【新放送人に向けて2023②】いまなぜテレビなのか 若手制作者の挑戦~塚田祐之の「続・メディアウォッチ」⑫

塚田 祐之
【新放送人に向けて2023②】いまなぜテレビなのか 若手制作者の挑戦~塚田祐之の「続・メディアウォッチ」⑫

まもなく4月。テレビ放送開始70年の今年、放送界は新たな放送人として第一歩を踏み出す若者たちを迎える。コロナ禍が3年余り続き、これまで当たり前だと思っていた日常がことごとく奪われた日々。ロシアのウクライナ侵攻による戦闘が長期化し、"戦争"を身近なものとして実感せざるをえない不確実性の時代。こうした経験をしてきた若者たちは、「放送」を通じて人々に何を伝えたいと考えているのだろうか。

「テレビ」をめぐる環境も激変している。YouTubeをはじめさまざまな動画コンテンツがあふれ、誰もが制作者となり一人で発信できる時代だ。さらに、Netflixをはじめとしたドラマや映画、アニメ等のコンテンツを配信するオンデマンド動画サービスとの間で視聴時間の奪い合いも始まっている。

いまなぜテレビなのか。スマホ・ネイティブ世代の若手の制作者は何を考え、地域でどんな番組を制作しているのか。その答えを知りたくて「全国制作者フォーラム2023」(=写真)の会場へと向かった。

3年ぶりに開催された「全国制作者フォーラム」

地域の民放とNHKの番組制作者同士が、組織の垣根を越えて交流を図り、研鑽を深めようという目的で始まった「制作者フォーラム」は、放送文化基金と地域の放送局が共催して今年で27年になる。

コロナ禍でここ数年、中止が相次いでいたが、今年度は北日本、北信越、愛知・岐阜・三重、中・四国、九州・沖縄の全国5地区でそろって開催された。若手制作者による「ミニ番組コンテスト」には、夕方のニュース番組で放送された特集などを5―10分程度にまとめた作品が5地区あわせて172本寄せられ、地区ごとに第一線の番組制作者による審査と講評が行われた。

その締めくくりとなる「全国制作者フォーラム」は3年ぶりの開催となり、2月18日に東京で開かれた。会場では、5地区で選ばれた3作品、あわせて15作品が上映された。いずれも各地区で最優秀賞や優秀賞を受賞した作品だけに、テーマや内容に制作者の意気込みが感じられ見応えがあった。

上映の後、制作者に対して3人のゲストから直接、作品の内容や番組の意図、制作者の思いについて率直な質問がぶつけられた。3人のゲストはドラマ、バラエティ、報道のそれぞれの分野の最前線で活躍しているテレビ制作者だけに、指摘やアドバイスが具体的で、久しぶりに対面で制作者同士が交流できる貴重な機会となった。

テレビ70年 変わらないこと、変わってきたこと

私はフォーラムで上映された15のミニ番組を見て、テレビが70年たっても変わらないことと、変わってきたことを実感した。変わらないことは、とりあげたテーマだ。病気や障害と闘いながらも前を向いて生きる人々を取り上げた作品、ラーメン店の閉店やドラフト会議など「いつもではない1日」を描いた作品、80年前の戦争への思いやコロナ禍の家族の日常を取り上げた作品もある。若手制作者が、放送が忘れてはならない普遍的なテーマに関心を寄せ、いまの視点を意識しながら取材、制作に取り組んでいる姿を強く感じた。

中でも、CBCテレビ『チャント!「悪魔の病と闘うウーバー配達員」』は、記者が注文した際に配達員から届いたメッセージから取材が始まったという。それは、事前に病気のことを知らせる内容だった。自分の意思とは関係なく15秒に1回くらい大きな声が出てしまう「トゥレット症」という難病と闘う青年は、まわりの人を驚かせないようにと気を配りながら配達員を続けているが、複雑な思いを抱えている。番組は、将来は同じ病気の人が気にせずに通えるお店を作りたいという夢に取り組む青年の姿に寄り添いながら丁寧に日常を描いていた。

北海道放送の「今日ドキッ!『LGBTカップルの妊娠 小さな命のメッセージ』」は、取材相手との厚い信頼関係を築き、難しいテーマに正面から取り組んだ作品だ。"心が男性同士"というカップルに宿った小さな命を軸に、2人の生き方や思いに迫った。見ていてさまざまな疑問が浮かぶが、それを超えて、生きることは何かを問いかける番組だ。

いずれの作品も、取材相手に頻繁に会うことができるという"地域ならでは"の利点を生かし、継続的に見つめ、信頼関係を深めながら番組を制作している姿勢が伝わってきた。

一方で、変わってきたことは、映像表現の豊かさではないか。いまはテレビ取材用のカメラはもとより、デジカメ、小型カメラ、スマホカメラ、ドローンカメラなど、多様な撮影機材があり、選択肢が広がっている。スマホ・ネイティブ世代の動画に対する感性と相まって、映像表現が豊かになってきたことを今回の15作品からも感じた。

カメラを意識させないように小型カメラを使って、あおりの構図でとったインタビューは相手の警戒心を解き自然な会話が記録されていた。また、狭い場所に複数台の小型カメラを取り付け、連続で映像を撮り続けることで日常をよりリアルに描こうという手法が地域放送局にも広がってきていることを感じた。さらに、映像と音とスーパーだけで、地域の秋や冬を描こうと挑戦した意欲的な作品もあった。

半面、せっかく表情豊かに撮影できた映像に、文字やタイトルスーパーの多用や、スタジオキャスターの顔のワイプを乗せ続けるなど、効果が半減している作品もあり、番組を送出するまでの目配りが欠かせないことがゲストの制作者からも指摘された。

伝えることと、伝わることの難しさ
~私の新人ディレクター時代の経験~

昔の話になる。いまから48年前の1975年、私は新人ディレクターとしてNHK徳島放送局に赴任した。主な仕事は朝7時台に放送していた15分の地域放送番組を月に2-3本取材し、制作することだった。徳島は初めての土地でゆかりもなく、ネタ探しに追われる日々が続いた。徳島では県内唯一の民放テレビ局、四国放送の『おはようとくしま』という番組が圧倒的に多くの県民に見られており、連日30%を超える視聴率を記録していた。

同じ土俵では勝ち目がないと、あえてこちらは「よそ者の眼」でネタを発掘し、別の視点から伝えたいと県内各地を取材に走りまわった。そんな中で出会ったのが、「ザ・レインボーズ」という6人の音楽グループだ。彼らは筋ジストロフィーという難病と闘う若者で、筋力が衰え握力が1キログラム以下にまで低下したメンバーがいるため楽器演奏が難しくなり、翌年のコンサートを最後に解散するという話だった。

ぜひ彼らの最後のコンサートまでの日々と思いを、「彼らの視点」で描きたいと考えた。私は半年余り、テレビ制作者を名乗らずにボランティア活動を続けた。信頼関係が深まった頃、彼らに番組を一緒に作ろうと相談し取材を始めることができた。

取材を進め直面したのはボランティアの経験から、機能訓練をはじめ彼らの日々の生活が、日常的なことに見えてしまい、他の人々に伝えたい新たな発見をすることが難しくなっていったことだった。そんな時に、同じ最後のコンサートを取材したいと東京のNHKから連絡が入った。『若者たちはいま』という全国放送の番組が、女優の壇ふみさんをリポーターにして取材するということだった。視点が違うとはいえ、結果的に二つの番組が同時に同じコンサートを取材することになった。

放送後、二つの番組を一視聴者として冷静に見て感じたことがある。「伝えること」と「伝わること」の違いだ。取材者と取材される側の思いを一つにして伝えようとした私の番組は、新人としての力量不足もあって、彼らの思いをストレートに表現できていなかったことに気がついた。一方で、「若者たちはいま」は取材者に徹しており、彼らの思いやコンサートの感動が伝わる番組だった。

伝えることと伝わることの難しさ。いまも考えさせられる新人時代の経験だ。

2023年の新放送人へ

放送からメディアへ、番組からコンテンツへ。インターネットを通じたさまざまな動画サービスが本格化するとともに、放送業界でもこれまでの「呼び名」が変わってきたように思う。

今年、放送人としてスタートを切る皆さんはその渦中にある。放送業界ではこれまでも長い間、「若者のテレビ離れ」が指摘され、その活路としてネットを通じた同時配信、オンデマンド、独自コンテンツなどの取り組みが進められてきた。

もっとネットに注力すべき時代だという考え方もある。だが、放送もネットも伝えるための一手段だ。すべての基本は人々の知りたいに応える正確な情報や、豊かな番組、コンテンツの中身にあると思う。新放送人は何よりもまずテレビ、ラジオを舞台に、取材力、制作力を磨いてほしい。

そのためには、いまなぜ、何が問題か、新しさは何か、社会的な価値は何か、人々にとっておもしろい興味深いことは何かなど、さまざまな視点からテーマを掘り起こし、伝えるための新たな挑戦が必要だ。

マーケティングやAIは分析ツールとしては有効だが、それだけではなかなか新たな発想は生まれない。多くの人に会い、取材現場で数多くの経験を積み、世の中の動き全体を見ながら、半歩先を行く発想を持ちたい。これが、私がこれまで心がけてきたことだ。

放送開始から今年でラジオは98年、テレビは70年を迎えた。しかし、決して「オールドメディア」ではないと私は考えている。日々伝えるべき放送の内容は変わり、いまと向き合った情報や番組が届けられている。しかも、多くの人々が信頼を寄せているメディアだ。それだけに責任が重い。

2023年の新放送人には、創造性豊かな挑戦を続けて、放送の新たな未来を切り開いていってほしいと願っている。


※各地区の「制作者フォーラム」と「全国制作者フォーラム2023」の詳報は、こちらから。

※連続企画「新放送人に向けて」の記事まとめは、こちらから。

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