラマ主題歌に売り込んだ話など、さまざまな逸話が連発される構成はエンディングまでリスナーを惹きつけた。一人の男の評伝としても優れた番組だが、選曲が素晴らしく1960年代から日本の音楽史を一気に駆け抜ける疾走感があった。音楽番組としても評価したい。
優秀=新潟放送/石塚かおりのBrand new day ~FM927にいがたの音スペシャル〜
『にいがたの音』という番組の総集編。パウダースノーを踏みしめる音から小学校の卒業式まで新潟らしい音を聴かせてくれた。地道に音をサンプリングしたスタッフの努力に敬意を表したい。それぞれの音がそれぞれの新潟の風景を想像させてくれた。最後の、長岡の花火の音は圧巻だった。重低音が響き、感動さえ覚えた。音の持つ圧倒的な力を感じることができる番組だった。そういう意味では、音は想像力をかき立てるという、番組内での解説が必要だったのか? リスナーの想像力にすべてを託してもよかったのかもしれない。
優秀=FM802/FM COCOLO SUNDAY MARK'E 765「EIKICHI YAZAWA 50th Anniversary Special 〜 My Way,Your Songs」
矢沢永吉のデビュー50周年の番組。"生矢沢"による矢沢語録は、世代を超えて刺さるコンテンツになっていた。これからなにかに挑戦する若者から、ベテランと呼ばれる世代にまで、心に響く番組は相当レアなのではないだろうか。ラジオの音声は人柄をそのまま表すというが、矢沢永吉が優しく語りかけたり、うーんと悩んだり、生語録はテキストで発言を読むのと違って矢沢キャラがにじみ出ていた。ラジオの音は人を伝える。矢沢永吉の数あるアウトプットの中でマイルストーン的なものになっていたと思う。
優秀=RSK山陽放送/OKYAAAMA!〜大都会オカヤマな夜〜
じつは、最もチャレンジングだと感じた番組だ。大都会オカヤマから若者の新たなカルチャーを作っていくという壮大な野望になにより好感が持てる。それくらい大胆な実験ができるのがラジオで、そういう挑戦から新しい若者文化は生まれてきた。成功パターンについつい頼ってしまう番組が多い中、新しいフォーマットにチャレンジする坂俊介アナウンサーとはるにゃんを応援したい。
優秀=エフエム沖縄/「オキナワミュージックカンブリア」 CoccoとKiroro
ラジオと音楽の関係をリアルに表現した番組だった。局アナがデビュー前の高校生だったCoccoに電話をし、バスに乗ってスタジオにやってきたエピソードなど、ラジオがミュージシャンを支えてきたヒストリーが解像度高く伝わった。ネットで聴く曲も、ラジオで聴く曲も同じ音だけど、ラジオで聴く曲には、かけた人の心がこもっている。そんなことを考えさせられた。ミュージシャンが音楽をネットでリスナーに直接届けることができるようになった今、ラジオがどういう役割を果たすべきか新しい解が求められているなとも感じた。
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