2024年11月1日施行!よくわかるフリーランス法解説講座〔第1回〕 フリーランス法の概要と適用対象

大東 泰雄、堀場 真貴子
2024年11月1日施行!よくわかるフリーランス法解説講座〔第1回〕 フリーランス法の概要と適用対象

放送業界も深く関係する新たな法律「フリーランス法」について、解説講座を連載開始しました。大東泰雄弁護士、堀場真貴子弁護士による共同執筆です。連載後半では読者の皆さまからの質問にも回答いただく予定ですのでご期待ください。(編集広報部)


特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」といいます。)が、2024111日に施行されました。フリーランス法は、特定受託事業者と呼ばれるフリーランスと発注者との間の幅広い取引について、「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つの観点から、発注事業者が守るべき義務と禁止行為を定めており、放送業界にも大きな影響を与えると考えられます。そこで、本連載では、放送業界で実務に携わる方々が知っておくべきフリーランス法のポイントについて、5回にわたり解説します。
まず、連載第1回は、フリーランス法の概要と、同法に気を付けなければならないのはどのような取引なのかを解説します。 

1. フリーランス法制定の背景

近年、デジタル社会の発展を背景に働き方の多様化が進展し、フリーランスという働き方が増えています。放送業界においても、俳優・声優、ディレクター、コンテンツ制作者、ITエンジニア等のさまざまなフリーランスが活躍されています。そして、少子高齢化に直面する日本経済が発展するためには、会社員等の労働法で保護される労働者のみならず、フリーランスの方々が安心して働けるように環境整備を進め、労働参画を増やすことが必要です。そこで、いわば「労働法による保護」と「独占禁止法・下請法による保護」の隙間にあって保護が充分でないフリーランスを保護するため、フリーランス法が制定されました。

2. フリーランス法の概要

フリーランス法は、組織(2人以上で構成される法人/個人事業者)は強い、1人で働く事業者(法人/個人事業者)は弱いという考え方を前提に、前者(委託者)から後者(受託者)を守るという基本発想で作られています。

そして、このような発想の下、フリーランス法は、規制対象となる委託者(発注者)を「業務委託事業者」および「特定業務委託事業者」、受託者であるフリーランスを「特定受託事業者」と定義し、両者の間の幅広い取引に規制を及ぼしています。本連載で用いるこれらの法律用語は少々難しいかもしれませんが、「委託」という単語が入っているものが発注者、「受託」という単語が入っているものがフリーランスとご理解ください。なお、本連載では、分かりやすさを重視し、特定受託事業者を指して「フリーランス」ということもあります。

フリーランス法が定める新たなルールは、大きく、(1)発注者とフリーランスとの間の取引の適正化に関する下請法類似のルール(公正取引委員会〔以下「公取委」といいます。〕および中小企業庁〔以下「中企庁」といいます。〕が所管)、(2)フリーランスの就業環境の整備に関する労働法類似のルール(厚生労働省〔以下「厚労省」といいます。〕が所管)に分かれます。
これを図示すると、図1のとおりです。

講座① 図1.jpg

3. フリーランス法の適用対象

フリーランス法で保護されるフリーランス(特定受託事業者)とは、業務委託の相手方である事業者であって、以下のいずれかに該当するものをいいます(フリーランス法21項)。

 ① 個人であって、従業員を使用しないもの
 ② 法人であって、一の代表者以外に役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

つまり、法人成りをしているかを問わず、1人で事業をしているような人が、保護されるフリーランスに当たるということです。

他方、フリーランス法のルールを守らなければならない発注者(特定業務委託事業者)とは、フリーランスに業務委託をする事業者(業務委託事業者)のうち、次のいずれかに該当する者をいい、法人であるか否かということや、資本金額は問われません(同法26項)。

 ① 個人であって、従業員を使用するもの
 ② 法人であって、二以上の役員があり、または従業員を使用するもの

つまり、フリーランスに何らかの業務委託をしている会社・法人(いわゆる一人社長の法人を除く)であれば、すべからく「特定業務委託事業者」に該当しますので、読者の皆さまの会社も、これに該当するということになるでしょう。

上記にいう「業務委託」とは、事業者がその事業のために、他の事業者に、①物品の製造(加工を含む)、②情報成果物の作成、または③役務の提供(修理および建設工事を含む)を委託することをいいます(同法23項)。

そして、フリーランス法における「委託」「物品」「製造」「情報成果物」「役務」等の概念は、下請法と同様ですが、フリーランス法では、下請法においては基本的に適用対象外とされている自社向けの製造委託・修理委託・情報成果物作成委託や、全面的に適用対象外とされている自社向けの役務(自己利用役務)の提供の委託も、すべて適用対象に含まれることに注意が必要です。そのため、これまで下請法対象外であるとして特段の体制整備を行っていなかった以下のような取引についても、新たにフリーランス法の対象として体制整備が求められることになります。

 ▶ 放送局が番組制作に必要な役務(俳優の実演等)を委託
 ▶ 自社ホームページの制作
 ▶ 自社向けの研究開発、翻訳、レポート作成等
 ▶ いわゆる自己利用役務全般 

特に、放送番組制作に関する取引を行うフリーランスとしては、例えば、以下の職種に携わる方などが想定されます。

 ディレクター、アシスタント・プロデューサー、カメラマン、
 タイムキーパー・記録、作画(イラストレーター)、スタイリスト・ヘアメイク、
 
構成作家・脚本、リサーチャー、出演者(ナレーター、声優含む)など

そして、本連載の第2回で解説するとおり、「取引の適正化」に関するフリーランス法の規制内容は下請法とほぼ同等であり、下請法への対応が万全であればフリーランス法への対応も万全ということになりますので、フリーランス法の施行に伴って新たに取引適正化に関する対応が必要となる範囲は、主に、フリーランスに対する自社向けの委託取引ということになります。そのため、放送業界においては、特に自社向けの役務の提供の委託が新たに規制対象となるという点が特に重要であり、大きな影響をもたらすと考えられます。 

4. フリーランス該当性の確認

フリーランス法で保護されるフリーランス(特定受託事業者)とは、前述のとおり、従業員を使用しない個人事業主等の「1人で働く事業者」に限られます。そのため、取引先であるフリーランスが「特定受託事業者」に当たるか否かを判断するためには、当該フリーランスが従業員を雇用しているか否かを本人に確認するほかありません。

そこで、書面やメール等の記録に残る方法で、従業員雇用の有無を確認しておくことが望まれます。このような確認は、本法施行の機会に一斉に行った上で、その後は新たな取引開始ごとに行うほか、従業員雇用状況は変動することから、契約更新時等の機会を捉えて再確認を行ったり、定期的な確認を行ったりするとよいでしょう。

(第2回へ続く)


【執筆者紹介】

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のぞみ総合法律事務所 弁護士
  大東 泰雄(だいとう・やすお) 

 2001年慶應義塾大学法学部卒、2012年一橋大学大学院修士課程修了。2009年~2012年公取委審査専門官(主査)。2019年から慶應義塾大学法科大学院非常勤講師。
 公取委勤務経験を活かし、独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等についてビジネスに寄り添った柔軟なアドバイスを提供している。


画像2.jpgのぞみ総合法律事務所 弁護士
  堀場 真貴子(ほりば・まきこ)

  2019年中央大学法学部卒、2021年一橋大学大学院法学研究科法務専攻修了。2022年弁護士登録、のぞみ総合法律事務所入所。
 独禁法・下請法・景表法・フリーランス法等を含む企業法務全般を取り扱う。

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