【新放送人に向けて2025③ 大八木友之・毎日放送東京報道部長兼解説委員】いまこの時代にテレビ報道人となるあなたへ

大八木 友之
【新放送人に向けて2025③ 大八木友之・毎日放送東京報道部長兼解説委員】いまこの時代にテレビ報道人となるあなたへ

2025年の春、放送業界に新たに仲間入りする新放送人に向けて、経営者や先輩たちからのメッセージなどを連続企画でお届けします。第3回は、毎日放送・東京報道部長兼解説委員の大八木友之さんに、報道の最前線で働く心がまえを教えてもらいました。(編集広報部)


「テレビに騙された」「あなたたちは嘘をついていた」

これは2024年11月の兵庫県知事選挙で再選された斎藤元彦知事を支持する人たちから投げかけられた言葉です。神戸市内の街頭演説会場で声をかけ、知事をなぜ支持するようになったのかなどを尋ねたところ、多くの人からテレビ報道に対する厳しい意見をぶつけられました。正直ショックでした。

これまでも報道内容をめぐり直接、間接的に批判を受けてはきました。しかし、今回ばかりはちょっと違いました。ふだん政治や選挙に大きな関心を払ってこなかったであろう人たちが、こちらの目をまっすぐ見てテレビへの不信感を口にしました。放送や報道に対する「不信感」や「違和感」が「否定」という形になってはっきりと現れたなと思うと同時に、この外圧を受けてメディアが変わらなければ「否定」は「無視」に変わってしまうのではないか。そんな怖さを感じています。(冒頭写真は兵庫県知事選街頭演説のようす。2024年11月15日(神戸・JR垂水駅前)筆者撮影)

みなさんはそんな厳しい時代と環境の大海原に勇敢にも飛び込んできました。ここでは兵庫県知事選の分析や、選挙報道のあり方はおくとして、この時代にあえて放送局の門を叩いてくれた若き勇者たちに向けて、変化を迫られる放送局、なかでも報道という仕事について書かせてもらいます。

学びにあふれたやりがいのある仕事です、保証します!

私自身は1997年4月、毎日放送(MBS)にアナウンサー職で採用されました。もっとニュースにどっぷり浸かりたいと2009年に報道局へ異動、夕方のニュース番組のキャスターや海外特派員を経て2023年7月からは東京報道部で管理職と解説委員の二刀流で活動しています。先日、50歳を迎えましたが、自民党の政治資金パーティーをめぐる「裏金」事件や東京都知事選での"石丸現象"など国会や永田町を中心に現場を歩き、ニュースを出しています。

仲間の若い記者たちのスマートかつスピーディーな動きと現場判断に脱帽し、政治記者として経験を積まれた諸先輩の蓄積の深さと表現の巧みさに日々ひれ伏しています。加えてインターネットやSNSなどニュースの情報源や出し場が目まぐるしく変わり、増えていく時代の要請と趨勢に翻弄されてもいます。

しかし、おじさん記者として日々、学びに満ち溢れ......。いつまでも成長できる仕事だなとも感じています。時に厳しい批判も多々受けます。うまくいくことのほうが少ない、100点のない世界です。でも、決して悲観せずにいまみなさんが抱いている高い志を忘れずにいればとてもやりがいのある仕事です。これは保証します。

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<海外特派員時代にバチカン市国サン・ピエトロ大聖堂前で>

変化を恐れず新しいニュースの形を創ろう‼

インターネットによる技術革新で情報に接触するデバイスはテレビからスマホなどへ移り変わりつつあります。そのハードによる荒波はソフトにも及んでいて、もはやSNSを通じて一般の人々が自らの視点で主張をどんどん発信しています。報道に携わる私たちはニュースの伝え方を根本的に変え、伝わり方に敏感にならなければなりません。

私が若い頃のようにメディアが「これが俺たちのニュースだ」と上から目線で押し付けても視聴者が発信者となったいま、通用しません。視聴者におもねるわけではありませんが、これまで以上に世の中の関心事に謙虚に真摯に向き合い、不透明な事象に対して臆せず切り込み本質を伝えていかなければなりません。ネットの世界では当たり前な双方向性、いわば視聴者の息づかいにあわせるように共にニュースや放送を創っていくことが求められています。われわれの大先輩も新メディアや技術革新といった時代の荒波に迫られるたび、苦しみ、考え抜いて新たな地平を切り拓いてきました。デジタルネイティブなみなさんが持つしなやかさとしたたかさで報道や放送の世界をさらに強く進化させてくれると期待しています。

就職氷河期世代の私が就職活動をしていた頃、マスコミやテレビは人気業界の一角を占めていました。しかし、いま往時の人気や注目は悲しいかな、ありません。いまの学生の人気業界とえいば総合商社や外資系コンサルタントなどになるのでしょうか。でも例えば商社は私が学生の頃、人気がなくはありませんでしたが、いわゆる仲介型ビジネスは将来的に縮小傾向にあるのではないかという評価も囁かれていました。

あれから約30年、大手の商社は就職人気ランキングに君臨し、人もうらやむ給与水準を維持しています。そうした評価は何の努力もなしに得られたわけではないはずです。この間、商社が担ってきた役割が依然として世の中に必要であることが認識されるとともにビジネスの形態、あり方で変えるべきところはちゃんと変えてきたのではないでしょうか。つまり時代にあわせて変化を遂げてきたのです。

翻って私たち放送局、テレビの報道はどうでしょうか? 役割やニーズが無くなったのでしょうか? そんなことはありません。世論を形成するパワーや全体としての視聴率、広告収入は落ちたかもしれませんが、それでも十分に影響力は保っています。現にみなさんのような新人が取材して書いた原稿や作った番組がいきなり何十万、何百万の人々に届くのです。

報道や番組制作は情報という血液を流す「一次産業」

私たち放送局やテレビは情報産業の一翼を担っています。なかでも報道や番組制作は情報という観点で言うと農業や漁業のような一次産業にあたると考えています。食料が枯渇し飢餓となれば死に絶えてしまう人が出るように、一次情報が途絶えれば世の中の動きや変化が伝わらず、もしもどこかの国のように情報が統制されてしまえば、たちまち誤った方向へ突き進んでしまうかもしれません。ニュースや情報は世の中の血液であり、その血流を止めてはならないのです。正しく的確なタイミングで誰にでもわかりやすく情報を伝えることで、世の中の血液を流す機能を持った放送という一次産業の評価を上げていかねばなりません。変化を恐れず努力を怠らなければテレビや放送局は「愛される老舗」にはなれるのです。

ニュースや報道、放送は何のためにあるのか? 私見ですが、大げさにいうと戦争を起こさず平和を保つためにあると考えます。正しく分かりやすく情報を発信し、人知れず苦しんでいる人々に光をあて、楽しく興味深い番組で社会に活力を生み出す。その営みを続けていくことが突き詰めるとささやかながら世の中を平和にすることにつながるのではないかと思っています。どうか日本と世界の平和のために存分にみなさんの力を使ってください。

ようこそ情報の世界へ! いつかどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

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