2024年夏ドラマ総括 新しい家族のあり方を模索する良作が出そろう

成馬 零一
2024年夏ドラマ総括 新しい家族のあり方を模索する良作が出そろう

2024年夏クールのドラマは、新しい家族のあり方を模索するホームドラマが多かった。

若者が子どもを育てる困難さ

月9(フジテレビ系月曜夜9時枠)で放送された『海のはじまり』は、大学時代に別れた恋人・南雲水季(古川琴音)の葬儀で、彼女が自分との子どもを産み、一人で育てていたことを知った青年・月岡夏(目黒蓮)の物語。中絶したと思っていた子どもを、恋人が一人で育てていたという始まりこそショッキングだが、全体の物語は実に淡々としており、夏が父親として娘の海(泉谷星奈)と向き合っていく様子を、とても丁寧に描いている。モノローグとナレーションを使わず、説明的なセリフがほとんどない本作は、映像で見せることに特化した作品で、美しい風景をバックに役者同士の芝居をじっくりと見せている。

脚本は生方美久。チーフ演出は風間太樹。そして主演は目黒蓮。3人は2022年に大ヒットした聴者とろう者の恋愛ドラマ『silentフジテレビ系を手がけているが、再び3人が集結した本作は『silent』で描かれた「静かで優しい世界」を踏襲しつつ、その可能性と限界を深く掘り下げた作品に仕上がっていた。

劇中では夏が娘と向き合う姿と同時に、自分に娘がいることを家族や恋人に伝える気まずい場面が描かれる。その際に夏たちは声を荒げず、可能な限り理知的にしゃべろうするのだが、その静かなトーンが逆に凄まじい緊張感を生み出しており、終始目が離せない。

同時期に放送されていた『あの子の子ども』(関西テレビ・フジテレビ系)も、避妊に失敗して妊娠した女子高校生が恋人の男子高校生と一緒に子どもを産むことを決意するドラマで、お互いの家族に妊娠したことを説明して、産むことの許諾をもらおうとする場面での緊張感が凄まじかったが、この二作を観ていると、今の社会で若者が子どもを産んで育てるということが、いかに困難なことなのかを、強く実感させられる。

 新たな家族像を模索する思考実験

火曜ドラマ(TBS系火曜夜9時枠)で放送された『西園寺さんは家事をしない』も、現代の子育ての大変さを描いたホームドラマだった。

本作は、アプリ制作会社のプロダクトマネージャーとして働く西園寺一妃(松本若菜)が、同じ会社で働くエンジニアでシングルファーザーの楠見俊直(松村北斗)と娘のルカ(倉田瑛茉)と共に「偽家族」として一緒に暮らすホームドラマ。

火曜ドラマが得意とする偽りの夫婦を演じる契約結婚モノのコメディだが、西園寺の会社が手がけているのが、家事を楽にこなすためのアプリ「家事レスQ」であることもあってか、家事の手間をいかに減らし、父母の負担を減らすかに焦点を当てていたのが新鮮だった。本作を観て感じたのは、子育てにかかる手間暇が昭和〜平成の頃と比べると倍増しているということ。だが一方で家族の構成人数は減り、一人の親が一人の子どもを育てるシングルファミリーも増えている。一人親で子育てをすることはとても困難で、もしも親の健康状態が悪化すれば、途端に家族は機能不全に陥ってしまう。そんな状況で家族をやっていくことの困難に本作は焦点を当てており、一見楽しいホームコメディに見えるが、新しい家族のあり方を模索する思考実験的な作品だったと感じる。

趣味ドラマとホームドラマの両立

深夜ドラマ『量産型リコ -最後のプラモ女子の人生組み立て記-』(テレビ東京系)は、ヒロインのリコ(与田祐希)がプラモデルを作る姿を魅力的に描いた人気シリーズの第三作だが、過去作が会社を舞台にしたお仕事モノのドラマだったのに対し、今作は、実家を舞台にしたホームドラマとなっていた。

亡くなった祖父の葬儀のために帰省したリコは、遺品にあった作りかけのプラモデルを完成させるため、祖父が通っていた矢島模型店に足を運び、そこで優しい以外に特に個性がないと思っていた祖父に、プラモ作りという趣味に熱中する別の顔があったことを知り、リコもまたプラモ作りに没頭していく。リコが悩みを抱えた人といっしょにプラモを作ることで問題を解消していくという展開はこれまでと同じだが、毎回フィーチャーされる人物が、家族や幼馴染に変わったことで、会社が舞台だった過去作とは、全く違う味わいに仕上がっていた。

タイトルにある「量産型」とは、突出した個性がない普通の人という意味で、リコは量産型女子と劇中で揶揄されている。そんなリコがロボットアニメ『機動戦士ガンダム』に登場する量産型ザクのプラモを組み立てることで「量産型」という言葉の意味をポジティブなものになものに読み替えていく姿が描いたのが、このシリーズの始まりだった。

そのテーマは今作でも健在で、量産型に思えた祖父、父、母、姉、妹といった家族にも、自分の知らない別の顔があることを、プラモ作りを通してリコが発見していく話となっている。女性アイドルがプラモを作る姿を美しく撮る趣味ドラマとホームドラマを両立させたアクロバティックな怪作である。

ファンタジーの手法で描く家族像

一方、ファンタジーの手法を用いて新たな家族のあり方を描いたのが『南くんが恋人⁉️』(テレビ朝日系)だ。

本作は、ある日突然、身長が15cmに小さくなってしまった南浩之(八木勇征)と恋人の女子高生・堀切ちよみ(飯沼愛)が家族に秘密で、同棲生活を送るファンタジーテイストのラブストーリーだ。原案は内田春菊の漫画『南くんの恋人』(青林工藝舎)と『南くんは恋人』(ぶんか社)。

これまでに4度ドラマ化している『南くんの恋人』では、少女のちよみが小さくなり男性の南くんが守るという関係を描いていた。対してスピンオフ漫画の『南くんは恋人』では男女の立場が逆転し、南が小さくなる。今回のドラマは『南くんは恋人』の設定を踏襲しているのだが、94年版『南くんの恋人』の脚本を手がけた岡田惠和が担当していることもあり、94年版を男女逆でなぞるセルフリメイクとなっていた。

そのため、94年版では最後に明かされる小さくなった理由も早々と明かされるのだが、ストーリーをなぞりながらも男女の役割が変わったことや時代が変わったことによる変化が細かく描かれており、原作漫画や94年版を知っている人ほど面白い作りとなっている。その際たるものが、家族の描き方だろう。ちよみは5人家族で、父と母は再婚で血のつながらない弟がいる。同時に離婚した父親の母(ちよみにとっては祖母)も同居しており、複雑な家族なのだがとても仲が良く、他人に対してとても寛容だ。そのため、小さくなった南くんも家族の一員として喜んで受け入れる。本作における「小さくなった恋人」は男女の力関係やアイドルとファンの関係の比喩だと思うのだが、マイノリティの象徴でもあり、小さい南くんを家族が優しく受け入れる物語になっていたのが、大きな変化ではないかと思う。

会社を舞台に描く家族の現在

また、会社を舞台に家族の現在を描いたのが『マル秘の密子さん』(日本テレビ系)。

本作はシングルマザーの介護士・今井夏(松雪泰子)が同族経営の大企業・九条開発の大株主となったことで、次期社長の座をめぐる権力闘争に巻き込まれていていく姿を描いた企業ドラマで、主人公は今井夏をサポートするトータルコーディネーターの本宮密子(福原遥)。敵か味方かわからない不気味な存在の密子が周囲を翻弄する姿は、『女王の教室』(日本テレビ系)や『家政婦のミタ』(同)を彷彿とさせるドラマとなっていたが、会社内での権力闘争をめぐって、エリート一族の九条家と貧困一家の今井家が比較して描かれる本作もまた、現代のホームドラマだと言えるだろう。

家族の物語として着地した朝ドラ

半年の放送が終了した連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『虎に翼』(NHK)も、家族の物語として着地したように思う。

戦前から始まる本作はヒロインの寅子(伊藤沙莉)が法律を学び、日本の女性で初めての弁護士、判事、裁判所長へと出世していく姿を描いた朝ドラだ。脚本の吉田恵里香は女性差別を筆頭とするさまざまな差別を描き、朝鮮人、同性愛者、障害者といったマイノリティを劇中に次々と登場させることで、これまでにない社会派テイストの朝ドラを作り上げた。

物語は寅子たちがさまざまな裁判を通して、戦前・戦後の日本社会の問題と対峙するリーガルドラマ・パートと、寅子が結婚して子どもを産み、母親としての悩みに直面するホームドラマ・パートの両輪で進んでいくのだが、時代を重ねるごとに家族の構成人数や各々の役割分担が変わっていく様子が興味深く、劇中の家族の描かれ方の変遷を見ていると、日本人の家族の歴史を見ているようで興味深かった。

ホームドラマの歴史は日本のテレビドラマの歴史と言っても過言ではないが、少子高齢化で家族を取り巻く環境が変化している現在だからこそ、新しい家族のあり方を模索するホームドラマの良作が、夏クールに出そろったのではないかと思う。

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