【メディア時評】道上氏の45年を引き継いで ABCラジオ"朝の顔"が交代 パーソナリティも働き方改革

森 綾
【メディア時評】道上氏の45年を引き継いで ABCラジオ"朝の顔"が交代 パーソナリティも働き方改革

この3月で45年目となるはずだったABCラジオ「おはようパーソナリティ 道上洋三(どうじょうようぞう)です」。月~金曜朝6時半開始の生ワイド番組は「いつもの朝」という道上のキャッチフレーズとともに、阪神・淡路大震災のときもリスナーの心の支えとなった、同局の金字塔のような番組だ。

しかし昨年9月11日に道上が脳梗塞で倒れ、言語機能にリハビリが必要という事態になった。今年3月いっぱいは番組名を変えず、ピンチヒッターで局のアナウンサーが次々と登場した。そしてとうとう、4月改編では番組名からその「道上洋三」の文字が外れた。
 
同局の小川鉄平プロデューサーは、悔しそうに語ってくれた。

「車椅子でも、横になってでも、毎日じゃなくて、ちょっとだけでも道上さんには出てもらいたかったですよ。ご本人も一生懸命リハビリされていて、当初よりずいぶん良くなられているのですが、やはりしゃべれないのは辛いです」

電話の向こうで、小川の涙ぐむような声に、思わずこちらも胸が熱くなった。取材で何度か、彼らスタッフがいかに道上と長い時間をともにし、家族のようにふれあいながら番組をつくってきたかを見たことがあったからだ。

番組が生放送されるいつもの朝は、午前2~3時という時間にスタッフは待機し、道上も3時起きでスタジオ入りする。夜は夜で、コンサートや阪神タイガースの取材に赴く。多くの祝日が番組イベントで埋まり、生活そのものが「おはようパーソナリティ」である。

道上はもう一つのレギュラー番組「健康道場」で、東京に日帰り出張する日もあった。いくら仕事が楽しくても、70歳を超えた体には負担があったのではないか。

小川にも思うところがあったに違いない。新番組は月~木曜の「おはようパーソナリティ 小懸(おがた)裕介です」と、金曜の「おはようパーソナリティ 古川昌希です」となった。そして「祝日は休む」という新方針を掲げた。小川は語る。

「リスナーの皆さんにいつもの朝を届け続けるのがこの番組の務めなのではないかという思いも深くありました。でも、その前にパーソナリティ個人がいかに生きるか、という大前提もあります。その人の生き方を守りながら、番組をつくっていきたいのです」

小懸は1971年生まれ。スポーツ実況を中心にしてきたアナウンサーで、長いキャリアのあるその仕事も継続したいという意向があった。また、プライベートでは共働きの妻、2人の娘をもち、高齢の母親とも同居している。当然、家庭での役割も多い。

「多感な年頃の娘と休日をともにしたいという思いもあるでしょうし、高齢な母親と向き合い、妻と家事を分担したい意向もありました。小懸さんの思いを尊重し、『おはパソ』の勤務を月~木曜にして金曜はスポーツ実況という二刀流でやってもらいます。労務規定を遵守してなんとかこのスタイルを実現してもらいたい」
 
金曜日を担当する古川昌希は、1987年生まれ。ラジオの経験はほぼ皆無な34歳だ。彼に道上はこうアドバイスしたという。

「困ったときはリスナーに聞け」

人生の経験値はリスナーの方が上に違いない。そういえば、道上が「おはようパーソナリティ」を中村鋭一から受け継いだのも、古川と同じような年齢だった。

週1回登場の彼がどのくらい認知されていくのかは、ひょっとしたら「リスナーにどれくらい叱られるか」にかかっているかもしれない。そのくらいの気概で、頑張ってほしいと願っている。

どうやらこの「祝日を休む」論争は、局内で喧々囂々(けんけんごうごう)議論されたらしい。世の中は「働き方改革」が叫ばれているものの、24時間休みなく放送を続けている放送局では、なかなか思いどおりにいかないことも多い。局員がそれを全うしても、今度は外注される制作会社やフリーランスに皺寄せがいく危惧も、なきにしもあらずだ。

もう一つ、道上の偉業と相まって「休まず番組の顔であり続ける」ことの、理屈では語れない"リスナー吸引力"は真実でもあった。だがそれも、番組をやりながらホノルルマラソンに出場できたほどの体力があってこそだった。

パーソナリティが変わるのと同じように、リスナーも世代交代してゆく。そして、ラジオの聴き方もまた変わっていくだろう。人を大事にしながらどう思いをつなげていくか。新時代のリスナーとどこで共感を結ぶのか。「おはパソ」の新しい方針は、今後の放送そのものへも大きな投げかけになっていくだろう。もはや24時間働ける人は、いない。

(敬称略)

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