【新放送人に向けて2023④ 川崎健太・テレビ西日本報道部】記者のチカラって何だろう

川崎 健太
【新放送人に向けて2023④ 川崎健太・テレビ西日本報道部】記者のチカラって何だろう

自ら取材し自分の言葉で

入社以来、報道畑で記者歴15年。今は福岡の夕方ニュース番組『報道ワイド 記者のチカラ』でメインMCを務めています。記者として毎朝取材に行き、放送開始ギリギリまで原稿執筆やスタジオ展開の調整、そして夕方からはキャスターとして取材実感を伝え続ける日々です。

他局の多くが、情報やグルメを主体とした番組で夕方枠に臨むなか、私たちは報道に特化した3時間のワイド番組を貫いています。記者が取材し、自分の言葉で伝える。これがモットーです。もちろんうまくいかないこともたくさんあります。試行錯誤の日々ですが、最高に充実した毎日を送っています。やはりテレビ記者の醍醐味は、最後に自分がアンカーとして伝えることで、世の中にダイレクトに問いかけ、わずかでも社会を変えるきっかけを生み出せることではないでしょうか。

報道の三段活用「伝える、問う、そして変える」

行政機関や捜査当局の「発表」を受けて、それを事実として伝える。これはメディアの大切な仕事です。一方で報道の本質は、そうした発表に依存しない「調査報道」にあると思っています。独自取材によって公人やそれに近い人の不正を暴き、社会を変えるという役割です。その意義を強く実感した経験があります。

2017年、私は同僚とチームを組んで「福岡市の屋台公募」について取材を続けていました。当時の福岡市では、屋台を観光資源とするために新たな営業者を広く募る取り組みが始まっていました。その取材過程でわれわれが覚知したのは「選ぶ側」の不正。ある選考委員が書類選考や面接において、特定の応募者のみが有利になるよう便宜を図っているのでは? という疑惑をつかみました。その選考委員へのインタビューで私がこの疑惑を追及。その結果、本人が市に対して自ら不正を報告したのです。放送後、市は「屋台公募をやり直す」ことになりました。

これこそが、「真実を伝えて、世に問いかけ、社会を変える」ということです。われわれの取材がなければ、こうした不正が明るみにならなかった可能性もあるわけです。また、そうした報道で不幸な人を一人でも救えるかもしれません。一方でこれが報道のチカラでもあり、時としてそれが鋭い矛となって一部の人の生き方を変えるケースもあります。この点を決して忘れないようにしています。大きな影響力は、同時に大きな責任をはらんでいるのです。

互いの利益となるために

2018年夏からフジテレビ系列の海外特派員としてソウルに赴任しました。韓国特派員を務めた人は、全員がこう言います。「自分の時代は、激動だった......」。例に漏れず、私もそうでした。赴任直後、いわゆる徴用工問題をめぐる韓国の最高裁判決が下され、日本企業には多額の賠償を命じられました。これを契機に、日韓関係は戦後最悪と呼ばれる時代に入ったのです。

歴史認識の違いという目に見えない溝に苦しんだ時期もあります。取材中に反日団体から脅迫まがいの言葉を浴びせられたり、署名記事を韓国メディアから名指しで批判されたり......。ただ当時の韓国関連の記事は、あまりに反響が大きかったのです。

手前味噌ではありますが、私が「韓国向け輸出管理強化から2年」というテーマで解説した動画は、YouTubeで1,000万回近い再生数を記録しました。これは決して私の分析が優れていたわけではありません。法的論理や国際ルールから逸脱した対応を取る韓国政府への批判に、胸のすく日本人が数多くいたというだけです。自戒の念を込めて言うと、当時の日韓メディアは議論の機会を生み出すという報道の本分よりも、自国民のカタルシスを生み出すことに躍起になっていたように思います。私は、くすぶり続けた日韓という火種に少なからず油を注ぎ続けた一人であるという認識を持っています。果たして、自らの報道が日韓双方の利益となっていたのだろうか。今も自問自答は続いています。

日本大使館前の集会@韓国.jpg

誰か一人でも幸せに

そうした経験もあって、私の仕事の基準は明確です。記者のチカラによって、一人でも多くの人が幸せになるといいな。そう思っています。すごく単純で、きれいごとに聞こえるかもしれませんが、結局これ以上でも以下でもないのです。そして、どうにかそのきっかけを作りたいと思って、毎日現場へ行っていろんな境遇の人たちから話を聞き、私なりに咀嚼してカメラの前で伝え続けています。


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