【新放送人に向けて2025① 伊豫田祐司・中京テレビ放送代表取締役社長】これから人生で一番成長する時間がやってくる!

伊豫田 祐司
【新放送人に向けて2025① 伊豫田祐司・中京テレビ放送代表取締役社長】これから人生で一番成長する時間がやってくる!

2025年の春、放送業界に新たに仲間入りする新放送人に向けて、経営者や先輩たちからのメッセージなどを連続企画でお届けします。1回目は、中京テレビ放送の伊豫田社長に新放送人への期待やアドバイスをご自身の経験を踏まえて寄稿いただきました。(編集広報部)


新しく放送人となった皆さん、おめでとうございます。今の正直な気持ちは不安ですか? それとも期待にあふれていますか? それともその両方ですか?――

44年前の自分のことを白状すると、大きな将来像を描いているわけでもなく、自分に問いかけてみて「どんな仕事がやりたい? もしくはやれそうなのか?」と考えて、就職先を探した。本音を言えば「何か別世界っぽくて、面白そう!」という軽薄な理由でテレビ局を選んだ。そこには社会貢献したいとか、世界に羽ばたきたいとか、成長してビッグな人間になりたいとか、本当に人様に言えるような立派な抱負は何一つなかった。

現在入社面接をしていると、皆さん自身の成長イメージがあって、その中で会社がどういう役割が果たせるか、社会でこういった役割を果たしたい、そういう考えを持っている印象が強い。私がそう思うようになったのはかなり後のことなので、大きな差がある。

でも私同様に入社当時の意識がたとえ低かったとしても、気にすることはない、とお伝えしたい。というのもこれからの社会人生活の40数年、心構え一つで大きく成長できるからである。

私が自分の会社の入社式で新入社員に伝えていることは二つ。一つは「新入社員の時の心を忘れない」ことと二つ目は「学ぶ気持ちを持ち続ける」ことである。これさえ守れば必ずうまくいくと思う。

まだ見ぬ出会いが人生を面白く

特にテレビ局は、仕事上で多様な職種の方と出会い、刺激を受け、学ぶことができる仕事だ。20代に出会った学びは一生付き合えるものが多い。こうした学びこそが人生を豊かに、そして自身の成長を推し進めてくれる。今はまだ見えない出会いが必ずあなたの人生を面白くするので、期待を持って仕事に向き合ってほしい。そうした実例について自分の経験を例に挙げてみる。

私は44年間ずっと同じ会社で働いている。今時の尺度で言えば珍しいが、1981年当時は終身雇用が一般的だった。入社して最初は制作部に配属された。働き方改革という言葉のない時代の制作者、特にAD(アシスタントディレクター)は労働時間がとても長かった。やることがなくても会社にいる。先輩からの指示を待つためだ。当時は先輩について仕事を覚える、いわゆるOJTが主流なので、いつ仕事が終わるか分からないし、いつ休みが取れるかも前夜になるまで分からなかった。学生時代からの友人や恋人も離れていった。そして番組スタッフが家族同然となっていった。

この時期に私は生涯の趣味となる音楽に出会った。それは"クラシック音楽"だ。私のディレクターデビューは、地元文化に貢献するという崇高な目標で始まった名古屋フィルハーモニー交響楽団のレギュラー番組だった。

この番組、1回の放送で30分くらいオーケストラ演奏がある。このカメラ割りに大変苦労した。フォークソングは好きだったが、クラシック音楽は興味の範疇外だった私は、フルスコアの楽譜を見ながらカメラを決めていく作業に苦慮していた。指導教官として名古屋フィルの副指揮者の方にマンツーマンで付いていただき、「今、何を映すべきなのか」を叩きこまれた。クラシックの楽曲は流れているその時々に映すべき楽器が大体決まっていて、それを映していないと音楽ファンにはストレスがかかることを知った。指揮者をいつ映すべきか、これについてもポイントが明確にあることを知った。初めて知るノウハウの積み重ねを体得する日々だった。

副指揮者が指導教官という効果は素晴らしく、私は順調に成長を続けていった(らしい)。教え方がうまいので、クラシック音楽に対して興味がどんどん湧いてきてのめり込んでいくことになった。2年もたてば、すっかりクラシック音楽が大好きになっていた自分に気づくことになる。そしてその"好き"という思いは60歳を超えてますます加速している。一生楽しめる音楽と25歳の時に出会ったことは本当に良かったと思っている。しかも仕事がきっかけだったからこそ素晴らしい先生に直接教えをいただけたことは、幸運としかいいようがなく、番組との出会いに感謝している。

開局25周年記念番組「日中友好・千人の交響曲」名古屋の姉妹友好都市である中国・南京の芸術学院から100人が来日しマーラー「交響曲第8番」を演奏&大合唱。1995年 筆者は番組の演出を担当した。.jpg<中京テレビ開局25周年記念番組『音楽ドキュメンタリー 日中友好・千人の交響曲』1995年
名古屋の姉妹友好都市である中国・南京市の芸術学院から100人が来日し、マーラー「交響曲第8番 千人の交響曲」を演奏&大合唱。筆者は番組の演出を担当した>

仕事人生における出会いと成長の局面

こうした出会いと成長の局面が仕事人生において、いくつか登場する。もう一つ紹介したい。

40歳の少し手前のころだ、強面の局長にある時声をかけられ、「今度の〇曜日のこの時間空いているか? 空いていたらちょっと付き合ってほしい」と言われて行ったのが大クライアントの宣伝部長との会食の場だった。

その会話の中で「海の日に地球環境の番組をやりませんか?」という提案の事前交渉の場となっていたことが途中から分かってきた。帰社してすぐに局長は「分かっていると思うけど、すぐに企画書を作る作業に入ってほしい。ついては締め切りは2週間後な。たっぷり余裕を取ったスケジュールにしたから」と言い放った。そんな無茶なことを......。

当時のテレビ界は無茶なことが多かった。不思議なことにそういう状況に置かれると人はなぜか燃えるということも知った。「あれ、僕はこういうキャラクターではないはずだったが......。」上司に引っ張られて新しい出会いが訪れ、新しい経験の扉を開けた瞬間だった。

企画書を作るためには海と地球環境問題について理解を深めなければならない。しかも急速に、だ。知り合いのつてを手繰って東京大学の海洋研究所(当時)に出入りするようになった。基礎知識を伺い、先生と飲んで"海洋研究業界の今"を教えてもらった。近くではNHKの海を専門とする担当ディレクターが2年に1本くらいのペースで制作するため、学会などにも丁寧に出席し、研さんを積んでしっかりと番組制作をしているというのに、民放の私はレギュラーでバラエティ番組のプロデューサーをやりながら、環境問題の特番を制作するという荒っぽい仕事ぶりだった。でも民放は仕方ない、こうしたやり方でも本質さえ外さなければと心に決めて、とにかく追いつくんだ、という一心でそれっぽい本を片っ端から読破して、何とか環境問題の本丸は地球温暖化であることを理解するに至った。

地球の表面積の7割は海。地球温暖化は海を見ると分かる。海と人間が美しい環境の中で生活しているエリアを紹介して、こういった奇跡的な美しい地球をずっと守っていこう、そういうコンセプトで番組作りを始めた。最初は切り口として海流を選んだ。寒流と暖流である。それぞれの恩恵に預かる人間の暮らしを求めて世界中を飛び回った。

「海の日特別番組~豊漁なる海をゆく!感動!地球さかな大紀行」パプアニューギニアにて漁に同行 2000年(白いシャツが筆者).jpg<『豊漁なる海をゆく!感動!地球さかな大紀行』2000年 パプアニューギニアにて現地の漁に同行、白いシャツが筆者>

この番組は少し形を変えているが、年に1回、もう20年以上続いている。私はこの時の出会いによって大きく成長させてもらったと感じている。まず世界中の辺鄙な場所にたくさん訪れる経験ができた。ドアのないヘリコプターでの移動や壊れそうな小舟での移動、信じられないほどの星空、透き通る海、削られる海岸線、有無を言わさぬ森林伐採の前線、一生を船の上で暮らす海洋民族......それらは以降の自分の生き方に対する考え方を変えた。

また、みっちり環境、特に地球温暖化について学んだ蓄積を持って、現在は会社としてSDGメディア・コンパクトに加盟している。17ある目標のうち、自分たちがテレビ局として貢献できるものとして温暖化防止を選んで、全社の活動方針とし、地元において情報を発信していることに大変役立っている。これだけの猛暑になった日本、何をおいても温暖化防止、この方向性は間違っていないと痛感している。

プロギング(ゴミ拾いとジョギングを掛け合わせたスポーツ)に参加する筆者 2024年.jpg

<プロギング~ゴミ拾いとジョギングを掛け合わせたスポーツ~に毎年参加 2024年>

テレビ業界の醍醐味

仕事をしながら、新しいことを学べて、自身が成長できる。これが社会人、特にテレビ業界は多様な出会いがあることが醍醐味であり、幸福さだと考えている。皆さんはどんどん新しい人間や仕事との出会いによって成長していくだろう。壁に当たったときは成長痛と思ってほしい。その成長痛が無くなる頃、あなたは元のあなたではなく新しいあなたに確実になっている。

最後に私が普段若手社員に話すことを紹介する。
仕事を通じて生きる人生は山登りに似ている。最初は沢に沿って樹木が生い茂る道を歩く。この時点では視界は良くない。無我夢中で歩いていって、ある高さを超えると鬱蒼と茂っていた樹木は少なくなり、視界が広がってくる。そうすると目的地(目標や夢のようなもの)にたどり着くためにはこの道しかなかったと思っていたら、実は別のところにも通じる道があることを発見する。それが分かると課題解決や仕事のやり方、人生の岐路における選択も答えとやり方は複数あることが目に見えて分かるようになり、考え方に自由度が持てるようになる。こうなると人生はかなり楽しくなる。

新人の皆さん、今からの人生、最高に楽しい時間がやってくる!

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<中京テレビ本社前にて>

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