【2022年民放連賞審査講評(グランプリ審査:ラジオ)】 「今だからこそ伝えたい」という制作者の強い思い

松原 由佳
【2022年民放連賞審査講評(グランプリ審査:ラジオ)】 「今だからこそ伝えたい」という制作者の強い思い

1013日審査】
審査委員長=ロバートキャンベル(早稲田大学特命教授、エフエム東京番組審議会委員長)
審査員=小川一至(共同通信社 文化部記者)
奥貫薫(俳優、J-WAVE番組審議会委員)
後藤洋平(朝日新聞 編集委員)
齋藤幸蔵(マッキャンエリクソン 取締役メディアブランズCOO、日本広告業協会メディア委員会委員)
浜田敬子(ジャーナリスト、TBSラジオ番組審議会委員)
松永真理(セイコーエプソン 取締役、文化放送番組審議会委員)
松原由佳(毎日新聞 学芸部記者)
松本道夫(ライオン ビジネス開発センターメディア担当本部長、日本アドバタイザーズ協会テレビ・ラジオメディア委員会委員)
山口香(筑波大学教授、ニッポン放送番組審議会副委員長)


今年の日本民間放送連盟賞グランプリ(ラジオ)は8番組を対象に選考が行われた。白熱した議論の結果、グランプリには青森放送『カエレナイ街から ~翔子さんと実穂さんと私たち~』(=写真㊤)が輝いた。

青森市内でカフェバーを経営しながら、同性パートナーとして暮らす宇佐美翔子さんと岡田実穂さん。2人は2014年から性的少数者の権利擁護を訴える「レインボーパレード」を青森市内で開催してきた。たった3人で始めたレインボーパレードだったが、活動を重ねる中で共感の輪が広がっていく。だがそんな中、翔子さんを病魔が襲う。

青森放送は16年からレインボーパレードの取材を開始。今よりも性的少数者の認知度が低かった時期から、パレードに込めた2人の思いや、青森に住む中で感じる生きづらさを語る言葉に耳を傾けてきた。審査会では、時間をかけて2人の歩みに寄り添ってきた番組の取材姿勢が評価された。また、大都市よりも声を上げづらい地方都市に暮らす性的少数者の抱える不安や課題を浮き彫りにした点も優れていた。

RD-レコード1 エフエム東京.JPG

準グランプリには、エフエム東京『村上RADIO特別版 戦争をやめさせるための音楽』が選ばれた。作家の村上春樹さんがロシアによるウクライナ侵攻に心を痛め、自身のレコードやCDから反戦歌を選び、流した。さらに、曲が作られた時代背景や当時の聴衆の反応といったエピソードを紹介し、より深く曲を理解できるよう道筋を示した。

番組はウクライナ侵攻開始から間もない22年3月に放送された。審査会では、番組と村上さんの反応の素早さや実行力を称賛する声が上がった。番組では朝鮮戦争中のプロテスト・ソングやベトナム戦争が激化したころに発表された楽曲などが流れたが、今聴いても胸に突き刺さる歌詞ばかりだ。音楽という身近な文化を通して、幅広いリスナー層に戦争について考える機会を作った。村上さんは番組内で自身の考えについて多くを語らなかったが、終盤の「世界が平和になるといいですね」という一言に、思いが集約されていた。

今回、グランプリと準グランプリに選ばれた2作品はアプローチの手法は異なるが「今だからこそ伝えたい」という制作者の強い思いが伝わってきた。ほか6作品も音のメディアであることの特性を生かし、視聴者の心を揺さぶる作品ばかりだった。メディアの多様化が進む中、ラジオの持つ可能性を再認識させられた。

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