【最優秀受賞のことば】 毎日放送/ダイエー/企業CM/「ずっと一緒」 篇(2024年民放連賞テレビCM)

榛葉 健
【最優秀受賞のことば】 毎日放送/ダイエー/企業CM/「ずっと一緒」 篇(2024年民放連賞テレビCM)

私は、1995年の阪神・淡路大震災以来30年にわたり、「震災といのち」をテーマに、テレビや映画界でドキュメンタリーを作ってきました。40歳代で報道の最前線から営業職となった後も続けています。

2011年の東日本大震災の発生後は、仕事とは別に、三陸沿岸部に2年間ボランティアとして通い、大切な人や家を失った生存者の方々の心のケアをしたり、現地で出逢った人々の「懸命に生きる姿」を一人で撮影して映画を作り全国で上映活動を続けるなど、被災地からこの国のありようを見つめてきました。

そうした活動に共鳴して一緒に映画を広めてくださったのが、たまたまSNSを通じてつながったダイエーや親会社のイオングループの皆さん。彼らは「スーパーマーケットは、暮らしを支えるライフライン」だという使命感を持っていました。まるでジャーナリズムと同じです。

その出逢いから10年以上、ダイエーの皆さんとは経営トップから各店舗で働く従業員の皆さんまで公私にわたって交流させていただき、小売業の矜持を目の当たりにしてきました。
コロナ禍で、トイレットペーパーやマスク不足でパニックが起きた時、パートの従業員さんが心ない客から激しく罵倒され、店の裏で泣いている姿がありました。その時同社から、「売り場の落ち着きを取り戻すCMをあなたに作ってほしい」と指名され、1週間でCMを作って連日放送しました。

そして今年1月の能登半島地震。急きょダイエーの方々に連絡を入れ、2月に放送すべく私が編集を進めていたCMの種類を増やそうと提案しました。「阪神・淡路大震災の時に、神戸発祥のダイエーが地元で果たした事実を伝えて、今、被災地で苦しむ人たちを社会全体で支えるメッセージを送ろう」と。創業者・中内㓛氏が当時考案した「ずっとあなたと一緒です。」と書かれたポスターが今も1枚だけ現存しているのを見つけ出し、撮影。約1週間で制作したのが、今回の受賞作です。

私は、テレビのCMを扱う営業職にいます。ですが広告会社の人とは少し違う立ち位置があると思うのです。それは放送局員である限り、どんな部署にいても、「私たちは公共の電波を預かるジャーナリストだ」という使命感です。自社の収益に一喜一憂するだけでない。社会が平和で、未来を信じられるものになるように、さまざまな手段で「伝える」ことを誇りにする......。それが放送人の使命だということです。

わずか30秒のCMでも、何度も放送されれば、きっと視聴者の皆さんの心に何かが宿るはず......。私がCMを作るのは、人の心を信じているからです。

今年2月、かつて私が作った阪神タイガースのドキュメンタリー番組に、2023年の日本一の映像を絡めたリメイク版『阪神タイガース 栄光への挑戦』を作り、2週にわたって放送しました。この番組に提供社としてCMを流してほしい、と直談判して快諾いただいたのが、ダイエーの皆さん。2003年、日本シリーズを戦った福岡ダイエーホークスの親会社です。番組中に、今回の受賞作をはじめダイエーのオリジナルCM3種類を放送したのですが、番組を見た人たちからは、
「ダイエーのCMを見てたら、泣けてきた」
「このCM...番組とつながってる」
という声が、いくつもSNSに上がりました。

深夜の放送にもかかわらず、1社提供で、番組とオリジナルCMのコラボ放送という企画を支えてくださった、ダイエーの皆様に心から感謝しています。そしてこの場を借りて、全国の放送界の皆さんにも知ってほしいと思います。

「小売業は、単に安く仕入れて高く売って儲ける商売ではない。ジャーナリズムと限りなく近く、有事に地域の人々のいのちを支える、気高い職業である」ことを。

彼らも、そして私たち放送局員も、間違いなく、「エッセンシャルワーカー」です。


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