【新放送人に向けて2024② 宮澤真史・読売テレビコンテンツ戦略センター】放送コンテンツの可能性は無限

宮澤 真史
【新放送人に向けて2024② 宮澤真史・読売テレビコンテンツ戦略センター】放送コンテンツの可能性は無限

新入社員のみなさん、入社おめでとうございます。放送局でどんな仕事がしたいか、どんな夢をかなえたいか、まさに期待で胸がいっぱいかと思います。

放送局の編成とは

放送局の仕事は多岐にわたります。報道や制作、スポーツ、営業などは仕事内容がイメージしやすいかもしれません。さて、今回の本題である、放送局の「編成」とはいったい何をするのでしょうか。一言で言いますと、テレビやラジオの「番組をどの曜日のどの時間に編成(放送)するか」、タイムテーブルを考え、実行します。これが1丁目1番地の幹となる仕事です。

その際、私たちが常に考えているのが、「コンテンツ価値の最大化」です。視聴者に「見たい、見てよかった、より見たくなる」と思ってもらえる価値あるタイムテーブルという意味合いですね。そして、私たち民放は、お金を自分たちで稼がなければなりませんので、1分あたりのCM単価を効率的により高く売ることができるかという側面も考えなければなりません。一般企業では、在庫が足りなくなれば発注したり自ら製造したりする会社がほとんどですが、放送局は24時間という限られた在庫を最大限生かし、視聴者の満足度と売上をどうあげていくかを両立させる必要があります。そのために編成は社内の関係部署をつなぐ、宴会に例えると「幹事役」のような役割でしょうか。

その幹事役である、編成の仕事も放送を取り巻く環境の変化から、大きな転換点に差しかかっています。具体的に何が変わりつつあるのか、あるいは変わらなければならないのか、お話したいと思います。

例えば、みなさんも耳にしたことがある「視聴率」です。番組をどれだけの人がリアルタイムで見てくれているのか、コンテンツ価値をはかる指標のひとつです。私が入社した20数年前は世帯視聴率のみでしたが、今では個人、コア、世帯、タイムシフトと多様化しています。これまでテレビ局同士の競争といえば視聴率競争でしたが、最近は視聴率ひとつとっても、ある局は個人視聴率、別の局はコア、さらに別の局は世帯を重視する――と、ターゲットが多様化してきています。視聴率競争が最近、視聴者から遠いところになっているのではないかと率直に感じています。それは地上波の番組(コンテンツ)を幹として、そこに生い茂る枝葉のようにプラットフォームの多様化が進んでいるからではないでしょうか。

これからの時代に求められる姿

これからの時代に求められる編成の姿とは、地上波視聴率に基づくタイムテーブルの価値の最大化だけでなく、コンテンツそのものの価値の最大化を追い求めることだと思っています。その一例が番組を地上波テレビやラジオで放送するだけでなく、インターネット配信などを通じて、ひとりでも多くの人に見たり聴いたりしてもらうことです。TVerやradikoの総再生数のトップを取ることを目標に掲げる、あるいは番組販売、海外展開、放送の公共性、地域貢献などに力を入れている局もあると思います。これまでの視聴率という単一のものさしではなく、各局がコンテンツごとにその特性を踏まえた獲得目標を掲げるなど、評価軸が多様化しています。まさに視野を広く持ち、総合編成の視点、複眼的な視点が重要となります。

私が勤務する読売テレビでも「トータルリーチ」戦略を掲げています。コンテンツをより多くの人に届けることを目指し、地上波視聴率にプラスアルファする形で、番組コンテンツ単位でインターネット配信をはじめとした、あらゆる手段を使い、全方向からマネタイズをしていく考え方です。社内の意識改革のひとつとして、2023年7月に部署名を「編成局」から「コンテンツ戦略局」へ変更しました。読売テレビの開局は1958年ですが、開局以来あった部署名からはじめて"編成"の文字がすべて消え、編成、番組宣伝、配信、イベント、アニメ、アナウンサー、知財関係など、これまで別々だった、コンテンツにかかわるさまざまな部署がひとつの局となり、一体的な取り組みを始めています。日本テレビ系列でもおよそ3分の1の放送局が、編成から「コンテンツ」「メディア」を冠する部署名へ変更しており、名称ひとつ取っても変化が感じ取れます。

新入社員のみなさんにはちょっと難しい話だったかもしれませんが、ぜひ考えていただきたいのは、コンテンツの評価軸やプラットフォームがこれだけ多様化する中で、自身が入社した放送局の特徴やコンテンツの価値は何なのか。言い換えれば「自局の強み、独自性」は何か、それを伸ばすために自分は何が提案できるのかということです。

地元と東京の複眼的な視点

もうひとつ、みなさんに意識していただきたいことは、「本社の視点」と「東京からの視点」の違いです。私は、23年7月から東京支社で編成改めコンテンツ戦略を担当しています。それまでは本社で編成を担当していました。コンテンツ戦略ひとつとっても本社と東京支社では、その役割が大きく違います。東京支社で重要になるのは、キー局、系列各局との向き合いです。キー局との交渉、全国ネット番組の情報やCM量はどうなのかなど、まさに本社とのパイプ役です。また、系列局の東京支社で働く仲間との出会いもあります。系列局という横のつながりは貴重な財産です。課題や悩みを相談したり、他社の良いところを自社に取り入れたりと、視野や人脈を広げることで得られるアイデアも多いでしょう。

ぜひ、みなさんが東京支社に配属となった機会には、地元と東京という複眼的な視点から、「自局にとってベストな施策」を考えることがあっても良いのではないでしょうか。

緊急放送への対応

編成で大事な業務のひとつが緊急放送への対応です。元日に発生した能登半島地震で、各局は正月番組を休止し、津波情報や被害状況を報道しました。私は大阪の自宅でおせち料理を食べていました。揺れを感じると、テレビには珠洲市の天気カメラを通じて家屋が倒壊する瞬間が映し出されました。すぐに本社へ駆けつけると、報道担当の同僚は被災地へと駆け出していきました。翌日には羽田空港で航空機衝突事故もありました。

災害や事件・事故は時を選びません。ひとたび緊急事態が起きたら、放送エリアの人たちはもとより、放送局は「国民の生命・身体・財産を守る」報道を行う、放送事業者としての責務があります。これを無事に成し遂げるために、編成は裏方として、報道特別番組をいつまで放送するか、津波予想の地図スーパーの掲出、CMの有無など、放送にかかわるさまざまな事項について、社内の関係部署と調整し、判断しなければなりません。緊急放送への対応は部署を問わず、放送人として常に心に留めておくべきことのひとつです。

自らの手で切り拓く

最後になりますが、放送局の将来は誰にも予想がつきません。だからこそ面白いのではないでしょうか。放送の将来を自らの手でいくらでも切り拓いていける余地があるからです。自分が作ったコンテンツ、自分が裏方で支えたコンテンツをテレビやラジオ、インターネットなど多様な手段を通じて多くの人に届けることができる、こんなメディアは放送局だけです。各局の新入社員のみなさんと一緒に、基幹事業である、地上波のテレビやラジオに視聴者を戻す、全国各地でテレビやラジオの電源がオフになっている視聴者・リスナーを戻す。放送局でしかできないことを視聴者に届けて、今一度「テレビ・ラジオってすごいな」と思わせたいです。

私が仕事に悩んだり、迷ったりした時、思い浮かべる光景があります。中学2年生のときに、故郷の長野県で4局目の民放局として、長野朝日放送が開局しました。試験電波が発射された3月末だったと記憶していますが、父にテレビとリモコンの設定をしてもらいました。『ミュージックステーション』や『ニュースステーション』を初めて見て「こんな番組があるんだ」とワクワクドキドキ感が止まらなかったことを今でも覚えています。30数年がたち思うことは、テレビやラジオの本質である、コンテンツの楽しさ、エンターテインメントのワクワクドキドキ感、報道の信頼性を、テレビやラジオの枠を飛び出していかに多くの人に触れてもらえるか。今、意識改革が求められているのは私たち放送局の側ではないでしょうか。

その先頭に立つのは、新入社員のみなさんです。放送コンテンツの可能性は無限です。ともに頑張りましょう。一方で焦らず、時々肩の力を抜くことも忘れずに。


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