2023年民放連賞審査講評(ラジオ報道番組) 「音のメディア」の可能性を再確認

藤代 裕之
2023年民放連賞審査講評(ラジオ報道番組) 「音のメディア」の可能性を再確認

8月17日中央審査【参加/34社=34本】
審査委員長=藤代裕之(ジャーナリスト、法政大学社会学部教授)
審査員=錦光山雅子(フリーランスライター)、三谷文栄(日本大学法学部准教授)、山本康一(三省堂辞書出版部部長兼大辞林編集部編集長)

※下線はグランプリ候補番組


中央審査に各地区から選ばれた7番組のうち、4番組が戦争をテーマにしており、3番組は太平洋戦争を、残るひとつはロシアのウクライナ侵攻を取り上げていた。敗戦から80年近くになり太平洋戦争を直接知る人が少なくなり、戦争報道も変わらざるを得ない。どのように戦争を語り継ぎ、記憶を継承するかの工夫がみられた。

審査では、「ラジオ報道番組」にふさわしい内容であるか、多様性などの社会変化を踏まえているか、リスナーとして聴き取りやすいか、など多岐にわたる議論があり、ラジオの特徴である「音のメディア」の可能性をあらためて確認できた。

最優秀=北日本放送/KNB報道スペシャル 統一教会と富山政界(=写真)
安倍晋三元首相への銃撃事件をきっかけに社会問題となった政治と旧統一教会との関係が、富山にも深く入り込み、根を張っていることを明らかにする調査報道。地域メディアが地方政治に切り込む難しさがある中で、粘り強く取材したことに高い評価があった。番組が進むにつれて、点と点が結びついていくサスペンスのような展開、しどろもどろでインタビューに答える政治家、リスナーが何気なく聴き始めても引き込まれ、問題の深刻さを感じさせる構成だった。誰のために政治が存在しているのかを考えさせられた。

優秀=STVラジオ/先生たちが敵だった~夢を奪われた看護学生たち~
北海道立の看護学院で起きたパワーハラスメント事案について被害者だけでなく、加害者を含めて丁寧に関係者の声を取材した番組だった。個人の問題にするのではなく、教育機関は教える側と教えられる側という非対称な関係が故に、パワハラが起きやすいという構造を明らかにする姿勢が審査員に支持された。千葉県の看護学院においてもハラスメント問題が明らかになっており、同じような問題は各地にあることが想像できるため、全国につながる深掘りや展開が欲しいという意見もあった。

優秀=TBSラジオ/ドキュメント『萩上チキが見たウクライナ~見過ごされる声に耳を傾けて』
ラジオで社会問題を扱い続ける荻上チキさんがウクライナに入り、現地の人々の日常生活を取材した。砂利を踏みしめる音、取材途中で鳴り響くサイレンの音などが生々しい。ロシアのウクライナ侵攻では、ドローンやSNSにより報道が映像中心となりがちだ。大量の映像が溢れ「絵になり過ぎる戦争」だが、ラジオの音が戦争のある日常の近さを伝え、今生じている戦争に向き合う必要があると考えさせられる内容となっていた。荻上さんの考えをもっと知りたかったという要望があった。

優秀=信越放送/SBCラジオスペシャル 戦争を学び継ぐ~登戸研究所調査研究会
高校で平和教育に取り組んだ人たちが、戦争について主体性を持って語る姿をとおして平和を考えるという新しいアプローチを示した。加害者性に焦点を当てていること、自分たちの足元を掘り下げて地域に存在した戦争を見つめ直したことも評価が高かった。高校生だからこそ難しい話題が聞き出せるというジャーナリスト活動の可能性を感じる一方で、「活動の継続性や他地域で展開可能かの検証が欲しい」「丁寧なのは良いがリスナーに集中を要求する構成が残念だ」という意見があった。

優秀=京都放送/私は戦災孤児だった "駅の子"と呼ばれた私たちは、どんな存在だったのか
最もリスナーの興味をひいたのではないだろか。戦争孤児を経験した証言者が、ときに歌も交えながら情感を込めて語る声が心を揺さぶる。取材で確認できない証言を紹介しないこともあるが、この番組ではリスナーに直接証言者が語る手法を取ることで戦争孤児の生活が生き生きと伝わってきた。その良さを評価しながらも、審査では「『ラジオ報道番組』ではファクトが問われる」と議論になった。戦争孤児がどのような立場に置かれたのかという社会背景の説明があってもよかった。

優秀=山口放送/医療的ケア児とその家族 ~幸せへの支援、ひとつのかたち~
吸引、お風呂、アラートなどのさまざまな音を効果的に扱うことでケアが必要な子どもの暮らしをイメージできる、ラジオの特性を活かした番組だった。「医療的ケア児」という新しい言葉を扱うことで課題が人々に捉えられ、全国的に考える必要があるテーマであると感じられた。審査では登場する人物が母親に偏っていることが取り上げられた。難しいことは理解しているが、父親も番組で扱うことで、医療的ケア児をめぐる課題がより立体的に見えるのではないか、と期待する声があった。

優秀=琉球放送/RBCiラジオスペシャル 『ものが語る悲劇、対馬丸』
戦争の語り部が少なくなっていくなかで、戦争の記憶を継承する工夫があった。対馬丸の記憶を3つのモノからたどるという手法と構成が優れており、戦争とは市民の犠牲そのものであることを認識させられた。また、番組の聴きやすさにも評価があった。潜水艦ボーフィンのパネル展示のエピソードでは、モノを通じた記憶の継承が制度化していく過程が伝わり、未来を感じさせた。戦争はいろいろなかたちで社会に残っており、それをどう見つけていくのかが求められている。


・各部門の審査結果はこちらから。

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