2022年民放連賞審査講評(CM部門) 「ギリギリ残る」心地よい裏切り感と、真実の言葉の強さ

森 綾
2022年民放連賞審査講評(CM部門) 「ギリギリ残る」心地よい裏切り感と、真実の言葉の強さ

8月4日中央審査[参加/ラジオ第1種18社=46本、第2種22社=38本、テレビ7社=13本]
審査委員長=谷口 優(宣伝会議出版担当取締役兼月刊『宣伝会議』編集長)
審査員=佐藤尚之 (コミュニケーション・ディレクター)、治部れんげ(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授)、田中淳一(クリエイティブディレクター)、森 綾(著述家)


「聴く」という能動的な行動を喚起させる必要があるラジオCMは、コピー、構成、音楽、ナレーションといった要素の隅々にまで創意工夫が必要なジャンルと言えます。また、「59ゼタバイト〜地球上の砂浜の砂の数の59倍の情報が溢れている」という現代では、広告主と作り手の連携で、より「何を伝えたいのか」をインパクトのあるものにすることが必要となっているようです。さてCMは、たまたま出会う「面白い瞬間」にどうやったらなれるのでしょうか。
受賞したCMにはその「ギリギリ残る」心地よい裏切り感や、真実の言葉の強さがあったと言えるでしょう。

ラジオCM第1種(20秒以内)

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最優秀=MBSラジオ/栃木県庁 大阪センター 関西での栃木県の認知度向上/栃木県 実際どうなん 篇 「栃木県」の認知度が低い関西圏で「関西弁」で栃木の魅力をテンポよく繰り出しています。「知られていない」ことを逆手に取った自虐を上手に笑いにし、しかもその名産などの要素をリスナーにきちんと印象づけています。地方自治体が別の地域を使って観光誘致をPRするという点で、ラジオというメディアは使いやすいのかもしれません。地方と地方をつなぐ好例となることを期待します。

優秀=文化放送/青二プロダクション 青二プロダクション附属俳優養成所 青二塾/心電図 篇 声で命を吹き込む声優の仕事を、実際に人命を蘇生する設定に置き換えた表現は巧み。しかし、医師の声がイケメンボイスになって患者が蘇生するというストーリーの割には両者の声に差がなく曖昧になったのが残念。「青二塾」の前に「声優の学校」という一言もあった方がわかりやすかったでしょう。

優秀=エフエム東京/自社媒体PRスポット/忘れられない言葉〜女友達 篇 「麦茶が薄い」という忘れられない一言が心情的に微妙な違和感を残し、それが全体の印象を強くしました。「エフエム東京らしさ」というものが感じられました。

優秀=エフエム東京/日機装 エアロピュア/汚い言葉 篇 空気清浄機を表現するのに、汚い言葉をきれいにするという発想を用いたのは秀逸。アイデアは良かったが、掃除機の音を表現するにあたり、言葉を聞き取りやすくする工夫がほしいところでした。

優秀=エフエム栃木/三和住宅 企業CM/ 天才への道しるべ 天才と呼ばれた歴史上の人物は何度も引っ越しを重ねているという豆知識を引用し、「引っ越しの必要性」について考えさせられる面白いCMです。リスナーが引っ越そうとまで思うかどうかは微妙ですが......。

優秀=エフエム愛知/中部電力 中部電力MIRAI TOWER/「呼び方」 篇 名古屋の象徴的な建物であるタワーの呼び名が変わるというすごい出来事を、家庭内で夫の呼び名がぞんざいにされていくという悲しい物語にし、結末を「愛」と位置づけた展開。結果的にその違和感を記憶に残らせました。20秒のドラマとして秀逸でした。

優秀=山口放送/西京銀行 やまぐち応援マイカーローン/「名前」 篇 県名と名字を組み合わせてあり、一度聴いただけでは理解し難い部分はありましたが、だからこそ、何度か聴いてみたいと思わせる力のある作品でした。同スポンサーが山口県人の味方である、ということがひしひしと伝わってきます。

ラジオCM第2種(21秒以上)

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最優秀=エフエム東京/明治薬科大学 企業CM/三毛猫 篇 新型コロナ禍の時代において「新薬の開発」という希望と開発者の責務をテーマに掲げた作品。その可能性が「三毛猫のオス」がいる確率と同じという着目点も訴求力があり、またその可能性に挑戦する人を育てるという同大学の想いも伝わりました。学生の作品であったという点も「希望」にリアリティを与えました。

優秀=STVラジオ/日本航空 企業CM/「よっ、山浦機長!なまらいいんでないかい!」 篇 実際の機内アナウンスを使ったCMで、人気のほどがわかり、方言のリアリティもあります。こんな飛行機に乗ったら旅は楽しいだろうと思える導線もつくれています。しかし、「めんこいCA」などという表現は、やや気持ちの悪さもあるという意見もありました。前後のナレーションにもう少し工夫が必要で、粗野なイメージもあります。

優秀=ラジオ福島/自社媒体PRスポット/カラフルラジオ イメージ 篇 地元の自然にあるさまざまな音を織り込んだ、ラジオならではの音取材。目の前にまさに色のように情景が浮かびました。よく取材されていると思いましたが、もうひとひねり、編集に工夫がほしかったという意見もありました。

優秀=エフエム東京/自社媒体PRスポット/耳の日「検査」 篇 単純な聴力検査ではなく、その人の「想像力」を問われていることがだんだんわかってくる間合いの良い作り。ラジオを聴く人の気持ちのあり方にアプローチするという姿勢をくどくなく、洒落た伝え方で聴かせています。

優秀=J-WAVE /自社媒体PRスポット/こどもみらいプロジェクト 「うちの子の話」 篇 当初はCMに使うとは予定されていない自然な子どもの生活の中での音を上手に構成していました。「生の声」はラジオの特性とも合っています。思わず、このプロジェクトを検索してしまうような訴求力がありました。

優秀=朝日放送ラジオ/カッパ・クリエイト かっぱ寿司/「かっぱ・は・まわーるど」 篇 「長尺すぎ」「サビだけで良いのでは」という意見もありましたが、役者の演技と歌に微妙な「普通の人」感があり、実際のお客さんが歌い出したような臨場感がありました。歌詞の中に織り込まれた寿司用語が耳に残り、その熱量で印象が強い作品です。

優秀=熊本放送/自社媒体PRスポット/「radiko生活はじめました」 篇 適度な尺でわかりやすく「radikoが始まった」という情報が伝わってきます。タレントの決めぜりふと合わせて、わかりやすく訴求されていた完成度が評価されました。集中力はそんなに続くものではないので、長尺CMといえども、1分という長さまでが妥当なのではないでしょうか。

テレビCM

今年も社会的に問題提起する公共キャンペーンのCMが数多く出品されていました。時間をかけたドキュメンタリータッチの作品も見受けられるなか、それが数多くの人々に訴求するCMであることの意味をどう捉え、どう表現したかが受賞選考の決め手になりました。「見てもらって当然」という潜在的な意識にとらわれていないか、また過去によく知られているものの焼き直しになっていないかをもう一度考え、よりクリエイティブで心に残るCMを目指していただきたいものです。また、企業や商品の広告作品の多数の応募も期待したいところです。

最優秀=東海テレビ放送/公共キャンペーン・スポット/生理を、ひめごとにしない。 提案性のあるキャッチコピーと、そのテーマでさまざまな観点から取材・撮影を進めた大がかりな作品となっています。女性だけの話にとどまらせることなく、職場や家庭での男性の立場からの視点を入れることで、包括的で問題解決に向けた前向きな内容になっていました。「女性の生理」はすでに大手広告主によるキャンペーン展開もあるなかで、地域のテレビ局が展開するということは大変意義のあることです。CMを見た人の心の変容が期待されます。

優秀=CBCテレビ/公共キャンペーン・スポット/「これが私の声です」〜場面緘黙症と闘う女性たち このCMで「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」を初めて知る人も多いのではないのでしょうか。CMにすることで、社会の受け止め方が変わることが期待されます。4年間にもわたる取材の成果がまとまっており、ドキュメンタリーとして長尺で見たいとも思わせました。

優秀=CBCテレビ/日之出 プレーンモップ/長さなら負けません マイクロドローンによる空撮を効果的に使い、楽しめる映像に仕上がっています。県内でトップクラスの長い廊下とモップの会社の歴史の長さを上手にかけあわせ、老舗感を嫌味なく表現しています。

優秀=読売テレビ放送/公共キャンペーン・スポット/だから_並んで歩こう 60秒ずつ異なるテーマを見せて問題提起し、世の中の弱者の多様さを浮き彫りにして見せてくれました。「だから_並んで歩こう」というキャッチコピーの提案が、重みを増します。重いだけでなく、「並んで歩く」ことで最終的に明るい未来も感じられるような映像となっていました。


各部門の審査結果はこちらから。

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