【10月10日審査】
審査委員長=弓矢政法(ジェイアール東日本企画 常務取締役メディア・コンテンツ本部長、日本広告業協会メディア委員会委員)
審査員=石川智之(TOPPANホールディングス 執行役員広報本部長、日本アドバタイザーズ協会理事・メディア委員会委員)
大森貴弘(産経新聞 文化部記者)
奥貫薫(俳優、J-WAVE番組審議会委員)
川口あい(NewsPicks Studiosシニアエディター、TBSラジオ番組審議会委員)
木村直登(共同通信 文化部記者)
佐々木俊尚(作家・ジャーナリスト、エフエム東京番組審議会委員)
松岡昌志(東京科学大学教授、ニッポン放送番組審議会委員)
松崎美保(読売新聞 文化部記者)
吉野隆(帝人 前顧問、文化放送番組審議会委員)
今年の日本民間放送連盟賞グランプリ(ラジオ)には、候補となった全国8番組の中からラジオ沖縄『白線と青い海~早川さんと饒平名さんの730(ナナサンマル)~』(=写真㊤)が選ばれた。
きっかけは、ラジオ沖縄にかかってきた1本の電話だった。大分県に住む早川さんという老人が、沖縄にいるはずの「饒平名(よへな)さん」を探しているという。早川さんはかつて、道路に「止まれ」などの標示をペイントする技術者だった。1978年、沖縄ではそれまで米国式だった右側通行を左側通行に変更する一大プロジェクト「730」が進行しており、早川さんはその技術指導者を務めていた。一緒に働き、特に仲が良かったのが饒平名さんだ。ただ、覚えているのは所属会社と名字だけ。早川さんは困り果て、当時よく聴いていたというラジオ沖縄を頼ったのである。
番組でリスナーに呼びかけると、次々と情報が寄せられた。当たり外れを確認していく作業は臨場感にあふれ、右往左往しながらも何とか饒平名さんにたどり着いた。2人を電話口で引き合わせた際、生放送にもかかわらず饒平名さんが思わず自宅の電話番号を言いかけてしまうなどのハプニングも起きたが、審査員には「むしろ生々しさを際立たせた」と好評だった。
もっとも、番組は単に人探しを助けただけではない。今では知る人が少なくなった「730」について、警察官やバス運転手ら関係者に取材したほか、当時の音源も紹介して全貌の一端を明らかにした。事故を起こさないよう細心の注意を払っていた関係者の努力を掘り起こし、戦後の米国による統治と本土返還という歴史的な位置付けにも焦点を当てた。審査会では「過去の検証を土台として固めた上に、人探しのドタバタ感を乗せたので安心感をもって聴けた」などの意見が出た。
準グランプリには山梨放送『リスタート~ギャンブル依存症回復への道~』(=写真㊦)が選ばれた。山梨にあるギャンブル依存症患者の療養施設に長期密着し、患者の実態と社会復帰に向けた課題を丁寧に拾い上げた番組だ。
顔が写らないので匿名性を担保しつつ、肉声をそのまま伝えられるというラジオの特性を生かしたといえ、審査員からは「患者の素直な心の内を聴けた。取材の苦労がしのばれる」などの声が上がった。
ほかにも、北日本放送『KNB報道スペシャル ふるさとの亀裂~地震と過疎と原発と~』や山梨放送『ピースフィールド 地雷のない大地へ~日本人技術者 30年の挑戦~』は緻密な取材で課題を的確にとらえ、ドキュメンタリータッチでリスナーを引き込む構成が光った。
信越放送『こてつのびんびんサタデースペシャル~Dr.北村 性の課外授業~』は笑いの中に大切な要素を詰め込んでいたし、エフエム東京『FMフェスティバル2023 サザンオールスターズ45周年!「サザンとわたし」スペシャル』や北日本放送『でるラジ「氷見を元気に!富山を元気に!能登にも届け!」』、山梨放送『はみだし しゃべくりラジオ キックス』には、多くのリスナーが元気づけられたに違いない。
メディアが多様化する中、どの番組も「ラジオだからできること」を強く意識し、試行錯誤しながら追求していく様子が伺えた。