2023年民放連賞審査講評(テレビドラマ番組) 視聴者を魅了した作り手の"覚悟"と"矜持"

桧山 珠美
2023年民放連賞審査講評(テレビドラマ番組) 視聴者を魅了した作り手の"覚悟"と"矜持"

8月22日中央審査【参加/22社=22本】
審査委員長=大友啓史(映画監督)
審査員=岡室美奈子(早稲田大学文学学術院教授)、桧山珠美(フリーライター)、ブルボンヌ(エッセイスト、女装パフォーマー)

※下線はグランプリ候補番


配信ドラマや海外ドラマが躍進するなか、目の肥えた視聴者の心を摑むには何が必要なのか。テレビドラマ制作者の"覚悟"と"矜持"が見える作品が散見された。また、企業や市民とコラボして地元を盛り上げる試みやローカル局によるチャレンジなどにも、テレビドラマの未来に希望が見えた審査会だった。

最優秀=関西テレビ放送/エルピス―希望、あるいは災い―(=写真)
テレビ局を舞台に、深夜の情報バラエティ番組を担当する女性アナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)と、新人ディレクター岸本拓朗(眞栄田郷敦)が冤罪事件の真相を追う。冤罪を取り上げているが、"正義"と"悪"という単純な二元論ではなく、善悪が反転しうることもあるという人間の弱さを描く渡辺あやの脚本が秀逸。長澤、眞栄田の迫真の演技にも魅了された。時代の閉塞感や危機感を見事に掘り当て、テレビ局に蔓延(はびこ)る忖度、同調圧力、パワハラ・セクハラにも言及。それらを支配する価値観や空気に真正面から向き合い、圧倒的な面白さと高い完成度で傑作と呼ぶにふさわしい作品となった。

優秀=日本テレビ放送網/ブラッシュアップライフ
無駄話のような会話の妙味、安藤サクラ、木南晴夏、夏帆らの自然な演技、それらを際立たせる抑制された演出。バカリズムが創り出す奇抜で独特な世界観に満ちた作品だった。「考察ドラマ」流行りの昨今、ハラハラドキドキで煽られるのではなく、純粋に翌週も見たいと思えるドラマ。タイムリープ・転生モノが濫造されるなか、それらとは一線を画した作品として高く評価する。

優秀=フジテレビジョン/silent 
手話をひとつの言語として捉え、障害のあるなしを超えたコミュニケーションをテーマにしたところがいい。今を呼吸する若い作り手による、時代の空気を帯びたみずみずしい感性と脚本が光る。それこそが今のテレビに必要なものではないか、と。丁寧なストーリー運びと、川口春奈、目黒蓮、鈴鹿央士ら俳優陣の繊細な演技で、多くの視聴者を魅了するドラマとなった。

優秀=WOWOW/連続ドラマW フィクサー Season1
政界を舞台に、陰の存在であるフィクサーに焦点を当てた社会派ドラマ。政治家や秘書だけでなく、新聞記者、報道キャスター、刑事などさまざまな登場人物の視点を通して描く井上由美子の緻密で無駄のない脚本と手堅い配役で、見応えのある重厚感たっぷりのドラマとなった。一方で、「今の時代に"政治"を描くことの難しさを感じる」「政治家役の俳優にはもっと得体のしれない不気味さ、腹芸的なものがほしい」という意見も。

優秀=日本BS放送/BS11開局15周年スペシャルドラマ 恋は50を過ぎてから
嘘から始まる大人のラブストーリーは、舞台仕立ての会話劇で新鮮味があった。嘘を告白する場面では、互いの分身が登場し、劇中劇のように見せるなどユニークな演出も魅力。失くしたもの、かなわなかったこと、人生も半ばを過ぎて現実の厳しさに直面してきた男女を、鶴見辰吾と鈴木杏樹が巧みに演じた。中高年を主人公に置くことでドラマの幅を広げた意欲作。

優秀=CBCテレビ/マクラコトバ
1話15分、オムニバス形式のショートドラマ。マクラコトバ=ピロートーク。ベッドの上のピロートークをテーマに、恋愛における男女の価値観のズレや心情の変化を、端的なせりふでテンポよく描く。各話、テイストの異なる味付けで視聴者を飽きさせない工夫が見られた。倍速視聴が当たり前、配信の動画慣れした若い視聴者がストレスなく見られる時間が15分ということか。15分ドラマの可能性を探るチャレンジングな番組といえる。内容とリンクしたエンディングのウェブアンケートデータに関しては賛否あり。

優秀=朝日放送テレビ/日曜の夜ぐらいは...
車いすの母と二人で暮らすサチ(清野菜名)、タクシードライバーの翔子(岸井ゆきの)、ちくわぶ工場で働く若葉(生見愛瑠)――悩みや生きづらさを抱えてきた3人の女性が、心を通わせ、連帯していくさまを丁寧なディテールの積み重ねで描いた岡田惠和の脚本が秀逸。魅力的な登場人物をのびのびと個性豊かに演じる俳優陣のナチュラルな演技も相まって、「日常」の中にこそ大切なものがあると視聴者に気づきを与えた。優しさ溢れるドラマとして、視聴者を元気づけた。


各部門の審査結果はこちらから。

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