【2021年民放連賞審査講評(CM部門)】企画者の視点・視座、自社の制作力を活かして

谷口 優
【2021年民放連賞審査講評(CM部門)】企画者の視点・視座、自社の制作力を活かして

8月11日中央審査[参加/ラジオ第1種18社=39本、第2種25社=41本、テレビ14社=18本]
審査委員長=兼高聖雄(日本大学教授)
審査員=佐藤尚之 (コミュニケーション・ディレクター)、谷口 優(宣伝会議 出版担当取締役兼月刊『宣伝会議』編集長)、西田善太 (マガジンハウス 『BRUTUS』編集長)、和田由貴 (消費生活アドバイザー、節約アドバイザー)
 


コロナ禍において人の移動の自粛、密を避けるため、広告制作の現場でも各種の制限を余儀なくされています。そうした状況だからこそ、音だけで構成されるラジオCMのシンプルさ、その強みが見直されているのではないでしょうか。

音声による広告と一口にいっても、構成にナレーション、効果音などなど、多様な工夫の余地があり、シンプルだからこそ企画者による要素の組み合わせの妙が光ります。今年の受賞作品も、音だけの表現だからこそ、企画者の視点・視座が際立ちます。

ラジオCM
第1種(20秒以内)

【サイズ加工済み】ラジオCM①.jpg最優秀=山形放送/ガオチャオエンジニアリング/枝豆選別機/まめorだめ radikoが浸透し、エリアに関係なく全国のラジオ番組を聴取できるようになっているとはいえ、地域密着型のご当地CMもラジオの魅力のひとつ。さすがは「だだちゃ豆」で有名な山形県!「枝豆選別機」のCMには審査員も驚きです。20秒のほとんどを「まめ」と「だめ」のセリフが占める、シュールな本CM。シンプルですが、商品特性を的確に表現しています。

優秀=エフエム東京/鹿島建設/CO2-SUICOM/「決まり手」 篇 リモートワークが広がったことで、家で仕事をしながらラジオを聴くようになった人が増えているのではないでしょうか。だからこそ、ビジネスパーソンを対象にしたBtoB企業も、もっとラジオCMを活用できるのではないか。そんな可能性があると思っていたので、二酸化炭素を吸い込んで固まる環境配慮型コンクリートを訴求する鹿島建設のCMには企業としての先見性を感じました。

優秀=エフエム東京/日本ゼオン/企業CM/「爆笑」 篇 若者文化のひとつである「○○ヲタ」。いろいろな「ヲタ」がいるとは思いますが、このCMに登場するのは、なんと「ゴムヲタ」! 審査員からは企画の面白さに加えて、中高生に人気の「SCHOOL OF LOCK!」の枠を選んでいる点が秀逸との声も。素材メーカーのゼオンに対して中高生が親近感を抱くきっかけをつくっています。

優秀=エフエム栃木/栃木県/栃木県魅力発信CM/「告白」 篇 地域ブランド調査で2020年、残念ながら最下位となってしまった栃木県。しかし、そんな状況を逆手にとって、思わず栃木を応援したくなる気持ちにさせる秀逸な作品です。聞きながら「栃木って本当に正しく漢字で書けるかしら?」と不安になり、思わず、近くにあったメモに「栃木」と書いてしまいました。

優秀=朝日放送ラジオ/伊藤ハム/ポールウインナー/げんかつぎ 篇 2020年に続き、「ポールウインナー」が攻めてますね。今年はラジオCM第2種とのダブル受賞でした。「お弁当にポールウインナー」というシンプルなメッセージを訴求するため、ここまでありえないシチュエーションを用意してくるとは! 最後の「ウィナー」の落ちまで用意しているあたり、脱帽です。

優秀=朝日放送ラジオ/カッパ・クリエイト/かっぱ寿司/レッツ☆ラレッツ 篇 ファミリー層を中心に人気で、市場が活性化している回転寿司業界。大手チェーン間の競争も厳しい中で、おいしさや価格以外にも、選ばれる理由をつくる必要があります。チャーミングなブランドパーソナリティを感じさせる本CMは、かっぱ寿司が選ばれる理由づくりに貢献しているのではないでしょうか。

優秀=朝日放送ラジオ/中央軒/長崎皿うどん/行きたい 篇 ラジオでは、テレビCMのようなシズル感の演出は難しいものですが、中央軒の作品はユニークなアプローチで、長崎ちゃんぽんの食感まで伝えています。審査員からは、とにかく会話のリズムと流れが良い、との評価が。それにしても「パリ」と「品川」が同時に出てくる会話って......、シュールです!

ラジオCM
第2種(21秒以上)

【サイズ加工済み】ラジオCM2.jpg最優秀=朝日放送ラジオ/伊藤ハム/ポールウインナー/なかなかの夫婦仲 篇 120秒という長尺でありながら、飽きさせずに最後まで引き込むセリフ運びに、圧倒されました。しかも、これだけインパクトのある表現でありながら、もう一度聞きたくなってしまう。審査に際して何度も聞きなおしましたが、その都度、思わず笑ってしまいます。コピーライティングの力はもちろん、出演者2人の演技力も素晴らしい。審査員一同、納得の最優秀賞でした。

優秀=IBC岩手放送/公共キャンペーン・スポット/盛岡弁 音のコミュニケーションであるという特性を生かし、ラジオCMでは方言を起用した作品は多くあります。しかし本作品は、単なる面白方言CMではなく、言葉の意味を説明し、さらにはその先にある盛岡の文化や風土の特性まで伝えている。これまでにない方言を使ったCM表現であることが評価されました。

優秀=ニッポン放送/はごろもフーズ/ローリングストック/ヒーロー登場 篇 CMは企業・商品の魅力を伝えるだけでなく、受け手にとって有益な生活情報として機能することが多くあります。コロナ禍で変わりつつある生活様式にマッチした「ローリングストック」という食材の備蓄方法について、わかりやすく伝えながら、なおかつ自社の商品の訴求につなげている点が秀逸です。

優秀=J-WAVE/自社媒体PRスポット/「#音楽を止めるな」プロジェクト 時代の効果音 篇 音響効果の技術に、思わず引き込まれました。そして、音を通じてコロナ禍で変わってしまった私たちの生活も痛感します。確かに「盛り上がるライブ会場」の音、懐かしいと感じてしまいました。そんな"熱狂"を生み出す、アーティストの皆さんを応援するJ-WAVEの方々の気持ちが伝わる作品です。

優秀=エフエム栃木/公共キャンペーン・スポット/RADIO BERRY 無事故無違反チャレンジ「ライト点灯 16時から」 篇 奇をてらった作品ではないですが、伝えるべきメッセージが自然に歌詞に盛り込まれている点が評価を受けました。啓蒙的なCMは、インパクトが強すぎれば、複数回聞くと不快になってしまうことも。自然に耳に溶け込む音楽という手段を選んだ点もよかったと思います。

優秀=CBCラジオ/自社媒体PRスポット/THE FIRST TAKE ラジオ 本作品はラジオ制作の現場の取り直しができない緊張感を伝えることで、普段聴いてい るラジオの向こう側にいる人々の想いや気持ちをうまく私たちに届けてくれています。送り手側の胸の鼓動まで聞こえてきそうなCMで、リスナーとの距離が近いラジオだからこそ機能する表現だったと思います。

優秀=朝日放送ラジオ/中央軒/企業CM/CHOOSE OUR KING 篇 ラジオ第1種に続いての受賞、2021年の注目株は中央軒ですね! ここまで連呼されたら、とにかく「ちゅうおうけん」という店名を覚えてしまいます。もちろん、ただの連呼ではないところに面白さがあるわけですが、そのユニークな表現で、思わずお店にも行ってみたくなる。審査員からはそんな声が多く上がりました。

テレビCM

ここ数年、新聞社や出版社では自社の企画制作力を広告主向けに提供する「ブランドスタジオ」という組織を立ち上げるケースが増えています。広告枠を提供するだけでなく、メディア企業だからこその企画制作力というスキルを活かす事業展開なのですが、テレビ局でも、こうした展開は可能ではないかと思います。その意味で、本賞のテレビCM部門が担う役割に期待をしていますし、もっと公共キャンペーン・スポット以外の作品が出品されることを願っています。

最優秀=東海テレビ放送/公共キャンペーン・スポット/ジェンダー不平等国で生きていく(=写真) ジェンダー・ギャップの問題を上から目線になるのではなく、結論を押し付けるわけではなく、見る人一人ひとりに考えさせる問題提起の仕方が秀逸と評価されました。

優秀=青森放送/佐井村 漁師縁組/サイ果ての村でサイ高の人生を。漁師縁組 「漁師縁組」というコピーが秀逸ですね。移住促進を目的としたCMですが、その土地の魅力を漁師さんという人の魅力で伝える着眼点が素晴らしい。移住に際しては、仕事と人間関係の心配があると思いますが、その点を見事に解消しています。登場する方々のキャラクターも魅力的でした。

優秀=中京テレビ放送/公共キャンペーン・スポット/「目を、背けないで。 声を上げることが難しい性被害の問題だからこそ、あえて公共の場で問題提起する。局としての強い姿勢を感じるCMであることが評価されました。

優秀=毎日放送/公共キャンペーン・スポット/京都知新キャンペーンスポット その地域の魅力的な人、活動を発掘して、伝えていく。地域の放送局だからこその強みを感じるCMです。しかも、取材対象者に時間をかけて寄り添ってきたことが伝わる内容で、技術の継承を通じて平和を願う人の想いもつながっていることが伝わる素晴らしいCMでした。
 
優秀=RKB毎日放送/自社媒体PRスポット/Be colorful.rkb 番組仕立ての作品が多い中で、真正面から王道のCMに挑戦した点が評価されました。局のキャラクターが登場して...といったスタイルのCMが多い中で、明確に伝えたいコンセプトが伝わる企画であり表現に仕上がっています。「カラー放送から、カラフル放送へ」。キャッチコピーも秀逸でした。


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