このたびは、栄誉ある素晴らしい賞をいただきありがとうございます。
昨今さまざまなエンタメコンテンツがあるなか、テレビドラマの価値を信じ、家族という普遍的なテーマを、日本の連続ドラマの特性を活かした1クール(3カ月)という時間で描いた作品です。ただ消費されるのではなく、視聴者と共に生きたいと願って制作した、決して派手さはない「日常」の機微を切り取ったオリジナルのホームドラマが、このような評価をいただけたこと、大変嬉しく、今後のドラマ制作の希望になりました。
「家族で一緒に桜を見られたらいいですね」
私の祖母の余命が3カ月だと医師から告げられたことをキッカケに、残された時間をどう過ごすことが本人や家族にとって幸せなのか、家族会議をして考えたことがこのドラマの発意でした。同時に、企画立案当時はコロナ禍で、結婚式が中止になったり、葬式は身内のみの参列となったり、人の喜びや悲しみを分け合える豊かな時間を失っていました。誰の人生にも存在する、何かが始まり、何かが終わる節目。その瞬間を誰とどのように祝福したいか、誰と惜しみ、何を思いながら過ごすのか。そこにこそ、人生をとおして大切にしたいものが鮮明に映し出されるはずではないか。家族の始まりと終わりの対比を軸に、人生のままならなさを描きながら、温かさと軽さのなかに人生の機微や日常の尊さを見い出すようなホームドラマを目指してスタートした本作は、そこから素敵なご縁が重なり、ここまで来ることができました。
『春になったら』を牽引してくださった、奈緒さんと木梨憲武さんが演じる太陽のような父娘。
地続きの世界にこの父娘が生きていると感じさせるような、フィクションとノンフィクションの間を狙い、お二方とは撮影が始まる前から交流を始め、お芝居ではない部分でも通じ合えるよう、大切に時間を過ごしました。初共演、世代の違う二人。しかし、こちらの心配など吹き飛ばすように、初めて会った日から息ピッタリ。あの時の何かミラクルが起きる予感、ワクワクした気持ちは今でも忘れられません。そんな父娘のもとに集うように、キャストとスタッフが一丸となり、ドラマと同じ約3カ月間、撮影現場はいつも豊かな時間が流れていました。
世界を変えるとか、そんな大層なことはできないかもしれません。けれど、ほんの少しでも、誰かの背中を押したり、日常に彩りを加えたりすることができたなら。そんな希望を持ちながら、目の前の人を思いやり、目の前のことを慈しみながら、笑って笑って時には涙して過ごした、最高に幸せな"春になるまでの"3カ月でした。
ドラマの放送は、憂鬱になってしまいそうな週のはじめの月曜日の夜。
毎週『春になったら』の登場人物たちに会いたいと思ってもらえたら嬉しいという気持ちで制作し始めましたが、気づいたら勇気をもらっていたのはわれわれ制作陣のほう。多くの視聴者から愛情を持って応援していただき、どんどん世界が広がっていました。「面白かった」という一言では収まらない、その人その人にまつわるお話を、経験を、丁寧に言葉を尽くしてくださる感想の数々。視聴者の皆さんとの心のキャッチボールは、そっと心がほぐれていくような不思議な感覚でした。
何気ない一瞬がどれほど愛おしい時間なのか。当たり前の日常が、いつか宝物のような思い出になる日まで。
最後になりましたがこの場を借りて、戦友であり同志であるホリプロの白石裕菜プロデューサー、脚本の福田靖さん、監督の松本佳奈さん、編集の矢野数馬さん、いつも背中を押し支えてくださる関西テレビの先輩方、ほかにもここに書ききれない、敬愛する仲間たちに心から感謝申しあげます。本当にありがとうございました。