信越放送が制作した『私の中のかけらたち~虐待を生きる22歳~』が、2月11日(土)を中心に民間放送教育協会(民教協)に加盟するテレビ33局で放送される。加盟局から寄せられた企画を映画監督の森達也さんらが審査し、毎年1作品を番組化する「民教協スペシャル」の37回目。
ディレクターは、第37回「地方の時代」映像祭のグランプリ受賞作『SBCスペシャル かあちゃんのごはん』(2017年)や、『同 ふたりだけの部屋』(2020年)を手掛けてきた同社報道部の中村育子氏。物心がついた頃から母親による虐待を受けてきた22歳のさくらさん(仮名)を約2年にわたって取材し、傷ついた過去を抱えながら"保健室の先生"として働き始めたさくらさんの姿を追った。
厚生労働省によると、2021年度に全国の児童相談所が対応した虐待相談は20万7000件を超え、過去最多に。中村ディレクターは1月20日にテレビ朝日で開かれた完成披露試写会で、「ニュースにならない虐待は見えづらく伝えづらい。子どもを育てることや、自分の隣にいる人への想像力を少しでも感じ取ってもらえれば」と制作の狙いを語った。
夕方ニュースなどでのオンエアを積み重ね、それを番組化する事例は多いが、本企画は一度もオンエアしていないという。「取材中はずっと気が張り詰めていた」と中村ディレクター。撮影としてクレジットされたスタッフ2人はいずれも女性で、自身もカメラを回した。「できるだけさくらさんの日常を撮りたいと思い、仲良くなれる雰囲気を意識した」と背景を明かした。
番組では、顔と名前を伏せてさくらさんの母親にもインタビュー。虐待の背景に、母親とさくらさんの祖母との関係が関わっていることを深掘りした。「(母親への)取材交渉は簡単ではなかった。さくらさんと母親、それぞれを取材し、目の前の人の気持ちを汲むのに苦労した」(中村ディレクター)。当初、企画段階では母親への取材は想定していなかったことから、審査委員は「母親も虐待を受けていたのではないか。圧倒的な悪、怪物として描いてはいけない」(星野博美氏)、「このままではモンスターになってしまう。母親がどういう人かも出して」(森氏)と指摘。試写を見た森氏は「見事に応えてくれた」と称賛し、星野氏も「さくらさんがこの番組を見たとき、明日につながるようになるといいと思っていた。まさにその形になっていた」と評価した。