放送業界も深く関係する新たな法律「フリーランス法」について、解説講座を連載しています(連載まとめはこちら)。大東泰雄弁護士、堀場真貴子弁護士による共同執筆です。(編集広報部)
第4回と第5回は、フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)に関して、よくある質問にQ&A形式でご説明します。まず第4回は、フリーランス法の適用対象と取引適正化に関するルールについてのご質問を取り上げます。
1.フリーランス法の適用対象についてのQ&A
質問1.本業は会社や大学などの組織に所属している人に対し、副業として番組のコメンテーター等を依頼する場合、フリーランス法の対象になるのでしょうか。本業・副業を判断する基準はあるのでしょうか。 |
【回答】質問の事例にあるコメンテーターは、典型的な個人事業主とは異なり、会社や大学などの組織に所属する方々です。
しかし、ある事業者から労働契約に基づき雇用されている労働者であっても、副業で他の事業者から業務委託契約に基づき業務を受託している場合は、他の事業者から受託している業務を行う範囲においては「特定受託事業者」に該当し得るとされていますので(公正取引委員会「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」〔以下「公取委Q&A」といいます。〕Q14)、依頼先のコメンテーターが組織に所属しているからといって、直ちにフリーランス法の対象外とされるわけではありません。
そして、フリーランス(特定受託事業者)に該当するためには、依頼先のコメンテーターが「事業者」であることが前提条件となりますので(フリーランス法2条1項)、どの程度のレベルの副業を行っていれば「事業者」と判断されるのかが問題となります。
この点、フリーランス法には「事業者」の定義がありませんが、公正取引委員会は、「『事業者』とは、商業、工業、金融業その他の事業を行うものをいいます。」としています(公取委Q&A・Q6)。そして、この定義は、独占禁止法2条1項が定める「事業者」の定義と同様であり、同法にいう「事業」とは、「なんらかの経済的利益の給付に対応し反対給付を反復継続して受ける経済活動を指し、その主体の法的性格は問うところではない」(最高裁判決1989年12月14日)と解されていますので、フリーランス法においても同様に解すべきと考えられます。
しかしながら、これ以上の明確な基準は示されていませんので、「反復継続」というキーワードを軸にして個別具体的に考えていくほかないということになります。
例えば、依頼先の大学教授が普段は大学における研究・教育活動に集中しており、数年に1度テレビでコメンテーターを務めることがあるという程度であったり、当該教授の専門分野に関する事件・事象が起きた際に短期的に複数回コメンテーターを務めることがあるという程度であったりする場合は、反復継続性が低く、そのような活動を「事業」と評価するには至らない可能性があります。
他方、普段は会社員として勤務しつつ、自身のビジネスを立ち上げ、当該ビジネスに関するウェブサイトを開設し、日常的に業務を行っているような方に対し、当該ビジネスにまつわるコメンテーターを依頼するような場合は、「事業者」に対する委託としてフリーランス法の対象になるように思われます。
ただ、いずれにしても明確な線引きは困難ですので、実務上は、「この方は、いくら何でも『事業者』ではないだろう」と考えられる依頼先はフリーランス法の対象から除外し、「事業者といわれれば、事業者なのかもしれない」と思われる依頼先は、幅広めにフリーランス法の対象として扱うといった、ある程度割り切った対応が必要になると考えられます。
質問2.専門家に報道番組での取材対応を無報酬で依頼する場合も、フリーランス法の対象になるのでしょうか。 |
【回答】無償で依頼する場合も「業務委託」に該当するのか否かについて、明示した公式見解は見当たりません。
もっとも、依頼先が事業者であっても、無償での依頼の場合は、フリーランス法でルールが定められている報酬の支払をそもそも観念できませんし、フリーランスを保護する必要性も高くないと考えられますので、企業の実務としては、「業務委託」に該当せずフリーランス法の対象外と整理し、有償での委託に関する法遵守を徹底するのが合理的ではないかと考えます。
質問3.海外在住のフリーランス(カメラマン、ジャーナリストなど)に日本から業務委託する場合にも、日本のフリーランス法が適用されるのでしょうか。 |
【回答】政府は、国または地域をまたがる業務委託については、以下のように、その業務委託の全部または一部が日本国内で行われていると判断される場合には、フリーランス法が適用されるとしています(2023年4月21日の参議院本会議における後藤茂之大臣の答弁)。
① 日本に居住するフリーランスが海外に所在する発注事業者から業務委託を受ける場合 |
したがって、上記②のとおり、海外在住のフリーランスに日本から業務委託をし、「委託契約が日本国内で行われたと判断される」場合にはフリーランス法が適用されることになります。具体的にどのような場合が上記場面に当たるのかは明らかでありませんが、海外在住のフリーランスが一律にフリーランス法の対象外ということはできず、むしろ対象範囲に含まれるケースが多くなると想定されます。
他方、公正取引委員会等の法執行の実務を想定すると、フリーランスに対する調査票の発送やヒアリング等の調査は、国内在住のフリーランスを中心に行われるのではないかとも思われます。
2.取引適正化に関するルールについてのQ&A
質問4.定期的に同じフリーランスの方(タレント、アナウンサー、カメラマン、ディレクターなど)を番組に起用する場合でも、その都度、書面などで契約条件を明示しなければならないのでしょうか。海外在住のフリーランス(カメラマン、ジャーナリストなど)に日本から業務委託する場合にも、日本のフリーランス法が適用されるのでしょうか。 |
【回答】発注者(業務委託事業者)は、フリーランス(特定受託事業者)に業務委託をした場合は、直ちに所定の事項を明示しなければならないとされていますので(フリーランス法3条)、基本的には、同じフリーランスの方を起用する都度、書面やメールで発注条件を明示する必要があります。
ただし、一定期間における複数の発注に共通して適用される事項(例えば支払方法、役務提供場所等)がある場合、当該共通事項をあらかじめ別の書面またはメール等で明示しておけば、当該共通事項について逐一明示する必要はありません(公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則3条)。
また、例えば、1年間にわたり、毎月1回定期的に起用することが決まっており、依頼内容やスケジュール(役務提供日)など1年分の明示事項の内容が当初からすべて決まっている場合には、契約書にフリーランス法上の明示事項を盛り込んでおけば、都度、契約条件の明示を行う必要はありません(公正取引委員会等「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」等に対する意見の概要及びそれに対する考え方」2-1-2)。
質問5.発注側(放送局、番組製作会社など)や受注側(特定受託事業者=フリーランス)は、「契約書」「発注メール」「依頼SNSメッセージ」などをどのくらいの期間、保存しておく必要があるのでしょうか。 |
【回答】下請法においては、親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、所定の事項について記載した書類を作成し、2年間保存しなければならないとされています(同法5条。「書類の作成・保存義務」と呼ばれます。)。
これに対し、フリーランス法においては、下請法のような書類の作成・保存義務は定められていませんので、発注側が記録を保存していなかったとしても、直ちに法律違反になるわけではありません。
もっとも、公正取引委員会等の調査を受けた際に、きちんとフリーランス法を遵守していることを説明するため、下請法と同様、2年間程度は発注メール等の関係書類・データを保存しておくことが望ましいでしょう。
【執筆者紹介】
のぞみ総合法律事務所 弁護士
大東 泰雄(だいとう・やすお)
2001年慶應義塾大学法学部卒、2012年一橋大学大学院修士課程修了。2009年~2012年公取委審査専門官(主査)。2019年から慶應義塾大学法科大学院非常勤講師。
公取委勤務経験を活かし、独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等についてビジネスに寄り添った柔軟なアドバイスを提供している。
のぞみ総合法律事務所 弁護士
堀場 真貴子(ほりば・まきこ)
2019年中央大学法学部卒、2021年一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了。2022年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所入所。
独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等を含む企業法務全般を取り扱う。