【新放送人に向けて2024③ 佐久間宣行さん】放送は人生が変わるきっかけになるメディア

編集広報部
【新放送人に向けて2024③ 佐久間宣行さん】放送は人生が変わるきっかけになるメディア

2024年の春、放送業界に新たに仲間入りする新放送人に向けて、経営者や先輩たちからのメッセージなどを連続企画でお届けします。3回目は、テレビプロデューサーの佐久間宣行さんに、放送業界で働くうえでのアドバイスなどを聞きました。(編集広報部)

佐久間宣行
テレビプロデューサー、ラジオパーソナリティ、元テレビ東京社員。テレビ東京『ゴッドタン』『あちこちオードリー』などのテレビ番組を手がけるほか、2019年4月からニッポン放送『オールナイトニッポン0』のパーソナリティを務めている。YouTubeチャンネル『佐久間宣行のNOBROCK TV』を21年7月に開設し、登録者数は178万人(2024年3月25日現在)。このほか、Netflix『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』『「LIGHTHOUSE」~悩める2人、6カ月の対話~』、DMM TV『インシデンツ』など配信コンテンツも制作している。


「偶然の出会い」がある

放送業界で働く魅力は
放送局でしかかなえられないことがあるんですよ。それは、多くの人に届くという「やりがい」と「責任」、視聴者やリスナーの人生を変えるような「きっかけ」を作れること――それが放送業界で働く醍醐味だと思います。ネットはアルゴリズムやSEO対策もあって、自分の関心ごとや検索したことの関連情報に接することが多いので「偶然の出会い」があまりないんですよ。一方でテレビやラジオは見ていて急に飛び込んでくるので、その人の人生が変わるきっかけになり得る。そういう素敵なメディアに携われるのは素晴らしいことだと思います。

放送局で働くうえで意識すべきことは
今はメディアというものの意味や意義が変わっていく時代だから、必要なのは受け手としての自分を常にアップデートすること。自分の興味の幅や価値観を常にフレッシュな状態にしないと、古いものを作ることになります。僕の年齢になってもそうだし、特に放送業界に入る若い人にとっては、フレッシュな感覚を持つことがすべてだと思います。

コンテンツを鑑賞する時間の作り方は
僕は徹底的に事前に調べておいて、ライブや映画などの予定を2、3カ月前から入れ、その予定を優先して仕事のスケジュールを立てています。「楽しみ」「仕事」「家庭」の予定を全部平等に組んでいるんですよ。例えば、東京03やさらば青春の光のライブなども、日程が発表された段階でチケットを手に入れる前からカレンダーに入れてます。思ったより社会人って忙しいんで、それぐらいしないと面白いものを見る時間がないんです。時間は見つけるんじゃなくて、作るものだと思います。

働き方についてのアドバイスは
「やったほうがいい」「人からの信用につながる」と感じることは、3カ月は続ける。3カ月続けてみると他人にその努力が伝わります。1日、2日頑張っても伝わらないから、仕事は半分マラソンだと思って、こうするって決めたら、無理せずにできることをちゃんとやる。自分で自分をつぶさないように、3カ月は続けられるぐらいの努力から始めるといいと思います。数日しか持たない努力は体調を崩すだけだから、やめたほうがいいです。

あと、テレビやラジオでやりたいことは周りの全員が持っているから、テレビやラジオに掛け合わせられるような「自分の好きなもの」を20代の早いうちに見つけてください。いつか自分で番組を作る時、それが自分の個性になるので、そういうものを持っておくことが大切だと思います。

入社前の理想と、入ってからの現実とのギャップへの向き合い方は
大きな夢を目標に格下げする。夢は夢で持っておいていいんですけど、夢中心に仕事をするんじゃなくて、夢をちゃんと現実のスケジュールに落とし込んで、「ここまでにはこの実力を身に付けよう」と考えて日々の仕事に意味をもたせる。日々の仕事が夢につながっていないと感じると、人はつぶれちゃうんで、中長期の目標を持つことが大切だと思います。

人の日常になる

NetflixYouTubeなどで成功してもなお、テレビ番組を作り続ける理由は
テレビは、偶然の出会いを作れるメディアであり、"週に一回、人の日常になれる"からです。毎週、視聴者と一緒に人生を送ることができるのがテレビとラジオの魅力だと思います。

ラジオ、テレビ、YouTubeなど配信での、ユーザーの熱の違いは
思ったよりそこまで差はないと感じていますが、ラジオは聴いている人の数が多くはないけど、長尺で話している分、熱いファンが多いと感じます。YouTubeは常にキャッチアップできるから、昔作ったものがふいに面白いと思われ、徐々に広まっていくことがあるので、全国にファンが薄くいる感じです。テレビについては僕の場合、一緒に歳をとってきたファンがとても多いです。「佐久間さんの番組を見て育ちました」という声もいただきます。僕が作るものに関しては、メディアごとに見ている人の思い入れの度合いが違うので、どのメディアもやりがいがあります。

佐久間さんのテレビ番組に熱いファンが多い理由は
「視聴者のきっかけになるものを作りたい」という姿勢だと思います。僕の番組をきっかけに出演する芸人やバンドのファンになってほしいという気持ちがあります。それがうまく伝わり、人生が楽しくなったと感じた視聴者が僕の番組を愛してくれているのだと思います。僕自身が"ど真ん中"のコンテンツが好みの人間じゃないから、ど真ん中の人間じゃなくても楽しいって思えるものを世の中に残していこうって気持ちで作っています。そこに賛同してくれている人がいるのかなって。

放送の「ここが良くなったらいいな」と思うことは
番組の価値を図る指標がもっと必要だと思います。視聴率と、TVerradikoなど配信の数字ぐらいしかない。例えば、野球だとOPS(出塁率と長打率を足し合わせた値で、打者を評価する指標)や、WAR(打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して、選手の貢献度を表す指標)など、いろんな指標で選手が評価されるようになり、大切にされる選手が変わってきたと思います。テレビとラジオにはそういった指標がないから、ふんわりとしたもので番組の価値が測られる。もしかしたらビジネスチャンスを逃していて、終わるべきじゃない番組が終わってしまっている可能性もある。番組の"熱"を数値として測れるものを開発できれば、数値が細かく出るネットにも勝てるようになると思います。

(取材・構成=民放online・梅本樹)


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